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今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。
会食をしようと飲食店を探すとき、あなたは何を使って検索しますか? 食べログやぐるなびなどはよく知られていますが、実は、Z世代の間ではこうしたグルメサイトよりも圧倒的にInstagramが使われているのだとか。欲しい情報にたどり着く方法は、世代間でどう違うのでしょうか?
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ブラウザで検索しないZ世代
こんにちは、入山章栄です。
みなさんは食事をするお店を探すとき、どんな方法で調べていますか? 僕は「食べログ」や「ぐるなび」などのグルメサイトを参考にすることが多いのですが、Z世代代表・Business Insider Japan編集部の荒幡温子さんは、まったく違う方法をとっているようです。
BIJ編集部・荒幡
こんなリリースを見つけました。飲食店の探し方について大学生に調査したもので、「Instagram」を利用する人が63.5%なのに対し、「食べログ」を利用する人はたったの13.0%だそうです。
私は大学生のころから編集部のアルバイトをしていたので、まだブラウザから何かしらのコンテンツを楽しんでいましたが、同級生たちを見ていると就活やレポートのときしかChromeをいじっていないようでした。
ここまでブラウザを使わないとなると、Business Insiderを含めたブラウザ主体のWebサービスは、もう舵を切るときが来ているのでしょうか?
これは面白いですね。荒幡さんもブラウザで検索をしないのですか?
BIJ編集部・荒幡
そうですね。でもWebサービスをまったく使わないわけではなくて、たとえば行きたい店がすでに決まっている場合は食べログで検索することもあります。でもまったく決まっていない状態ではインスタで検索することが多いですね。
たとえば清澄白河あたりでお店を探すなら、「#清澄白河グルメ」みたいなハッシュタグがあるので、まずインスタで検索をかけます。
僕のような荒幡さんより上の世代は、まずは食べログで星の数を見て、「3.1か、どうしようかな」「3.5か、けっこういいな」と星の数を信頼しきって行く、みたいなことが多いはずです。全然違いますね。なぜインスタで検索するんですか?
BIJ編集部・荒幡
単純に情報が明快だからでしょうか。いわゆるインフルエンサーに対してアイドル的な魅力を感じているわけではなくて、写真がわかりやすかったり、自分と同世代の感覚で、値段について書いてあったりするので。
そうか。いまの説明でわかりました。いま「情報が明快」と言われて、僕は反射的に、「いや、食べログのほうが明快では?」と勝手に思ってしまったんです。だけどそれはお店の場所とか、過去に訪れた人が採点した星がいくつだとか、そういう「テキスト」があるというだけで、そういうものは荒幡さんようなZ世代にとって情報ではないということですね。
荒幡さんの言う「情報が明快」とは、自分と同じ世代の、同じ感覚を持っていそうな人がその店を好きかどうかがすぐわかる、ということですね。
BIJ編集部・荒幡
そうですね。いろんな世代の口コミを見て自分で判断するのはけっこう大変なので、自分と価値観が近い人が、そのお店に行って実際にどうだったかを知りたい。
しかも最近のインスタって、基本、投稿文じゃなくて、写真のところに「ここはWi-Fiがあります」「犬も入れます」というような情報を箇条書きで入れてくれているので、頭に入ってきやすいんです。
BIJ編集部・常盤
でもインスタの写真を見て素敵だなと思って行ったら、「映えて」いただけで実際はがっかり、というケースもあるでしょう?
BIJ編集部・荒幡
そうですね。だからちょっと怪しいなと思ったら、もう一度、ブラウザを使って検索をかけます。すると実は汚いとか、お店の対応が悪かったというような情報が出てきたりしますね。でもそれは食べログで調べなくても、Googleマップの星の数を参考にすればいいかなと思います。
まずは感性でフィルタリング
なんとなくわかったような気がします。つまり、われわれのような大人の世代は食べログやぐるなびで、平均価格帯や定休日や駅からの距離など、まんべんなく「情報」をとって総合判断します。一方で、たぶん荒幡さんたちの世代は、まず自分と感覚が近い人がその店に行ってどう思ったかでフィルタリングするんですね。そのあとで必要なら、営業時間とか店の位置などをGoogleで確認する。そういうことですか?
BIJ編集部・荒幡
そうですね。そのほうが情報処理がラクかな、と思います。
BIJ編集部・常盤
なるほど。インスタをスクリーニングに使っているということですね。その視点はなかったなぁ。でも、インスタにおじさんやおばさんが大挙してやってきて、いろんなユーザー層が入り乱れるようになったら、Z世代はインスタから離れていくんでしょうか。それとも別のSNSを求めるのかな。
BIJ編集部・荒幡
それはないと思います。基本的にアルゴリズムで自分と同じような趣味嗜好を持った人の投稿が優先的に表示されるようになっているので。
というわけで入山先生にお聞きしたいのは、私たちの世代はSNS主体で動いているんですが、みんながブラウザをいじらなくなったら、Webサービスはもうオワコンになってしまうのではないか、ということなんです。
結論から言うと、僕もWebサービス全般がいずれオワコンになるのは避けられないと考えています。なぜならChatGPTが出てきたでしょう。いまはハッシュタグで検索しているけれど、ChatGPTなら、「いま清澄白河にいるけど、近くにいいコーヒー屋さんある?」などと聞けば、いくらでも情報を出してくれる時代になる。そうしたらブラウザはますます不要になりますよね。
BIJ編集部・常盤
ということはわれわれBusiness Insider Japanも、どうやって読者と出会うかというところに、いま革命が起きているということですね。これはいろいろなプロモーションを見直さないといけないかも。
視野狭窄を防ぐためにやっていること
BIJ編集部・常盤
荒幡さんに質問したいんですが、インスタで検索していると、自分と感性の近い人からの情報は入ってきやすい一方で、それ以外の情報に疎くなってしまうかもしれないでしょう。この問題について荒幡さんは何か対策をとっているの?
BIJ編集部・荒幡
私もメディア業界にいる限り、それは本当に気をつけなければいけないと思っているんですよ。ですから基本的に世代問わず、面白いことを言っているなと思う人はすぐにフォローして、あらゆる世代の人が自分のタイムラインにいるように気を付けています。
あとは、いろいろな雑誌の電子版が定額読み放題の「楽天マガジン」に登録して、航空業界の専門誌とか、普段なら読まないような雑誌にも目を通すようにしています。雑誌の苦境はよく言われますが、読んでいると面白い記事も多いので。
ああ、同じです! 楽天マガジンはいいですよね。僕も楽天マガジンで『家庭画報』とか読みますよ。
BIJ編集部・常盤
先生、今回は非常に学びになりましたね。世代が違うとインターネットの使い方も違うというお話でした。
入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所に勤務した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。