ユニクロを展開するファーストリテイリングの取締役兼グループ上席執行役員・柳井康治氏。恒例の「LifeWear=新しい産業」説明会で、原材料調達や環境、人権などを含めた事業戦略とその進捗状況を報告した。
撮影:湯田陽子
ユニクロが2023年から展開している防寒アウター「パフテック」シリーズ。東レと共同開発した独自の機能性中綿を採用した商品で、これまで「ウォームパデッド」の名称で展開し、改良を重ねてきた。
開発の背景には、ダウンという“資源”が近い将来、使えなくなるかもしれないというファーストリテイリングの危機感があった。
「もしかしたらダウンを使えない、使うべきでない日が来るんじゃないかということで、我々は先駆けて(開発して)きた。
ダウンと同じような軽さや保温性、でも(ダウンと違って自宅で)洗えて扱いやすい、ダウンを超えるような、化繊を使用した素材をつくって発展させていこうということで、今年からパフテックとして展開している」
11月7日、同社が開いた「LifeWear=新しい産業」説明会で、グループ上席執行役員の勝田幸宏氏はそう語った。
ダウンはサステナブルな原料なのか?
Lifewearとは、ファストリが2013年に打ち出したコンセプトだ。資源の有効活用のほか、企画・生産・物流・販売などさまざまな過程で無駄を省き、シンプルかつ高品質な「究極の普段着」の提供を目指している。
その一環として、同社は2021年、サステナビリティに関する2030年度の目標とアクションプランを策定。持続可能性と成長を両立させるビジネスモデルへの転換を加速する方針を発表した。
以来3回目となる今回の説明会では、原材料調達を含む全工程を自社管理する生産体制への移行など、サプライチェーン改革を打ち出した。加えてサステナブルな原料調達の観点で注目されたのが、先述した「パフテック」開発の背景だった。
グループ上席執行役員の勝田幸宏氏(中央)は、パフテックについて「ダウンが使えない日が来るかもしれないという前提で開発を進めてきた」と語った。
写真提供:ファーストリテイリング
パフテック・シリーズは、ユニクロがウルトラライトダウンと並ぶ、秋冬の高機能アウターとして重視している商品だ。
勝田氏によると、ファストリが使っているダウンは「いわゆる食用」(勝田氏)の水鳥の綿毛を使用している。ただ、勝田氏は
「その数が限られてくる可能性、資源として取れなくなる可能性があるということを前提として考えている」
と危機感を語る。
ユニクロは服から服へのリサイクルに力を入れており、その一環として、ダウン商品を回収し、ダウンとフェザーの100%リサイクルを目指している。リサイクルすることで、生産過程におけるCO2排出量を約20%削減できるという。
ただ、顧客がどの程度回収に協力してくれるか、つまり店舗に持ち込んでくれるかは分からない。今後、リサイクルダウンをどの程度つくれるか「数量がなかなか読めない」(勝田氏)面がある。
「そうしたさまざまな環境を含めて、可能性としては(ダウンを)もう使えない日が来るんじゃなかろうかということを前提として(パフテックの)開発を始めた」(勝田氏)
取締役兼グループ上席執行役員の柳井康治氏も、
「(ダウンが使えない日が)やってきたときにお客さまに不利益がいかないように、お客さまがいまダウンで得ている快適な暖かさを、ダウンではない素材でどう提供できるかということに取り組んでいる最中だ」(柳井氏)
と、“ダウンが使えなくなる日が来るかもしれない問題”を語る。
現状のパフテックは「ダウンを凌駕しているかというと、まだそこまでたどり着けていないところもある」と柳井氏は言う。
ただ、羽毛が飛び出しやすいダウンとは異なり、パフテックではデザインの自由度が高いというメリットもあるという。
実際、イギリスのデザイナー、クレア・ワイト・ケラーが2023年秋から手掛けるコレクション「UNIQLO : C」でも、ブルゾン、オーバーサイズコートといったパフテック商品を展開している。
「デザイナーも(パフテック)はとても魅力的な素材で、これからの可能性を秘めているものだと思う、と。
なので、ぜひお客さまにお試しいただき、我々はその評価に真摯に耳を傾け、お客さまに評価していただけるのであればどんどん続けていくし、まだ評価いただけないのであればさらに改良して、ダウンに代わっていけるようなものとして進化させていく」(柳井氏)
原材料も含めサプライチェーンを一元管理
ユニクロのリペア・リメイクサービス「RE:UNIQLO STUDIO」は、10月末時点で16カ国・地域の35店舗で展開。2024年には世界の50店舗以上に導入する。写真はグローバル環境マネジメントチーム部長の黛桂子氏。
撮影:湯田陽子
説明会ではほかに、サプライチェーン全体を自社で管理する体制の開始など、持続可能なビジネスモデルの進捗についても公表した。
具体的には、ユニクロ全商品について、2023年春夏シーズンから原材料レベルまでの商流を把握し、2023年8月末までにユニクロ綿商品で紡績工程サプライヤーを集約。今後は、全素材についてTier3(孫請けなど間接的な取引先)まで指定サプライヤーに集約していく計画を明らかにした。
また、原材料調達という最上流から自社管理し、持続可能で安定的な調達を高水準で実現するため、原材料の産地・品質を指定して調達するほか、独自のプラットフォームを使って随時把握できるトレーサビリティの仕組みを構築。まずは綿素材から開始し、できるだけ早期に全素材に拡大する。
これらの取り組みは、いま世界中の企業が悪戦苦闘しながら進めている、商品ごとのカーボン・フットプリント(温室効果ガス排出量)の把握にもつながる。
この点について、同社サステナビリティ部グローバル環境マネジメントチーム部長の黛桂子氏は、Business Insider Japanに対し次のように語った。
「製品ごとの情報開示については、トレーサビリティだけではなく、環境負荷、環境インパクトについても(今後)表示することを考えている。
欧州ではすでに制度化され始めており、我々もそれに対応していくようにしているが、まだ世界で統一された基準がない。そのため、我々としてお客さまに何を伝えればいいのか、また(伝える内容が)どうしたら正しいと分かるかを追求しながら(社内で)協議しているところだ」(黛氏)