マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。
REUTERS/Eduardo Munoz
生成AI(ジェネレーティブAI)のゴールドラッシュが期待され、IT業界は興奮に包まれている。だが、マイクロソフト(Microsoft)を除いて、まだ盛り上がりはクラウド部門の売上増につながっていない。
クラウドコンピューティングの売上高の伸びは2023年、顧客のIT予算削減を受けて、歴史的な低水準にまで低下している。世界最大のクラウドコンピューティングサービス、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の売上高は過去2四半期とも12%増だったが、これは前年同期の伸びの半分以下だ。
AWSを追う2大クラウドサービス、マイクロソフトのAzure(アジュール)とGoogle Cloudも伸びが鈍化。Azureの7〜9月期の売上高は29%増だったが、前年の35%増から低下している(ただし、前四半期の26%増を上回った)。
Google Cloudの売上高は22%増、前四半期の28%増から低下し、同社はその要因を顧客の「最適化」、つまりクラウドのコストを削減する方法を模索したためとしている。
生成AIは、3大クラウドサービスが切望している売上増をもたらすとアメリカの金融業界は期待しているものの、アナリストらは大きな売上増を期待することは時期尚早と述べている。例外はマイクロソフト。同社はChatGPTを開発したOpenAIに数十億ドルを投資した。
「AIについては、企業向け投資はまだ初期段階というのが、ほぼ一致した見解」とUBSのマネージング・ディレクター、カール・キーステッド(Karl Keirstead)氏は投資家向けリサーチノートに記している。
マイクロソフトのクラウドサービス部門は、7〜9月期の売上の伸びの3%は生成AIによるもので、予想の2%を上回ったと述べた。OpenAIのテクノロジーで作られたバーチャルAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」などのサービスが売上を伸ばした。
マイクロソフトはOpenAIへの投資により、Copilotのような生成AIサービスのセールスで先手を打っている。それでもキーステッド氏のチームが調査したクラウドサービスの顧客たちは、AIで何をすべきかまだ理解できていないと回答している。あるクラウドサービスのパートナー企業はUBSに以下のように語った。
「企業はまだAIを理解しようとしているところで、われわれはAI戦略策定に参加させられている」
「実際の支出はまだ具体的ではなく、耳にする概念実証(PoC)でさえ、まだ企業にとっては遊びのようなものだ」
別のパートナー企業は、企業が熱心に生成AIの盛り上がりに参入する一方で、企業の経営陣は、AIに対する準備ができていないことに気づいているか、あるいは単にAIを理解できておらず、クラウドサービス事業者にとってはビジネスが難しくなっていると指摘した。
「多くの人々はFOMO(fear of missing out:機会を逃がすことへの恐れ)とFOJI(参入することへの恐れ)の間で立ち往生しているようだ」
「これが、いくつかのケースではちょっとした麻痺状態を生み出しており、意思決定に時間がかかっている」
さらにまた別のパートナー企業は、生成AIでいくつかはビジネスが成立したが、多くはないと述べた。
「まだ、ごくまれだ」
ウォール街のアナリストらはこうした支出の遅れの要因として、インフレ率の上昇、ロシアのウクライナ侵攻、そして新たに勃発したイスラエルとハマスの衝突など、依然として続く不透明な経済環境を挙げた。
RBCキャピタル・マーケッツのマネージング・ディレクター、リシ・ジャルリア(Rishi Jaluri)氏はリサーチノートに以下のように記している。
「マネタイズには長い導入期間が必要で、生成AIはほとんどの企業にとっては2025年までは重要ではないだろう」
さらに同氏は、投資家はIT企業の決算シーズンを迎えて「苛立っている」と付け加えた。
AWSは先週、大規模言語モデル「Bedrock」の一般提供開始を発表。Bedrockは、アンスロピック(Anthropic)やスタビリティAI(Stability AI)といったサードパーティープロバイダーが提供する多種多様なAIモデルへのアクセスを実現するものだ。
アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは26日の四半期決算説明会で、生成AIはまだ「初期段階」にあると語った。
「企業はまだ、どのモデルを使いたいか、どのモデルをどのような目的で使うか、どのモデルサイズを使えばレイテンシー(応答時間)やコスト面で望ましい成果が得られるかを学んでいる」
「我々の見解でただひとつ確かなことは、今後も変化のスピードは速いということだ」