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アマゾンは、今シーズンの「サーズデー・ナイト・フットボール(Thursday Night Football)」の放送で2つの新しい広告商品を展開する。社内ではこれが1億ドル(約150億円、1ドル=150円換算)近い収入増につながると予測されていることがInsiderの取材で明らかになった。
※編集部注:「サーズデー・ナイト・フットボール」は木曜日の夜に行われるNFLのゲームおよびその番組名。番組は、2022年シーズンからアマゾン プライム・ビデオが独占配信している。
アマゾンが5月にインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau)のカンファレンス「NewFronts」で発表したこの広告商品では、広告主は同じ時間帯に、視聴者に合わせて異なるバージョンの広告を流すことができる。例えば、自動車ブランドなら同じ30秒の広告枠を使って、若年層にはスポーツカーのCM、アウトドア層にはSUVのCM、それ以外の視聴者には一般的なブランドCMを流すことができる。
Insiderが入手した社内文書によると「targeted pre-sold ad slot-splitting」あるいは「targeted copy-splitting」と呼ばれるこの新しい広告商品は、同社に1シーズンあたり最大8000万ドル(約120億円)の新たな収益をもたらすと予測されている。
さらにアマゾンは、2つ目の、似たようなタイプの広告商品から1500万ドル(約22億5000万円)の収入を見込んでいる。2つ目の広告商品は「non-targeted pre-sold super sized ad slot-splitting」あるいは「super copy-splitting」と呼ばれ、1つの広告枠を多数の異なる広告主に販売できる。ただし、特定の視聴者をターゲティングすることはできない。
アマゾンは、これらの新しい広告フォーマットは広告主にとってはるかに効果的であり、従来の広告よりも高い広告料金を請求できると考えている。社内文書には次のように記されている。
「従来のメディアでは、1つの広告枠では誰もが同じ広告クリエイティブを見ることになり、広告のROIは低下していた」
「オーディエンス・ターゲティングによって、広告主は広告枠を分割し、異なるオーディエンス・セグメントに対して関連性の高いターゲティング広告を展開できる。広告主は広告からより多くのリターンを得ることができるため、広告枠あたりの平均CPMは増加し、1ゲームあたりの収益は増加する」
アマゾンの広報担当者はコメントを控えた。
さらなる差別化
アマゾンの広告部門にとって、1億ドルの新たな収入はそれほど多額とは言えないかもしれない。直近の四半期で、アマゾンは広告収入として120億ドル(約1兆8000億円)以上を計上、前年比26%増となった。同社の広告部門は2022年、380億ドル(約3800億円)の収入を挙げている。
とはいえ、新しい広告商品は、同社にとってさらなる成長機会となる。
アマゾンはデジタル広告において、グーグル、メタ、そして伝統的なテレビ局との厳しい競争に直面している。そのため、アマゾンのプラットフォームで商品を販売していないブランドを引きつけることができるアプローチで、広告ビジネスを積極的に成長させようとしている。
そのための手段として同社は「slot-splitting」のような新しい広告フォーマットや、プライム・ビデオの番組内広告を増やすことで、動画広告の在庫を増やしている。アマゾンは9月、ユーザーが月額2.99ドルの追加料金を支払わない限り、プライム・ビデオに広告を導入すると発表している。
社内文書には、もしアマゾンが「オーディエンス・ターゲティングという形でより差別化を図る」ことができれば、広告主はサーズデー・ナイト・フットボールをはじめとするプレミアム・イベントに「より高い特別料金を支払う」だろうと記されている。
結果的に、広告収入はアマゾンのプライム・ビデオへの投資を正当化するだろう。あるいは、社内文書は 「広告がこのプロパティ(=プライム・ビデオ)の売上を牽引する」としている。
大手ブランドはすでに新しい広告商品に注目している。デジタル広告会社Media.Monksに買収されたOrca Pacificの元CEO、ジョン・ギオルソ(John Ghiorso)氏はInsiderに対して、伝統的なテレビ広告に多額の資金を費やしている大手広告主はすでにアマゾンの新しい広告フォーマットに「関心を示し」、「積極的に交渉している」と語る。
同氏によると、食品や飲料のような消費者向けパッケージ分野のブランドがターゲティング機能に特に関心を示しているという。ターゲティング機能は今後、さらなる改善が予想されている。
「現在利用可能なものより、すでに大幅に改善されている」(ギオルソ氏)