ユークリッドが撮影した不規則銀河「NGC 6822」。
European Space Agency/Euclid Consortium/NASA; image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi
- 欧州宇宙機関のユークリッド宇宙望遠鏡が撮影した画像が初めて公開された。
- 5枚の高解像度画像には、渦巻銀河、星団、星が生まれる星雲などが写っている。
- 科学者たちは、ユークリッドのデータを用い、暗黒物質と暗黒エネルギーについてより深く理解したいと語っている。
2023年7月に打ち上げられたユークリッド宇宙望遠鏡には、極めて重要なミッションが与えられている。これまでで最大規模となる宇宙の3Dマップを作成し、天文学で最も壮大な2つの謎、「暗黒物質」「暗黒エネルギー」とは何かの解明につながる観測をすることだ。
アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、人の体や惑星、恒星といった一般的な物質は、宇宙に存在する物質のわずか5%しか占めていない。残りの95%は暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)で構成されている。
しかし、これらの神秘的な宇宙の存在は目に見えないものであり、本当の姿は謎に包まれている。観測できるのは、暗黒物質と暗黒エネルギーが一般的な物質に与える影響だけだ。
そこで欧州宇宙機関(ESA)のユークリッド望遠鏡が登場することになった。ESAは、この宇宙望遠鏡が撮影した高解像度の画像によって、宇宙全体に存在する何十億もの銀河の形と動きを研究できるようになり、暗黒物質と暗黒エネルギーの影響を理解する助けになるだろうと声明で述べている。
11月7日、ESAはユークリッドが撮影した高解像度画像を初めて公開した。
ESAで科学ディレクターを務めるキャロル・マンデル(Carole Mundell)は、ESAが行ったライブ配信で画像を発表し、「これは象徴的な瞬間だ」と述べた。
ニックネームは「隠された銀河」
ユークリッドが撮影した渦巻銀河「IC 342」
European Space Agency/Euclid Consortium/NASA; image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi
この渦巻銀河は「隠された銀河」と呼ばれ、たくさんの塵やガス、恒星の陰に隠れており、地球からは見えにくい。
しかし、ユークリッドは赤外線で観測するため、塵やガスの向こう側を覗き込むことができ、鮮明な画像を得ることができると、ユークリッドのプロジェクト・サイエンティストであるルネ・ロウレイス(René Laureijs)がESAの配信で説明し、「赤外線の働きは、本当にすばらしい」と述べた。
また、宇宙学者でESAの研究員であるグアダルーペ・カニャス・エレラ(Guadalupe Cañas Herrera)は、これは「息をのむような」画像であるだけでなく、暗黒物質を理解するのにも役立つと配信で語った。
エレラによると、このような渦巻き銀河の回転速度を分析することで、その銀河にどれだけの暗黒物質があるのか推測できるという。
40万個の星を含む球状星団
ユークリッドが撮影した球状星団「NGC 6397」
European Space Agency/Euclid Consortium/NASA; image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi
球状星団とは、多数の星が丸くコンパクトに集まっている星団のことを言う。「NGC 6397」というこの球状星団には40万個の星が含まれていると、ヨーロッパ南天天文台は推定している。
この星団全体を1つのフレームに収めることは、ユークリッドにしかできないと、天体物理学者でユークリッド装置担当科学者であるレイコ・ナカジマは、配信で語った。
各国の科学者で構成された「ユークリッド・コンソーシアム」の一員であるダヴィデ・マッサーリ(Davide Massari)は、このような球状星団内の構造を研究し、銀河系内でこれらの星団がどのように動いているかを計算しようと考えている。
「この画像は、銀河系内に暗黒物質がどのように分布しているのかを教えてくれるだろう」とマッサーリはESAの声明で述べた。
アイコニックな「馬頭星雲」
ユークリッドが見た馬頭星雲
European Space Agency/Euclid Consortium/NASA; image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi
馬頭星雲は宇宙マニアの間で人気があり、ハッブル望遠鏡など他の望遠鏡でも撮影されている。
馬頭星雲では新たな星が生まれていると、ユークリッドの主導研究者であり、NASAのジェット推進研究所(JPL)の特任研究員も務めるジェイソン・ローデス(Jason Rhodes)は配信で語った。
画像に写った雲のようなものは、爆発して死んだ星の残骸であり、それらが集まって再び塊となり、新たな恒星や惑星になっていく。
マンデルによると、この画像はこれまで撮影されてきたものとは異なり、視野が広く、鮮明で、星雲を取り囲む多くの遠方銀河も写っているという。
「ペルセウス座銀河団」
ユークリッドが撮影したペルセウス座銀河団
European Space Agency/Euclid Consortium/NASA; image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi
この画像に写った「点」のほとんどは銀河だとマンデルは配信で語った。
手前にあるのが1000個の銀河からなるペルセウス座銀河団で、その背後の遠い宇宙には、さらに10万個の銀河がある。ESAによると、これらの遠方銀河からの光は、地球に届くまでに100億年かかることもあるという。
ユークリッドが今後6年にわたって観測を続け、このような銀河団を多数発見することを、マンデルらは期待している。
「この画像から科学や物理について学ぶことは豊富にある。色までもが銀河の組成について教えてくれる」とマンデルは語った。
不規則銀河「NGC 6822」
ユークリッドが撮影した不規則銀河「NGC 6822」。
European Space Agency/Euclid Consortium/NASA; image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi
初期宇宙でこれまで観測されてきた銀河のほとんどは、この「NGC 6822」のような不規則な形をした小さな銀河だ。
天体物理学者でユークリッド・コンソーシアム副代表のフランシス・ベルナルドー(Francis Bernardeau)は、この画像がユークリッドの独特な力を証明していると配信で述べた。
さらに、ユークリッドとジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と比較し、どちらも信じられないほど正確だが、ユークリッドの視野はJWSTの約100倍も大きいと述べた。
今後6年間、この巨大でデータ満載の画像を分析することで、宇宙に関する新たな科学的発見につながるだろうと、ベルナルドーは付け加えた。