自動車産業を中心としたモビリティ業界は今、大きな変革期を迎えている。AIやIoE(Internet of Everything)といった最先端技術に後押しされながら、持続可能な社会の実現に向けてさまざまなアクションを求められている業界の一つだ。
たとえば、脱炭素社会の実現に向けて自動車メーカー各社はガソリン車からの脱却を迫られており、EV(電気自動車)への移行を本格化させている。他業界と同じくソフトウェア化も進み、効率的なプラットフォームの開発も急務。
そんな転換期の渦中にあるモビリティ業界に貢献すべく、グループの知見を最大限に活かして自動車関連の製品を開発・製造・販売している会社がある。パナソニック オートモーティブシステムズ(通称、PAS)だ。パナソニックが自動車の部門で発揮する役割とはなにか。
10月に幕張メッセで行われたアジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会・CEATEC、そして東京ビッグサイトで開催されたモビリティ産業に関する最新の技術やデザインなどを紹介する見本市・ジャパンモビリティショー。両イベントで展示されたスケルトンカーを通して、パナソニック オートモーティブシステムズが誇る最新の技術やソリューション、そして、安全安心で快適な世の中を実現した先に叶えられるウェルビーイングな未来への展望を探る。
暮らしを支えるパナソニックは車載事業にも歴史あり
土川太一(つちかわ・たいち)氏/パナソニック オートモーティブシステムズ 営業本部 第1営業統括部 第1営業部 インフォテインメント1課に所属。国内外に向けて、役立つ製品を世の中に普及すると共に、市況の動向や環境の変化を把握しあらゆるニーズを積極的に開拓。営業現場の第一線として活躍している。
パナソニック オートモーティブシステムズは、パナソニックグループの持株会社制移行に伴い、車載ビジネスの新事業会社として2022年4月に発足した。「一人ひとりのより良いくらしの実現のため、持続可能なモビリティ社会を創造する」をミッションに掲げ、安心で快適な移動体験を提供すべく車載機器のOEMビジネスを展開している。
その技術と製品は国内外の自動車メーカーで幅広く採用されており、車載事業としての歴史は実に80年以上。EVの車載充電器の開発にも早期から取り組み、存在感を発揮している。家電ビジネスで培った知見を活かし、私たちの暮らしを車の分野でも、縁の下の力持ち的な存在として支えてきた。
CEATEC、ジャパンモビリティショーでは、そんなパナソニック オートモーティブシステムズの最新技術を一堂に結集させたスケルトンカーを展示。車に搭載されたさまざまな自社デバイスを360度あらゆる角度から見ることができ、その技術の仕組みや環境問題への貢献など、具体的なソリューションの理解を深める展示を用意した。
パナソニック オートモーティブシステムズを代表する基幹製品の一つが、車載充電器だ。家庭などの交流電源を直流に変換してEVに充電するための機器。最前線の営業現場で活躍する土川太一氏はその高い性能について次のように説明する。
今後はEVのシステム電圧400Vの製品ラインアップに加え、最新のパワーエレクトロニクス技術を用いた、800Vの製品開発を目指している。
「自宅でのフル充電が一晩で可能な高出力技術が強み。22kWの車載用充電器を提供できる企業は2023年現在、弊社を含めて世界で数社しかありません。さらには、コンパクトに設計することで車内空間が広がり、収納のスペースが増えたり快適性が増したりするメリットにもつながります」(土川氏)
さらに土川氏は、「世界の市場に出回っているEVの現時点での大きな課題は走行距離」とも指摘する。特に、寒い季節はエアコンの使用など車内を温めるために莫大な電力を消費することで、実際の走行距離が短くなる場合も多くあるという。
車載電池の下に電熱線をひき、寒冷地での電池の電圧低下を防ぎ、バッテリーの減りを少なくする効果がある。
そこで、パナソニックが誇る白物家電の技術を応用。ホットカーペットで使われる電熱線をシートヒーターとして搭載し、電力消費が大きいエアコンの代わりに使用することで、省エネに貢献。寒冷地でのエアコンの大量電力消費を補完し、EV車の走行距離向上に貢献している。また、車載電池の下に電熱線を敷くことで、バッテリーのパフォーマンス低下を最小限に抑制。細かな部分にもパナソニックが培ってきた家電製品へのノウハウが応用されている。
命を守るデバイスも、進化し続けるデジタル技術でより安全に
パナソニックグループとして注力している分野に「ウェルビーイング」がある。さらなる持続可能な社会の実現に向けて、環境問題をはじめとする社会課題の解決に向けたアクションだけでなく、人の心が豊かになる暮らしに向けた安心・安全・快適なサービスにも力を入れている。
人命に関わる自動車領域において、車載カメラはウェルビーイングを目指すソリューションの一つ。交通事故の低減やドライバーの運転負荷の軽減に役立つ。
おなじみのバックモニターはもちろん、左右上下から車両周囲の状況を一度に捉えることが可能。
「車載カメラはすでに20年以上の実績を持つキーデバイスの一つです。さらに、人や車、障害物を検知する超音波センサーのソナーを車体の四隅に2個ずつ配置し、衝突回避の緊急ブレーキや駐車サポートに役立っています」(土川氏)
昨今はさらにカメラの技術革新が進み、サイドミラーをなくして、小型のカメラを左右に設置。液晶パネルにカメラの映像を映し出す新たなデバイスも実装が始まっているという。
「従来のサイドミラーだと、悪天候時は雨粒などがミラーに付着してしまい視界不明瞭になることも多かった。カメラにすることで視界がクリアになり、メリットは大きいです。さらに今後は、メーターやカーナビ、エンターテインメントディスプレーといったこれまで複数箇所に分かれていたディスプレーが横長一列に連携されるモデルも増えていきます」(土川氏)
複雑なアルゴリズムやAIを搭載した大規模な車載コンピューターを一括で操作できるようになるコックピットドメインコントローラー。
それぞれ多岐にわたるユニットを統合するうえで重要になるのが、コックピットドメインコントローラー。運転席(コックピット)周辺の複雑な機能を一つのユニットに統合する事業で、欧州車をはじめニーズが高まっているという。走行状態に合わせて、ドライバーに必要な情報を見やすい位置に表示するなど、快適性にも貢献する技術だ。
「余計な配線を排除してその分のスペースを活用できることや、車体の軽量化にもつながります。カーナビからマルチメディアまで、幅広く手掛けてきた実績と蓄積したノウハウが生かされている技術ですね」(土川氏)
コネクテッドカーの普及によってサイバーセキュリティの強化が喫緊の課題に
市場において既に登場しているコネクテッドカーは、今後一段と発展を遂げる見込みだ。しかし、ネットワークの進化に伴い、これまで考えられなかったセキュリティ上のリスクが懸念されている。土川氏は、次世代のコネクテッドカーが現実に近づいている中で、次のように警鐘を鳴らす。
「ソフトウェアが進化している中、インターネットに常時接続しながらサービスを更新するコネクテッドカーの普及が世界で広がっています。これに伴い、外部からのサイバー攻撃を受けるリスクも年々高まっているのです。
たとえばパソコンでは個人情報を抜き取られる恐怖がありますが、車ではブレーキ操作などに影響を及ぼし人命に直結します」(土川氏)
パナソニック オートモーティブシステムズでは、サイバー攻撃から車を守るセキュリティ監視センターなどで安心と安全を提供。家電部門で蓄積していたセキュリティ技術が応用されており、関連する特許の数も強みの一つと言えるだろう。
グループのスケールメリットを最大限活用しながら幅広い提案力につなげ、パナソニックらしいモビリティ事業のあり方で持続可能な社会の実現を目指すパナソニック オートモーティブシステムズ。
CEATECやジャパンモビリティショーといった大型展示会に出展することは、ユーザーとの接点を増やす狙いもある。クライアントの要望通りに開発・生産して納品する、という命題に徹する受け身姿勢から脱却し「これからは私たち自身がユーザーの気持ちを理解して、潜在ニーズを汲み取り提案力を磨きたい」と土川氏は意気込む。
2023年1月には、国内と海外の全拠点でCO2排出量実質ゼロをグループで最初に達成。環境への高い意識はもちろんのこと、より快適なモビリティ体験を実現するための車載部品からセキュリティ問題の解決まで、パナソニックが持つ家電由来の技術を活用し、モビリティ業界を攻めの姿勢で切り拓く。大変革期の最中にある業界を今後もリードする頼もしい存在となりそうだ。