Arantza Pena Popo/Insider
ベン・フィチェット(23)は、寝室に閉じこもって仕事をすることがどれほど苦痛なことなのかわかっていなかった。
2020年に大学を卒業したフィチェットは、ニュージーランドの広報会社でアカウント・エグゼクティブとして働き始めた。週に4回オフィスに出勤し、そこで過ごす一秒一秒を楽しんでいた。
しかし2021年の初め、フィチェットは働き方をガラリと変え、ロサンゼルスに引っ越した。ロサンゼルスに着くと、会社からは完全なリモートワークになると告げられた。そこでフィチェットは、アカウント・エグゼクティブとして1日8時間、週5日、自分のアパートで働いた。この働き方を始めてまもなく、彼は孤独感に苛まれるようになった。
外向的な性格だと自称するフィチェットは、同僚とのデスク越しのおしゃべりやランチに憧れたという。交流がないことで、同僚とのつながりを充実させることができず、消耗しているように感じたという。
「四方を壁に囲まれて、閉じ込められているような気分でした」(フィチェット)
フィチェットはその後、時々オフィスに戻って働いているという。
「在宅勤務には飽きた」というフィチェット。
Courtesy of Ben Fitchett
孤独を抱える若者たち
フィチェットだけではない。若いビジネスパーソンの間では、長らく続いた在宅勤務がこじらせた孤独感が蔓延している。孤独感は自宅でも混雑したオフィスでも生じうるが、リモートワークが進んだことで、同僚とのつながりを維持することの難しさが増していることが調査で明らかになっている。
パンデミック時にオフィスワークからリモートワークに移行した6万人以上のマイクロソフト(Microsoft)社員を対象にした調査では、社員は在宅勤務にともなって「よりサイロ化」し、新しい人間関係をあまり形成できなくなったと感じたという。
求人情報サイトのグラスドア(Glassdoor)のチーフエコノミスト、アーロン・テラザスはInsiderの取材に対し、次のように指摘する。
「ここ数年のパンデミックによって、職場における社会的な孤立感が増したという認識が広まっています」
リモートワークによる孤独は、職場が対面からバーチャルに移行する中でキャリアをスタートさせたZ世代労働者に特に大きな打撃を与えたようだ。シグナ(Cigna)が2021年に委託した調査では、18歳から24歳の若者の79%が孤独を感じていると回答した。66歳以上のシニア世代では41%だった。
「人間はもともと社会的な生き物であり、これまでも仕事や社会活動を通じて、対面でグループや絆を自然に形成してきました」
Insiderの取材に対しメールで回答を寄せてくれた製品管理会社プロダクトボード(Productboard)のハバート・パランCEO(45)はそう語り、次のように続ける。
「企業のリーダーは、コロナウイルスによって職場体験が大きく破壊されたZ世代やミレニアル世代が、職場でしっかりとした対人関係を築けるように支援する必要があります」
パランの会社には400人以上の従業員がおり、その多くがリモートで仕事をしている。パランは、若いリモートワーカーが対面での職場から得られる感情的な支えを取り逃す可能性があると指摘する。
孤独に対処しなければ、深刻な結果を招きかねない。米国公衆衛生総監ビベク・マーシーは2023年5月、全米の「孤独、孤立、つながりの欠如」は公衆衛生の危機だと宣言し、孤独が心血管疾患、認知症、脳卒中、うつ病、不安、早死にもつながっていると指摘した。
Insiderは、ハイテク、広報、コンサルティングなどのホワイトカラー業界で働く22〜26歳のZ世代ビジネスパーソン十数人に、リモートワークにおける孤独感について話を聞いた。
そのうちの何人かは、同僚との有意義な人間関係を築きにくくなったと語る。こうしたつながりは、専門家がメンタルヘルスやキャリアにとって有益であると指摘してきたものだ。また彼ら彼女らは、リモートワークによって不安が増し、士気が下がり、キャリアアップの機会が狭まっているとも語る。
もちろん、誰もがオフィスに戻りたいと思っているわけではないし、常にそれを選択しているわけでもない。しかし孤独感を和らげるという点では、対面での仕事は最良の薬なのかもしれない。
在宅勤務の影響は仕事にも私生活にも
Z世代のビジネスパーソンたちは、孤独なリモートワークが仕事上の成長やワークライフバランスの感覚に影響を及ぼしていると話す。
イギリスのティーサイド大学のワークプレイス研究者マンスール・スームロは、2023年末に発表予定の研究で、国や業界を問わず2000人のZ世代労働者を調査し、仕事でどんな課題に悩んでいるのかを探った。
その結果、リモートワークで働くZ世代の多くが、同僚からの「孤立感」を感じており、その結果、人脈作りの機会を逃していると考えていることがわかった。スームロは、こうした課題がストレスや不安感の増大、生産性の安定性欠如、企業文化になじめないといった問題につながる可能性があると見ている。
企業が従業員にオフィス復帰を求め(場合によっては義務付け)、定期的に出社しているZ世代ビジネスパーソンは、仕事に対して改めて自信が持てるようになったと語っている。
フアニータ・ガルシア(23)は、2023年6月にリモート勤務からハイブリッド勤務に移行して初めて、リモートワークがいかに自分のキャリア上の成長を妨げていたかに気づいた。
ニューヨークで政府機関で働くガルシアは、当初は職場でのエチケットに苦労したという。昼食に何を持っていけばいいのか、いつ食べればいいのか、コーヒーを飲みに行ったり、同僚のデスクに立ち寄って質問したりするのは適切なことなのかと悩んだという。
しかし彼女は、在宅勤務での仕事がいかに孤独であるかも実感した。
「常時コミュニケーションはとっていたけれど、おしゃべりをしたり、話したり、助けてくれたりする人が周りにいませんでした」(ガルシア)
新しい仕事に慣れたいま、ガルシアはオフィスにいることで、上の人たちを観察する機会が増え、自分自身の向上心も高まったという。
「すごい実績を持った人たちが周りにいて、私はいま、こうした人たちにメンターになってもらっています。いつでもメンターたちと話せるし、こういう人たちが懸命に働いている姿を見ることができます」
フィチェットも同じように感じている。在宅勤務をしていたとき、フィチェットは専門的な能力開発の機会を逃したように感じたという。フィチェットの会社でもオフィスが義務づけるようになってから、フィチェットはようやく仕事に安らぎを感じるようになったという。
隣の席の同僚に質問するにせよ、グループでのブレインストーミングに参加するにせよ、フィチェットはオフィスでの交流が「大好き」であり、このおかげで生産性も士気も高まっているという。出社義務は週2日だが、フィチェットは今、週に4日も出社している。
「オフィスにいると、なんとなく軌道に乗りやすいんです」(フィチェット)
人とのつながりを求めるリモートワーカーたち
現在もリモートワークをしているZ世代の多くは、オフィスの外につながりを求め、カフェやコワーキングスペース、図書館などで仕事をすることを選んでいる。
ノーコードアプリの代理店に勤務し、リモートワークで開発に携わっているアニタ・パン(25)は、大学を卒業して1年目の2021年にニューヨークからワシントンDCに引っ越してきた。
ピラティススタジオで副業を始めてから状況が改善したというパン。
Courtesy of Anita Pan
パンは、特に新しい土地でのリモートワークに苦労した。リモートワークは彼女の社会不安を悪化させ、大学時代だったら気にもとめなかったようなやりとりを過剰に分析している自分に気づいたと言う。
パンはスターバックスで仕事をしたり、クライミングジムに入会したり、コワーキングスペースで部屋を借りたりしてみたが、新しい環境は彼女の孤独感を和らげることはなかった。
彼女は現在、フルタイムの仕事とは別に、ピラティススタジオ「ソリッドコア(Solidcore)」の受付嬢として週に10時間働いている。これのおかげで、不安が和らぎ、新たなつながりも育めているという。
「お客さん同士が会話したり、コミュニティを作ったり、このスタジオをとても居心地の良い空間にするのが私の仕事です。自分の殻を破り、人と関わることができるようになる場所です」(パン)
一方、バーチャルコワーキングスペースという方法でリモートワーカーが孤独を感じないように支援しようとしているスタートアップ企業もある。
Yコンビネーター(Y Combinator)が支援するフロークラブ(Flow Club)は、リモートワーカーが仕事に集中できるよう支援することを目的としたバーチャルコワーキングスペースだ。同社を創業したリッキー・イェンによると、利用者の大半を占めるのは、特にオフィスを持たないZ世代だという。
やる気と生産性の問題は、意志力や規律の欠如からくる問題ではなく、孤独感から生じるものだとイェンは語る。
「人が姿を見せ、隣に座って、自分がよく知らないことをやっているという事実が、一緒にやっているという感覚を生み出すのです」(イェン)
でも週5オフィス勤務はキツい
とはいえ、ビジネスパーソンが重視する要素は孤独感だけではない。Z世代はフルタイムでのオフィス復帰については複雑な感情を持っているようだ。
デル(Dell)が2022年12月に発表した15カ国の18〜26歳1万5105人を対象にしたレポートによると、回答者の29%が求人に応募する際にリモートワークができることを求めている一方で、9時5時でのオフィス勤務を希望する回答者も29%いた。
オフィス勤務はコストがかかる。最近の調査によると、典型的なハイブリッドワーカーは1日平均51ドル(約7600円、1ドル=150円換算)を通勤費、駐車代、食費などに費やしている(これは在宅勤務の日より36ドル〔約5400円〕高い)。リモートワーカーは、大都市から離れた手頃な場所に引っ越すことで、住居費を抑えることもできる。
リモートワークを好む人がいる理由は他にもある。有色人種の中には、職場での人種差別から逃れるために在宅勤務を好む人もいるという調査結果もある。障がいのある労働者は、在宅勤務の方がより自身のニーズに対応できるかもしれないし、LGBTQ+の従業員は、リモートワークの選択肢がない場合、離職する可能性が高い。在宅勤務が可能になったことで、女性の労働人口も過去最多となった。
さらに、在宅勤務の方が生産性が高まるという労働者もいる。
ウーは、オフィスより自宅のほうが集中して仕事をこなせると感じている。
Courtesy of Bianca Wu
ベイエリアに住むビアンカ・ウー(23)は、税務コンサルタントとしてPwCに勤務している。2022年12月の時点で週1回のオフィス勤務を義務付けられていた。
在宅勤務で「超孤独」を感じていたウーにとって、オフィスで人とつながっている方が「はるかに居心地がよかった」ものの、できる限りリモートワークをするようになった。ADHDのウーは、オフィスだと気が散りやすいため、自宅の方が集中できるのだという。
出社しても、上司も含めて同じ部署の同僚が誰もいない日だった場合には、意味がないと彼女には感じられた。
「オフィスに出社することが義務づけられていても、多くの人はオフィスに来ません。本来オフィスに来る必要のある上司が来ていないのに、なぜ私たちはここにいるの?と思ってしまいます」(ウー)
ウーは部署が変わり、現在はフルタイムで在宅勤務をしている。
ウーをはじめとする多くのZ世代ビジネスパーソンにとって、解決のいとぐちになるのは柔軟性」かもしれない。
フィチェットはオフィスに出社することを楽しんでいるが、時には環境を変える選択肢があった方が好ましいという。
「今の年齢では、オフィスと自宅を行き来したり、少しずつ仕事を切り替えたりできる柔軟性が欲しいです」(フィチェット)
この点について前出のスームロは、Z世代はリモートワークもできるという柔軟性を持ち続けたいと考えており、その特権のためなら仕事を辞めてもかまわないと考えていると指摘する。
「Z世代は、『リモートワークやハイブリッドワークができないなら、いつでも別のところに移るつもり』と臆面もなく言い出す世代なのです」(スームロ)