実質「週休3日制」か。ドイツで進みすぎた「テレワーク文化」…欧州社会を俯瞰する

2023年、ドイツ・ミュンヘンで開かれたオクトーバーフェストの様子(9月16日撮影)。

2023年、ドイツ・ミュンヘンで開かれたオクトーバーフェストの様子(9月16日撮影)。

Felix Hörhager/dpa via Reuters Connect

日本では、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが「5類感染症」に移行して以降、都心の大企業で出社制限を撤廃する動きが進み、いわゆる「オフィス回帰」の流れが強まった。週末の夜の街の賑わいも徐々に戻ってきたようだ。

他方でヨーロッパでは、多くの国で少なくとも1年以上前から社会の正常化が進んでいた。だが、日本のように「オフィス回帰」は中心とならず、むしろテレワークが新たな選択肢としてオフィスワーカーに定着し始め、場合によってはオフィス街に影響を与えている。

統計を見ると、その事実が見えてくる。

図表1は、欧州連合統計局(ユーロスタット)が公表している欧州連合(EU)27カ国全体で見た、テレワークの利用頻度に関する調査の結果だ。これによると、EU全体でテレワークを「よくする」と答える声が、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年に急速に高まり、翌2021年には、雇用者全体の13.4%に達した。

図表1EU27カ国の雇用者のテレワーク利用頻度

図表1EU27カ国の雇用者のテレワーク利用頻度 (注)15歳以上64歳以下の雇用者

欧州連合統計局(ユーロスタット)

その後、テレワークを「よくする」と答える声は2022年に10.2%と低下する。この動きは、社会が正常化したことで、会社員の出社頻度が上がったことを示唆している。同時に注目されるのが、テレワークを「時々する」と答える会社員の声が、2021年から2022年にかけて10.6%から12.2%へと、むしろ上昇していることだ。

このことはヨーロッパで、出社と在宅のハイブリッドが着実に広がっていることを意味する動きだと判断できる。実際、ヨーロッパの主要都市では、ホワイトカラーの求人をかける際には、テレワークを容認しなければ人材が集まらないという。テレワークの有無は、ホワイトカラーの会社員にとって、一種のベネフィットになっているわけだ。

国による違いも鮮明に

図表2 国によるテレワークの利用頻度(2022年)

図表2 国によるテレワークの利用頻度(2022年)。15歳以上64歳以下の雇用者を集計。テレワークの頻度の定義は、「よくする」=月の労働時間の半分以上で在宅勤務をする、「時々する」=月の労働時間の半分未満で在宅勤務、として集計。

出典:ユーロスタット

もう1つ、興味深いデータを紹介する。

国ごとにテレワークの利用頻度を2022年時点で比較したものが図表2だ。テレワークを「時々する」と「よくする」の両方を足し合わせた数字で評価すると、テレワークが最も普及した国はオランダ(NL)で、実に会社員の56.8%(「よくする」が19.1%で「時々する」が37.7%)が、テレワークを利用していることになる。

 補足:スウェーデン(SE)、フィンランド(FI)、ルクセンブルク(LU)など、いわゆる北欧の高所得国の方がテレワークの利用頻度が高いことも分かる。反面で、最下位の国はルーマニア(RO:4.3%)であり、次いでブルガリア(BG:4.4%)、ギリシャ(GR:9.9%)、ハンガリー(HU:10.6%)と、テレワークの頻度が低い国には、南欧や東欧の小国が並んでいる。

概して北欧などの高所得国では、金融やその関連業などを中心に、付加価値が高いサービス業が発展している。そうしたサービス業は、テレワークとの親和性が高いため、社会が正常化した後もテレワークの利用が定着する状況になったのかもしれない。一方で南欧や東欧の低所得国では、テレワークと親和性が高い産業が未発達だと考えられる。

主要国ではフランス(FR)の34.5%を筆頭に、ドイツ(DE)が24.6%、スペイン(ES)が14%、イタリア(IT)が12.3%となっている。しかし「よくする」に限定すれば、主要国で最もテレワークが進んでいる国はドイツ(14.8%)であり、フランスは次点(12.7%)となる。テレワークの「常態化」という意味では、ドイツの方がフランスよりも進んでいるといえそうだ。

週末か週初にテレワークをする人々

在宅で仕事をするギリシャの弁護士。コロナ社会で選択肢の1つになったこうした働き方は業種によっては定着したものになった〔2020年撮影〕

在宅で仕事をするギリシャの弁護士。コロナ社会で選択肢の1つになったこうした働き方は業種によっては定着したものになった〔2020年撮影〕

REUTERS/Alkis Konstantinidis

半年ほど前のことだが、筆者は5月、欧州出張でイギリスのロンドンとベルギーのブリュッセル、ドイツのフランクフルトの三国を巡った。その際の実体験は、上記の調査のような社会の変化が実際に起こっていることを実感できるものだった。

出張先のいずれの都市でも聞かれたことだが、「会社員がテレワークする日は基本的に金曜日、または月曜日」だという。

さらに、金曜日にテレワークする会社員の多くは、在宅でメールチェックなどの「簡単な業務」をするだけ、という人も少なくない。つまり、実態としては「週休3日制」に近い状況となっているわけだ。

実際、筆者は出張中の金曜日の午前にフランクフルトの金融機関にヒアリングのアポを入れていたのだが、相手は対面であることを忘れて、在宅勤務をしていた(勤勉なドイツ人らしく、午後に出社して対応してくれたが)。

ドイツ・フランクフルトの高層ビルを背景に、マイン川をゆく貨物船。

ドイツ・フランクフルトの高層ビルを背景に、マイン川をゆく貨物船。

REUTERS/Kai Pfaffenbach

こうした労働環境が当たり前になると、当然、街のあり方にもインパクトがある。

現地で聞いた話によると、金曜日にテレワークをする会社員が増えたため、新型コロナウイルスの流行前は一週間で最も賑わっていた金曜日の夜は、今では盛り上がりに欠けるようになったという。 実際、金曜日の夜の酒場などは、人が多いという印象をあまり受けなかった。 代わりに、多くの会社員がテレワークを取る前日である木曜日の夜が、一週間で最も盛り上がる夜になっているようだった。

前述のとおり、月曜日はテレワークにするという会社員も少なくないため、ドイツも含めたヨーロッパの主要都市では、「町の中心部が込み合うのも火曜日〜木曜日」になったという話もよく聞いた。

いわゆるアフターコロナの社会になっても「実質週休3日、木曜が金曜化」が定着したこの傾向は、長く続くのではないか。

テレワークの弊害が強く意識されるなど、オフィス出社が社会的なコンセンサスとでもならない限り、こうした光景は大きくは変わらないと考えられるからだ。これはコロナ禍の爪痕といえそうだ。

日米よりテレワークが続くかもしれないヨーロッパ

東京都庁周辺のオフィス街。

東京都庁周辺のオフィス街。

撮影:横山耕太郎

新型コロナ以降、テレワークは日本でも急速に普及した。しかし「5類への移行」後は、出社する人が急増したように感じられる。背景には、テレワークでは得られない「ヒューマンタッチ」の重要性が再認識されたこともあるだろうし、日本人の持つ一種の勤勉性が、出社による従来の働き方を好んだのもしれない。

アメリカでも、テック系の大企業が集積するシリコンバレーでは、IT業界を中心に出社を促す企業をめぐる報道が目立つ。検索エンジン大手のグーグル、FacebookやInstagramを運営するメタ などは、出社と在宅のハイブリッドな働き方自体は引き続き容認しているが、社員に対して出社比率を上げるように、相次いで業務命令を出した。

もともとアメリカの労使関係は、基本的に企業側が有利な立場にある。加えて、シリコンバレーのテック産業の場合、レイオフ(一時解雇)の増加を余儀なくされるなど、特に2023年前半は業績の低迷が顕著だった 。そのため、労使の立場はなおさら企業側に有利となっており、テレワークによる在宅勤務を要望する社員側の声は反映されにくくなっているようだ 。

他方でヨーロッパの場合、特にこれは西欧や北欧で顕著だが、労働者の権利意識が強く、また実際の権利も法的に強く保護されている。そのため、企業側が出社比率を上げようとしても、 日本やアメリカのようにはうまくはいかないのではないだろうか。

このことは、数年後に振り返って実態を評価するに値する、大きなテーマといえる。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

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