遺伝子の解析によって、ヒトデはこれまで手足と見られていた部分それぞれに頭を持っていることが明らかになった。ということは、脳も複数あるのだろうか。
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- 何世紀もの間、科学者たちは「ヒトデの頭はどこにあるのだろうか」と不思議に思ってきた。
- その謎を解くためにヒトデの遺伝子のマッピングが行われた。
- それによると、ヒトデは複数の頭を持つことが示唆された。
研究者はついにヒトデの頭がどこにあるのか突き止めた。より正確には、ヒトデの「複数」の頭だ。
ヒトデは、体の中心に頭が1つあるだけではないことが明らかになった。Natureに掲載された論文によると、この奇妙な生き物は、5つの手足のような部分にそれぞれ頭のような部分があるのだという。
「この発見には何世紀もの歳月がかかっている。動物学の始まりから続く謎となっていた」と、論文の筆頭著者であるローラン・フォーメリー(Laurent Formery)はInsiderに語っている。
ヒトデの頭部の発見になぜ何世紀もかかったのか
スタンフォード大学人文科学部の博士研究員であるフォーメリーは、この謎を解くのにこれほど時間がかかったのは「ヒトデがあまりにも変わった生き物だからだと思う」と語っている。
見た目とは裏腹に、ヒトデは人間に似ているという。
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昆虫、爬虫類、鳥類、哺乳類(人間も含む)など多くの動物は、体の中心軸に対して「左右対称性」がある。
フォーメリーによると、これによって頭部、胴体、手足などの位置を特定することができるという。
一方、手足のような突起が5つあるヒトデは左右対称性がなく、「五放射相称」となっている。
ヒトデを見ても「人間の頭のようなものはない。まったく訳が分からなくなるだろう」とフォーメリーは言う。しかし、そのような見た目とは裏腹に、ヒトデは人間のような動物と遺伝的に共通点が多いのだとStanford Newsが伝えている。
ヒトデの遺伝暗号のマッピング
動物には遺伝暗号があり、それらが広がることで脚はここに、腕はあそこに、頭は向うにと、さまざまな部位が発達していく。
フォーメリーのチームが研究したのは、そうした遺伝的な類似性だ。これは現代のテクノロジーがなければできなかったことだという。
ヒトデは研究者の想像をはるかに超えた複雑な生き物だった。
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「かなり長い間、我々には解剖学や形態学しかなかった。それらはヒトデの分析にはあまり役立たない。最近になって、形態学にとらわれることなく、体の発達に関して分子的な側面に焦点を当てられるようになった」
研究チームは、ヒトデの体のそれぞれの部位に含まれる遺伝子を分析した。当初、ほとんどの動物と同じように、頭や胴体などの発達に関わる遺伝子が見つかると考えていた。だが見つかったのは、ほとんどが頭の発達に関わる遺伝子だった。
ヒトデには、一般的な動物の胴体の発達に関わる遺伝子が存在せず、ヒトデ全体の「ボディプランは他の動物グループの頭部のプランにほぼ当てはまる」と、論文の共著者であり、サウサンプトン大学で講師を務めるジェフ・トンプソン(Jeff Thompson)が声明で述べている。
この発見は「非常に奇妙」で予想外だったとフォーメリーは付け加えた。
「我々がこのデータを得るまで、誰もこのようなことを想像していなかった」
ヒトデに脳はあるのか?
フォーメリーは今後、ヒトデの複数の頭部それぞれに脳があるのかどうかについて、さらに分析したいと考えている。
「教科書には、ヒトデは非常に単純な神経系を持ち、まるで脳がないように説明されている」とフォーメリーは言う。
しかし、研究チームが発見したのは、ヒトデの神経系を発達させる遺伝子のいくつかは「人間の脳の発達に関わる遺伝子」でもあるということだった。
つまり、ヒトデが人間の脳の発達に関わる遺伝子と同じような遺伝子を持っているとすれば、非常に興味深い疑問が提示されることになる。
「ヒトデの神経系とは何なのか。それは脳なのか。基本的に脳だけということなのだろうか」とフォーメリーは問いかけている。