KDDI・ソフトバンク・楽天らが猛反発。「NTT法の見直し」によって国民生活の何が変わるのか

会見の様子

10月31日の「NTT法を巡る議論に関する記者レクチャー」に登壇したソフトバンク執行役員 渉外本部 本部長の松井敏彦氏(左)、KDDI執行役員 渉外・広報本部長 岸田隆司氏(中央)、楽天モバイル渉外統括本部長の鴻池庸一郎氏(右)。

出典:KDDI

今、通信業界で最も白熱した議論が行われているトピックは「NTT法の見直し」についてだ。

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は10月31日、「NTT法を巡る議論に関する記者レクチャー」と題した会見を開いた。3社の渉外担当の代表者が熱弁を振るった。

3社は去る10月19日にも、NTT法の見直しに反発する電気通信事業者や地方自治体など180者の代表として会見。19日同日にはNTT自身も同様の会見を開いたため、再度、NTTの意見に対しての反論や指摘をする、というのが31日の会見の趣旨だ。

このような短期間で、競合3社が同様の声明を複数回発するのは異例だ。議論のポイントを整理し、消費者として注視すべき点を解説したい。

防衛費増額の原資に政府のNTT株売却を検討していることが発端

日本の通信自由化の成り立ちのスライド

NTT法の見直しを議論するにあたって、日本の通信自由化の歴史は重要な背景情報となる。

画像:筆者による発表会のオンライン配信のスクリーンショット

そもそもなぜ今「NTT法」が議論に上がっているのか。

NTT法とは、正式名を「日本電信電話株式会社等に関する法律」という。1984年に国営企業だった日本電信電話公社を民営化する際に制定された法律で、NTTの会社としてのあり方や義務、株式などを定めものだ。

そもそも今現在、我々がこうしたインターネットや通話といった通信全般を使えているのは、国営時代に25兆円(当時の貨幣価値)規模の投資で整備した数百万kmの光ファイバーケーブルや約7000の局舎、約1186万本の電柱といったインフラの上に成り立っている。

モバイル通信では、スマートフォンなどの携帯電話から基地局までは各事業者が整備しているが、ほとんどの場合はその基地局から先はNTT東日本・西日本の光ファイバーにつながっている。

現在の通信環境

現在の日本の通信環境は、税金を投入して作られた通信インフラの上で成り立っている。

画像:筆者による発表会のオンライン配信のスクリーンショット

税金を投入して構築したインフラを、各事業者が公正に活用するために、民営化後もNTT東西の分離や株式比率などがNTT法によって定められているわけだ。

NTT法のあり方をめぐる今回の議論の発端となったのは、政府の方針だった。自民党は防衛費増額の財源の1つとして、政府が所有するNTT株売却を検討している。

NTT法では以下の通り、株式比率も定められているため、政府がNTT株を手放すのであれば、当然NTT法の見直しが必要になってくる。

日本電信電話株式会社等に関する法律 第四条:政府は、常時、会社の発行済株式の総数の三分の一以上に当たる株式を保有していなければならない。

「e-Govポータル」より引用)

NTT法の見直しで国民生活に支障が出てくることとは?

3社が挙げるポイント

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが整理したNTTの主張とそれに対する考えの3ポイント。

画像:筆者による発表会のオンライン配信のスクリーンショット

NTTとしてはこの機会に、同社から見れば強い制限となっている古い条項を撤廃し、国内だけではなくグローバルでの競争力をつけていきたい狙いがある。

一方、通信事業者3社に代表される他社は、NTT法の見直し自体は否定しないものの、撤廃には猛烈に反対しているという状況が続いている。

10月31日に3社が改めて反論したポイントは以下の3つになる。

  1. 公正競争上の観点。NTTは電気通信事業法の規定で公正競争が保たれるとするが、3社はあくまでもNTT法での組織規定と、電気通信事業法での設備貸出のルールの両輪で構成競争が可能になるという認識。
  2. ユニバーサルサービス提供の観点。NTT法に定められた「あまねく義務」※1により、NTT東西は日本全国で電話提供義務を負っているが、これが撤廃されれば、NTTの経営的判断で不採算エリアは撤退できる可能性が出てくる。
  3. 外資規制の観点。NTTはNTT法によらなくても、外為法※2で外国資本から国内の通信インフラを守ることはできると主張するが、NTTの特別な資産は他の通信事業者と同列に扱えず、また外為法の強化は、対内投資を促進する日本の政策と不整合が生まれる。

ユニバーサルサービス

日本のあまねく場所で通話サービス提供するユニバーサルサービスも論点として上がっている。

画像:筆者による発表会のオンライン配信のスクリーンショット

もう少し具体的な例を挙げてみよう。NTT法が完全撤廃されることで、消費者に直接影響するものとしてNTT以外の事業者が挙げているのは以下のような点だ。

  • 公正な競争環境が失われること(例:NTT東西とNTTドコモの合併など)で、通信料金の高止まりや今後のイノベーションが失われる可能性。
  • 不採算エリアからの撤退が可能になることで、地方の限界集落などの地域で国民が通信サービスを受けられなくなる可能性。
  • 国のコントロールから外れて外資が入ることで、国家安全保障上のリスクが発生する可能性。

※1:日本電信電話株式会社等に関する法律 第三条:会社及び地域会社は、それぞれその事業を営むに当たつては、常に経営が適正かつ効率的に行われるように配意し、国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに、今後の社会経済の進展に果たすべき電気通信の役割の重要性にかんがみ、電気通信技術に関する研究の推進及びその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もつて公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない。(「e-Govポータル」より引用)

※2:外為法、正式名称は「外国為替及び外国貿易法」。日本と外国との間の資金や財(モノ)・サービスの移動などの対外取引や、居住者間の外貨建て取引に適用される法律のこと。(日本銀行ホームページより引用)

議論は平行線、11月には自民党が提言提出へ

ソフトバンク松井氏

「NTTドコモの子会社化も突然やられて不信感がある」と強く語るソフトバンクの松井氏。

出典:KDDI

NTTはいずれの点も10月18日時点で、海外の状況や足元の運営状況を鑑みつつ、反論・提案をしている。ただ、NTTとそれ以外の事業者間での主張は平行線を保ったままだ。

例えば、「NTT東西とドコモは今の所合併するつもりがない」というNTTの考えに対し、10月31日に3社会見に登壇したソフトバンクの松井氏は「口約束に過ぎない」と強く反発している。

こうした反応の背景には、長年のNTTと他の事業者間の競争・交渉環境だけでなく、2020年12月に実施されたNTTによるNTTドコモ完全子会社化から、2022年1月のNTTドコモによるNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの完全子会社化までの一連の「NTT一体化」が十分な議論を経ずに実施されたこともある。

ただ、前述の通り、与党の防衛費増額の指針によって、NTT法を見直すことは自体は既定路線となっている。

自民党では「『日本電信電話株式会社等に関する法律』の在り方に関するプロジェクトチーム」が発足し、8月31日に初回会議が実施。11月頃には提言を取りまとめて政府に申し入れをする予定だ

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