日本の取締役会は「意識低い」「イエスマンだらけのボーイズクラブ」。米コンサル大手の匿名調査で不満続々

ベイン・アンド・カンパニー、取締役

撮影:竹下郁子

コンサル大手のベイン・アンド・ カンパニーと、取締役会への助言を業務とするボードアドバイザーズが、CEOや社外取締役、機関投資家など40名以上にインタビューを実施。日本の「取締役会」のリアルを調査した。

CEOや社外取締役の多くは東証プライム上場企業で、日系企業が9割、外資系企業が1割だ。

匿名を条件に実施された調査では、「意識の低さに唖然」「CEOに異義を唱えない人で固められた“オールド・ボーイズ・ネットワーク”になっている」「ファイナンシャルリテラシーが低すぎる」など、なまなましい声が多数上がった。

調査結果の詳細と、調査を行なったベイン・アンド・ カンパニーの担当者が提案する取締役会の処方箋を前後編で伝える。

後編:その社外取、「社長をクビにしてでも迎えたい」ですか? 緊張感ナシ取締役会を脱するために必要なこと

ROEよりPLや目先の課題を重視

調査回答で目立つのは、日本の取締役会は「フルポテンシャル(企業価値を最大限に引き出す)」に対する責任感が薄いという指摘だ。

「一部の日本の取締役に見られるフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の意識の低さには、唖然とさせられる。株式価値やマルチプルといった言葉を耳にすることはない。

歴史的・文化的要因から、こうした議論は敬遠されがちだが、日本企業も国際企業社会の一員であり、もはやこのような話題を避けて通ることはできないのが現実だ 」 (国内外で複数社の取締役を務める社外取締役 )

「概してROE(自己資本利益率)や将来からバックキャストした優先事項よりも、P/L(損益計算書)や目先のアジェンダを過度に重視している」 (経営幹部)

「取締役会は長期的ビジョンやミッションの議論に十分な時間を割いていない短期的な『何を、どのように』を議論することに多くの時間を費やしているが、本来は経営陣が議論すべき事項である」(CEO)

こうした“現状に甘んじる”取締役会の姿勢は、日本企業の低迷、ひいては日本株が割安で取引される「ジャパン・ディスカウント」の一因だろう。

PBR(株価純資産倍率)や企業価値がEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の何倍になっているかを表すEV/EBITDA倍率など、日本企業は複数の指標でアメリカや欧州から遅れを取っている。

取締役会での議論が“しゃんしゃん”に

elephant in the room

その取締役会、「The elephant in the room」になっていませんか?

GettyImages / mphillips007

経営の監督と執行が十分に分離しておらず、取締役会での議論がいわゆる“しゃんしゃん”になっているという声も多かった。取締役会の監視が不十分な場合、特に複雑なコングロマリットにおいては、効果的にジャパン・ディスカウントを克服できないことが立証されている(本レポートより)。

取締役会事務局がCEOの指示を受けて議題を調整し、社外取締役も取り立ててとがめることもないといった状況が横行している」 (社外取締役)

「ビジネスを発展させるために必要となる健全な摩擦や深い議論を奨励する環境で、十分な時間を割いて意見を交わすことができていない」(回答者多数)

「過剰に階層を意識した、形式的な議論を重んじる企業文化が依然として存在している 」(回答者 )

「建設的かつ一貫したプレッシャーをかける文化が必要だ。それが取締役の仕事だ」 (社外取締役)

7割でCEOが議長を兼任、追及もプレッシャーも不十分

会議

GettyImages / monkeybusinessimages

取締役会が抱えるこれらの課題の根本原因の一つが、「構成メンバー」だ。

「取締役会の大半は男性中心(『オールド・ボーイズ・ネットワーク』)。彼らは皆、昔からの知り合いであったり、出身大学が同じであったり、同質なネットワークの外からの説明責任の追及やプレッシャーが不十分。CEOは自分の周りを経営に異議を唱えない陣容で固めたいと考えていたりする。これは優れたコーポレートガバナンスとは正反対な動きだ」 (女性社外取締役)

変わりたいと思うのであれば、取締役会の構成を積極的に変える必要がある。多くの国ではCEOとCFO以外は全て社外取締役で構成するというルールが存在する」(グローバル企業の社外取締役)

ベイン・アンド・カンパニー

出典:日本企業の進化を加速させるボードアジェンダ

日本の取締役会における女性比率と外国人比率は、それぞれ14%、6%と低い。アジア太平洋地域で見ても、年齢、ジェンダーバランス、外国人取締役比率の全項目でほぼ最下位になっている。

一方で、取締役会議長を兼務するCEOの割合は71%と高く、社外取締役の割合は35%と最低水準だ。

1日には野村アセットマネジメントが議決権行使の基準を改定し、社外取締役人数の最低基準を3分の1から、過半数に引き上げたことが話題となった。日本政府が掲げる2030年までに女性役員比率30%の目標についても、前倒しを求めるレターが年金基金ら機関投資家で組織する団体・ICGN(国際コーポレートガバナンス)から出されている。

参考記事:政府の「女性役員目標」に世界の投資家らが痛烈な苦言。「未達なら上場廃止」など罰則の有無明確に

「人材不足」は言い訳、探すのが経営陣の仕事

会議

GettyImages / Thomas Barwick

ダイバーシティを確保できない理由として必ず持ち出されるのが「人材不足」だが、この点についても厳しい指摘が飛んだ。

終身雇用を好み、業績管理をそれほど厳密に行っていなかったという歴史的経緯から、『経験豊富で信頼が高く、社外取締役として相応しい役員がいない』という意見は理解できる部分もあるが、状況は急速に変化している。人材流動はこれまで以上に活発化しており、有能な社外取締役のパイプラインは拡大している。その人材探しは経営陣の仕事だ」 (社外取締役)

「海外事業が価値創造を牽引するグローバル企業を構築したければ、グローバルな取締役会が必要だ」 (CEO)

海外に売上規模の大きい市場があったり、もしくは海外事業を伸ばすと経営戦略で掲げているにもかかわらず、取締役会メンバーは日本人ばかりという企業は少なくない。上記のCEOは日本人のみで構成されていた取締役会を、社外取締役・執行含め半数を外国人に入れ替える改革を断行。波紋を呼んだものの、利益の大半をヨーロッパとアジアが占める企業へと変わることができたそうだ。

参考記事:「日本人男性だけで世界で勝てます?」メルカリ山田進太郎、熱弁60分

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