102億円調達のLayerXが「AI・LLM」事業部を新設。ブロックチェーンの失敗いかす

企業向け支出管理SaaSを提供するスタートアップ・LayerXが、新たに海外投資家から20億円を調達した。これで、2023年2月から継続してきたシリーズAの資金調達を102億円で完了する。

同時に立ち上げるのが「AI・LLM事業部」だ。アメリカOpenAI社がChatGPTをリリースしてから約1年。「本格的に収益が立つ見込みができた」からだという。

ブロックチェーン時代の失敗もいかされているという新規事業部設立の過程や、開発中の「金融などプロフェッショナル職の難解な文書読解」をLLMで手助けするサービスについて聞いた。

収益立つ見込みできた

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LayerX・CTOの松本勇気さん(左)、中村龍矢さん(右)。

提供:LayerX

今回の調達は香港の投資ファンドKeyrock Capital Managementを引受先とする第三者割当増資だ。調達した資金は、インボイス制度などを追い風に「T2D3※超えの成長」(LayerX広報)を続けているという支出管理SaaS「バクラク」の成長に主に投資する。

同時に「AI・LLM事業部」を新設した。2023年4月に立ち上げた LLMラボに、もともとあったプライバシーテック事業部を合流させた形だ。

事業部を率いていく代表取締役CTOの松本勇気さんは言う。

「この技術(生成AI)の行く末をきっちり見定めることが重要だと思っていたので、規律ある投資、つまり小規模の予算で、AI・LLMが何に役立つのか、限界はどこにあるのかをラボという位置づけで検証してきました。

半年やってみて顧客の役に立つこと、そして我々としても本格的に収益が立つ見込みができたので、事業部に移行しました」(松本さん)

目下取り組んでいるのは、ビジネスシーンでネックとなる長くて複雑な文章の読み解き処理だ。金融業界におけるリスクアセスメントのための文章解読業務のほか、証券・不動産・製造業界などでの同様の文書処理に関連した業務の負担を、AIによって軽減することを目指す。

※T2D3:ARR(年間経常収益)を「3倍(Triple)→3倍→2倍(Double)→2倍→2倍」と毎年増やしていくこと。

専門性高い分野の文書処理で力発揮

まずは第1弾として、三井物産らとLayerXのジョイントベンチャーである三井物産デジタル・アセットマネジメントで導入する。同社のデジタル証券の発行額は、累計100億円超。アセマネ業務は資金や契約の管理、投資家へのレポートなど 「多種多様な金銭契約のかたまり」(松本さん)だが、ここにかかっていたコストを改善する。

「100ページ200ページの契約書を人が一生懸命読み込んでいたのを、LLMに解析させ、人間のパフォーマンスを大きく上げていきます。

プロフェッショナル職やそのアシスタントに類する皆さんが、日々残業しながらやっている長文読解を、AIアシスタントとしてサポートしてくれるようなツールです」(松本さん)

このLLMを活用した「文書処理効率化」プロダクトは大企業からの引き合いが多く、現在、複数社で業務に取り入れるための検証を行っているという。

「長期的にはさまざまな職種の(AI)アシスタントを作りたいと考えています。チャットボットのように利用の負荷が高いものではなく、ボタン一つ押すだけでいいなど、 ユーザー体験を突き詰めていきたいです」(松本さん)

参考記事:LayerXが三井物産らから55億円を調達、ベンチャーが3年で証券会社目指し2200億円運用できる理由

参考記事:三井物産×LayerXの「証券会社」が本格始動、丸紅も参入で個人向け「デジタル証券」市場広がる

ピボットの経験がいきている

資金調達、スタートアップ、LayerX

提供:LayerX

AI・LLM事業の事業部長に就任した中村龍矢さん(事業部執行役員)は、26歳。グノシーからMBOする以前のLayerX創業時から、R&D部門をリードしてきた。今回のAI事業には、過去のピボットなど“撤退戦”の経験も大いにいきているという。

「我々は祖業がブロックチェーンですし、私はプライバシーテック事業の責任者でもあります。LayerXはキーワードが先行しているテクノロジーを事業にすることにおいては、失敗も成功も、むしろ失敗のほうが多いかもしれませんが、たくさん味わってきたつもりです。

先端技術をどういう順序で事業に適用すべきか一定の知見がたまっていることに加え、当時からのつながりもありがたくて。

これらの事業時に大企業の方々が抱える問題をたくさん聞かせてもらったことで、課題のストックが会社の中にありました。なのでLLMが話題になったとき、ブロックチェーンやプライバシーテックでは難しかったけれど、AIでなら解決できるかもしれないと考える問題が見つかりましたし、そこからやり取りを再開させていただいた企業も複数あります」(中村さん)

LLMといえば、国産LLMも話題だ。産業技術総合研究所や東京大学松尾研究室、ソフトバンクなどで開発が進んでおり、11月1日にはNTTも自社開発のLLM「tsuzumi」を発表している。

参考記事:NTTが国産LLM競争に「コスパ」で参戦。「tsuzumi」の実力とビジネスモデル

LayerXもLLMを自社で開発することを一時は考えたそうだが、検証してやめる決断をした。

「我々が使いたい領域に関しては、自社で作るよりも、世界で先行しているプロダクトが非常に多い。 仮に投資できる資金が無限にあったとしても、今のOpenAI社に追いつくのに2〜3年はかかると思うんですね。その間にOpenAIは5年先に行ってしまう。この差分を埋めるのは難しい。

それよりも、既存のLLMを最もうまく顧客のデジタル化につなげることができる会社でありたいと、今は思っています」(松本さん)

新卒でLLMの活用問うこと

現在メンバーは10人ほどだが、事業部への移行にともない、採用も拡大していく。

新卒採用では、選考過程でLLMの活用能力を問うことも検討中だ。

一方で、テクノロジーに明るくないベテラン社会人も大歓迎だという。

「アイデアを出せるかどうかは自信と心理的安全性にかかっているという『クリエイティブ・コンフィデンス』という概念がありますが、これってテクノロジーにもあてはまると思っていて。

何十年もビジネス畑でキャリアを積んできた人が、技術サイドのことにも意見を出していいんだ、やってもいいんだと思った瞬間に、できちゃう。そういうチームであること、空気感を大切にしたいなと。

キャリアのある方々がこれまでと全く異なる働き方をして新しい技術をキャッチアップできる、そんな場所でありたいですし、ケースを増やしていきたいです」(中村さん)

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