MacBook Pro・16インチモデル。試用したのはM3 Maxでメインメモリー128GB搭載の最上位構成。
撮影:西田宗千佳
アップルがインテル製プロセッサーの採用を止め、Mac向けにオリジナルプロセッサー「Mシリーズ」を使うようになって、3年が経過した。
初代「M1」に比べ、アップルが11月に発売した新製品で採用している「M3」シリーズは、従来のものよりも高性能だと言われる。
では「最高性能」はどのくらいになるのだろうか?
アップルから、もっとも性能の高い「M3 Max」に128GBのメインメモリー、8TBのストレージを組み合わせた、最高性能のモデルを借り、その実力をテストしてみた。購入すれば税込109万円という、超高額モデルだ。
カラーは新色の「スペースブラック」。上にあるのはM3版MacBook Proの「スペースグレー」。確かにはっきりと色みに違いがある。
撮影:西田宗千佳
アップルのノート型製品としては最高性能となるが、テストしてみると実力としても、価格以上の性能であることも見えてきた。
アップルはなぜ「高額でも最高性能」仕様をつくったのか
「MacBook Pro」には、比較的安価な「M3」搭載モデルと、もう少し性能を重視した「M3 Pro」搭載モデル、そして価格が大幅にアップするが高度な処理能力を必要とする人向けの「M3 Max」搭載モデルがある。
アップル独自半導体「Mシリーズ」の設計については別掲の記事で考察しているが、アップルは超ハイエンドで「価格よりも性能」を重視するM3 Maxと、それ以下の製品をより大きく差別化する方向性にあるのだろう。
今回テストしたのは画面が大きい16インチモデルだ。M3 Max搭載というだけなら、14インチモデルの場合で53万8800円、16インチモデルで64万4800円(ともに税込)で買える。
だが、他のノート型PCではほとんど見られない「メインメモリー128GB」仕様にする場合、価格は最低でも74万8800円と高額になる。
CPUコア数の分だけ性能はアップ
では、M3 Maxはどのくらい速いのだろうか?
実際にベンチマークソフトで確かめてみよう。
今回はM3 Max搭載版に加え、
- M1搭載版MacBook Pro(13インチ、2020年秋発売)
- M1 Pro搭載版MacBook Pro(14インチ、2021年秋発売)
- M3搭載版MacBook Pro(14インチ、2023年11月発売)
- M3搭載版iMac(24インチ、2023年11月発売)
を比較用に用意している。
M3 Max搭載MacBook Pro(16インチ)のほか、この4機種を使って比較している。
撮影:西田宗千佳
まず、CPUの速度を測る「GeekBench 6」と「Cinebench 2024」を見てみよう。
筆者計測のデータををもとに編集部作成
筆者計測のデータををもとに編集部作成
まずCPU性能、特にマルチコア処理性能の点で、M3 Maxは過去にないほど圧倒的に速い。
M3 MaxはノーマルのM1に比べ2.5倍から3.7倍高速になる。M3との比較でも、1.8倍から2.8倍になっている。
これは、テストしているM3 Maxが16ものCPUコアを搭載しているからだろう。
筆者計測のデータををもとに編集部作成
M3単体でも、M1の上位モデルであるM1 Proに近い性能にアップしているが、M1やM3は、M3 Maxの半分となる8コアしか搭載していない。このため、マルチコア性能ではM3 Maxほどの「圧倒的な差」にはなっていない。
GPU性能はM1の「10倍高速」なケースも。大容量のメモリーが貢献か
M3 Maxの性能評価の「主役」とも言えるのが、次のGPU性能だ。これが、CPU以上に大きな差が出ており、筆者自身も評価していて驚いた。
M3シリーズでアップルは、CPU以上にGPUを強化した。GPUはゲームやAI処理などに有効で、近年のニーズは高まる一方になっている。
筆者計測のデータををもとに編集部作成
筆者計測のデータををもとに編集部作成
筆者計測のデータををもとに編集部作成
GeekBench 6の値で言えば、M3 MaxはM1の4.8倍、M3の3.3倍になっている。3DMarkも似た傾向だ。
さらにCinebench 2024の値だとM1の約10倍、M3との比較でも3.6倍の性能差という結果だった。
興味深いのは、ベンチマークソフトによる計測性能の違いから読み取れる「特徴」だ。
M3 MaxはGPUを40コア搭載しており、10コア搭載のM3に対して3倍から4倍速い、というのは理解しやすい。一方でCinebench 2024では、他のベンチマークよりも大きな差になっているのが面白い。
これはCinebench 2024の特徴が関係しているように思う。Cinebench 2024はグラフィック描画処理を模したテストで、複雑なシーンを演算するための実処理により近い結果が出やすい、ということではないだろうか。
冒頭のとおり、テストしているM3 Maxは128GBのメインメモリーを搭載している。
少し専門的な話になるが、Macはメインメモリーと、GPU用の「ビデオメモリー(VRAM)」を共有する「UMA」という構造を採っている。そのため、メインメモリーが128GBもあるということは、「VRAMが128GB近くあるGPUを使っている」ということでもある。
GPU処理で大容量のメモリーが使えることはパフォーマンスに大きな影響を与えるため、こうした結果が出た可能性がある。
ゲームやAI処理でも「激速」を発揮
ベンチマークソフトでなく、実アプリでの性能はどうだろうか?
ハイエンドゲームであるカプコンの「バイオハザード ヴィレッジ」で、解像度を2540×1440ドットに、グラフィックオプションを最高画質になる「限界突破」にした上で比較した。
この設定だと、M1 ProやM3でもフレームレートは落ちる。ゲームは十分にできるが、処理落ちがない、いわゆる「ヌルヌル動作」とまでは言えない。
しかしM3 Maxだとフレームレートは一気に上がり、コマ落ちはほぼ皆無になる。
「バイオハザード ヴィレッジ」プレイ中のフレームレートを可視化。M3 Maxは明確に他より数値が高い。
筆者キャプチャー
同じくCPUとGPUを使う重い処理に、アドビの写真管理ソフト「Adobe Lightroom」でのAIを使ったノイズ除去がある。
「Adobe Lightroom」のAIノイズ除去は、高品質だが処理にかなりの時間がかかる
筆者キャプチャー
筆者計測のデータををもとに編集部作成
M1では1枚の画像の処理に1分前後かかる。M3になると40秒に縮まるのだが、M3 Maxでは、さらに「11秒」にまで短縮される。一気に6分の1くらいまで短縮されるわけで、同様の処理を毎日大量にこなすようなクリエイティブプロフェッショナルにとって、圧倒的な実用性と言える。
AI用サーバーに匹敵する「メモリー量」、特定領域むけには格安か
こうした結果で分かるように、M3 Maxの速さはホンモノだ。
この後にデスクトップ型向けとしてさらに速い「Ultra」が出てくる可能性はあるが、ノート型としては当面、最高性能だろう。
今回の結果には、プロセッサーの速度アップだけでなく、メインメモリーが最大128GBに増えた結果も大きいはずだ。
ただこれは、メインメモリーが増えたことだけを意味しない。前述のように、MacはUMA構造を採っているため、メインメモリーの増量がそのまま、実質的な「VRAMの増量」になる。
Windowsマシンまで見回しても、128GBのメモリーを搭載できる製品は非常に少ないし、そうしたハイエンド製品であっても、ノートPC向けのGPUだと、VRAMの容量は16GBがせいぜいだ。
市場を見渡しても、100GBを超えるVRAMを扱えるGPUはまさに生成AI用であり、NVIDIAのサーバー用GPU「NVIDIA H100 Tensor」クラスになる。もちろん性能に大差があるので単純比較はできないが、価格は約480万円。生成AIブームもあって、それでも市場では取り合いの状況だ。
生成AI開発や巨大でリアルなCGデータを扱うなら、メモリーはいくらあっても困らない。
個人が買う例は限られるだろうが、エンジニアや企業がM3 Max搭載機に着目し、「100万円でも買う」気になるのは、「ノート型でここまでできる」ものが他にないからだ。