「ゆるFIRE」を実践する管理人ちーさん。
chii_life
- 2022年1月に著書『ゆるFIRE』を刊行した「管理人ちー」さんは、33歳の時に運用資産が3000万円に到達し、いわゆるサイドFIREを達成した。
- その後は、自身のFIREスタイルを「ゆるFIRE」と称し、ブログ「アラサーdeリタイア」などで発信している。
- そんな彼女に「ゆるFIRE」の秘訣を伺い、4つのポイントにまとめた。
「楽に楽しく生きる」は、「ゆるFIRE」の実践者「管理人ちー」さんのモットーだ。
いわゆるサイドFIRE生活5年目を迎えた彼女は、人気ブログ「アラサーdeリタイア」を運営している。そのテーマは、「ミニマルライフ×副業×資産運用」だ。
「ゆるFIRE」とは、ちーさんの造語。「生活費の一部を好きな労働でまかなって、残りを資産運用収益でまかなう生活スタイル」を指す。つまり、働きながらも労働からの収入に依存しない、いわゆる「サイドFIRE」とほぼ同義。だが、ちーさんの経験に基づいた要素もあり、より日本人に実践しやすいFIREだといえるだろう。
2022年1月に著書『ゆるFIRE 億万長者になりたいわけじゃない私たちの投資生活』を刊行した彼女が、株式投資を始めたのは20代初めの大学生時代。そのきっかけは、「インターネットで何かをするという流行に乗っただけ」だったという。ネット証券が続々と登場し、個人でも気軽にネット経由で株式が買えるようになった時代だ。
「その当時は、投資に対する知識もまったくなく、投機との区別も付いていなかった」と語るちーさんは、子供の頃に貯めておいたお年玉等を使って、値上がりを続けていたIT銘柄を購入。一時期は数十万の利益を得ていたが、ライブドアショックによって大幅に下落。社会人となり忙しく過ごすうち、そのまま放置した結果、リーマンショックが到来し、一時は元本から60%の含み損を抱えてしまう。
しかし「株式投資の損は株式投資で取り戻す」と一念発起。そこからは、投資について自ら勉強を始め、本格的な株式投資をスタートした。26歳のころに含み損は解消してプラスに転じ、30歳代に入ると運用成績も安定軌道に乗ったという。33歳には運用資産が3000万円に到達し、そのタイミングで会社員を辞めサイドFIREを達成した。だが、資産形成の目的は、FIREではなかったと語る。
なにしろ、彼女が投資を始めたのは、FIREという言葉がまだ普及していない時代。その後、FIREやサイドFIREという言葉が広まったときに「仕事で収入を得ながら資産運用を行っている、今の私の生き方にまさに当てはまる」と感じたという。
そんな彼女が実践し続けてきた、「ゆるFIRE」の秘訣を4つのポイントにまとめた。
1. 資産運用は「人生の選択肢を狭めないための方法」
ちーさんの資産運用に対する目的は非常に明快だ。「お金を理由に何かを諦めるようなことはしたくない」という思いであり、「人生の選択肢を狭めないためには、資産形成が大切」だと語る。
「私が投資を始めたのは、まだFIREという言葉もないころでした。コツコツ貯金をしているよりも、株式投資に回すほうが資産が増えると気づいて、単純に資産を増やしてみたいという思いが先に立っていました」
現在の「ゆるFIRE」という状態も、初めから目指していたものではなかった。会社員としての仕事は楽しく、続けていくつもりだったが拘束時間が長く、当時すでに始めていたブログでの情報発信に時間を思うように使えなかった。そこで運用資産額が3000万円を達成したのを機に、会社員を辞めてフリーランスへと転身した。
そのときは、ブログからの収入が軌道に乗ってきたタイミング。そのため、退職後に生じる収入の不安定さや、年金額の減少といったリスクをある程度カバーできるめどが付いたからだ。
2. 「早期退職」よりも「経済的自立」を優先する
FIREという言葉は。「Financial Independence(FI:経済的自立)」と「Retire Early(RE:早期退職)」で構成されているのは、いまさら説明不要だろう。一般的なイメージだと、REの方がイメージが強いかもしれない。しかし、ちーさんの場合は「最初から、『RE』は目指していなかった」という。
「『FIREと言いながら働いている』と言われることもありますよ。でも、私の場合は仕事を辞めるために資産を増やすのではなく、自分の裁量で好きな仕事をする際のリスクを減らすために資産運用をしています」
さらに、ちーさんは「収入源を労働と投資とでハイブリッド化することによって、労働で思うような収入が得られなくなったとしても、資産運用から得られる収入でカバーできます」と、続けた。
事業や労働の収入と資産収入の2本立てとなる「ゆるFIRE」であれば、一方の収入が減ったときにも、もう一方に注力して減少を補填できる。また、市況の影響により資産が目減りしたり、自身が病気で働けなくなったときの影響を抑えられ、長い目で見たときの安心を得ることもできると、ちーさんは語る。
「実際にFIREの達成者を見ると、私自身も含めて早期退職を重視していない方が多いのではないか」と、ちーさんは見ている。両方を一挙に達成するのは難しいうえ、経済的自立さえ達成してしまえば、早期退職をするかどうかは後から考えればいいからだ。そのうえで、一番やってはいけないのが「早く仕事を辞めたいからサイドFIREをする」という選択肢だという。
「サイドFIREは、ある程度仕事の収入があるのが前提です。仕事を早く辞めたいから資産が足りないのにFIRE生活を始めてしまうと、やりたくない仕事を続けざるを得ない、本末転倒になってしまいます。サイドFIREにせよFIREにせよ、仕事を続けたいのか、または完全に辞めたいのかは先に考えて決めてほしいですね」
3.「4%ルール」よりも安全な「2.5%ルール」で
著書でちーさんが示した「2.5%ルール」も、長期的な生活の安定を考慮したものだ。
一般的にいわれる「年間生活費を、投資元本の4%以内に抑えることで、資産を減らすことなく生活できる」というFIREの4%ルールは、アメリカの過去の株価上昇率7%から、物価上昇率3%を差し引いた数値が根拠となっている。しかし、リーマンショック級の暴落が発生した場合には、4%を大幅に超える割合を取り崩さなければならなくなる。
ちーさんが提唱している「2.5%ルール」は、自身が運用する資産からの配当金が3〜4%だった経験が基になっているという。
「4%であれば資産が減らず現状維持できるという理屈ですが、私の性格上、現状維持よりも少しでも資産を成長させたいという思いがありました。3000万円に到達してから、4%を取り崩して生活費に充てるのは怖いですが、2.5%なら大丈夫かなと思い実践しました」
そのうえでちーさんは、「結果的には問題なく生活できたので、2.5%であれば、多くの人にも勧められると思い『2.5%ルール』というキーワードを使っています。2.5%であれば目減りするリスクを減らしながら、資産が増えていく楽しみも味わえます。私にとってちょうどいいラインだったのです」と、説明する。
4. 円預金は「円に投資しているのと同じ」と心得る
大学時代に投資を始めたのは日本株。ネット証券は普及し始めたものの、アメリカをはじめとする海外株式を気軽に購入できるところはほとんどなく、また、低コストの投信も少なかったため、日本株しか投資対象の選択肢がなかったという。
「投資についての勉強を始めるようになってから、経済成長率よりも資本収益率のほうが高いことも理解するようになりました。そこで『投資をするなら株式しかない』と思い、日本株への投資を続けていたのです」と、ちーさんは語る。「2014年ごろからは、海外株式の売買手数料が劇的に低くなったのをうけて、アメリカ株への投資へと切り替えました」
最近では、新規購入は全世界株式を対象としたインデックスファンドと、リバランス用にアメリカ株式や新興国株式のインデックスファンドだけに絞っているという。株式を保有している企業の業績や株価は定期的にチェックしているが、「株式も投信も入れ替えはほとんどせず、ほったらかし」だ。
投資へのシフトチェンジに大きな影響を与えた一つが、預金を投資方法の一つと考えたときに「円のまま保有していることのリスクの高さに気づいた」ことだと、ちーさんはいう。過去200年のトータルリターンをまとめたチャートを見たとき、株式だけが右肩上がりで、ドルの価値は低下傾向の横ばいだった。「ドルの価値でさえ下がっているのだから、円の価値は今後もっと下がるだろうと考えた」と、ちーさんはこう語る。
「円で資産を持っているのは、いわば円に投資しているのと同じです。円を使って生活しているとリスクがあると感じにくいのですが、データを見てみると、円安で価値は下がっているし、物価も上がっていますから、円の価値が下がっているのは確かです。預金はリスクが小さいように見えますが、資産を預金だけにするのはリスク分散の観点では一番危険なことだと思います」
「投資か預金か」という二者択一ではなく「資産全体を見わたして、預金以外にも資産を振り分ける」感覚が、「ゆるFIRE」へ踏み出す第一歩になるだろう。