クリーンエネルギーへの早期の転換は1億8000万年の寿命を救う

カナダの山火事の影響でかすんだニューヨークの空。

カナダの山火事の影響でかすんだニューヨークの空。

Gary Hershorn/Getty Images

  • 化石燃料の燃焼は大きな健康被害をもたらす。例えば、世界全体で毎年5人に1人は大気汚染によって死亡している。
  • クリーンエネルギーに素早くシフトすれば、障害や早死の多くを防ぐことができると研究者は考えている。
  • 最新レポートによると、このシフトがうまくいけば、「障害調整生存年(DALYs)」を2050年だけで1億8100万年減らすことができるという。

今から2050年にかけて、世界がエネルギーに関してどのような選択をするかで、気候、自然生態系、経済発展などの未来が決まる。そしてそこには、毎年健康な人間から奪われる1億8100万年分の命も含まれている。

再生可能エネルギーを迅速に増強し、化石燃料の使用を削減できれば、健康な人間が奪われる年数を減らすことができる。非営利団体、世界自然保護基金(WWF)とボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group、BCG)は、2023年11月3日に発表した最新レポートの中で、そう述べている。

ドイツのハルターンの湖の水上太陽光発電所に設置されるソーラーパネル。

ドイツ・ハルターンの湖の水上太陽光発電所に設置されるソーラーパネル。

Martin Meissner/AP Photo

レポートでは2つの未来を比較している。1つは、世界が太陽光、風力、バイオエネルギーなどの再生可能エネルギーに急速にシフトする未来。もう1つは、世界がこれまで通り、化石燃料に大きく依存したビジネスを続ける未来だ。

WWFの気候・エネルギーに関する主任科学者で、レポートの主執筆者であるステファニー・ロー(Stephanie Roe)はInsiderにこうに語っている。

「(再生可能エネルギーに)急速にシフトする未来は、気候変動の緩和に不可欠であるだけでなく、生態系や野生生物、そして我々の繁栄にとっても優れていることが、数値にも表れている」

数百万人もの命が危険にさらされている

バングラデシュの首都ダッカの交通渋滞。

バングラデシュの首都ダッカの交通渋滞。

Mohammad Ponir Hossain/Reuters

障害調整生存年(Disability-adjusted life years、DALYs)とは、理想の寿命に対して、障害によって影響を受けた年数と早死によって失われた年数のことだ。この指標によって、例えば、大気汚染や気候変動で健康リスクに曝された寿命について、世界規模での評価が可能になる。

WWFとBCGは、この指標を用いて2つのシナリオで犠牲となる年数を推計した。

世界が再生可能エネルギーに急速にシフトした場合でも、そのエネルギーシステムは人間の健康を害し、2050年のDALYsは3000万年になると推計された。

2023年8月の時点で、テキサスの電力使用量は10回記録を更新した。

2023年8月の時点で、テキサスの電力使用量は10回記録を更新した。

Nick Oxford/Reuters

つまり、2050年の1年間で、エネルギーシステムの影響により、約3000万人が寿命を1年縮めるか、障害を1年余分に負うか、あるいは1500万人が寿命を2年縮めることになる。

このような健康への影響は、ほとんどが大気汚染と気候変動によるものだが、他にも原子力エネルギーに関連する毒性や放射線によるものもある。

しかし、化石燃料に依存した未来では、2050年だけでDALYsは2億1100万年になると推計された。これは、再生可能エネルギーにシフトしたシナリオよりも1億8100万年多い。

化石燃料は人間の健康にとって最悪なもの

ガソリンや石炭、ディーゼルなどの化石燃料が致命的なのは、燃焼すると二酸化炭素など熱を蓄えるガスを大気中に放出するからだ。それが地球の平均気温を上昇させ、異常気象を悪化させている。

さらに、有毒ガスや粒子状物質といった喘息、肺がん、心臓病、脳卒中のリスクを高める可能性のある粒子も放出する。

気温上昇、風、排気ガスが重なり、大気汚染の厳戒態勢が発令されたロンドンの空。

気温上昇、風、排気ガスが重なり、大気汚染の厳戒態勢が発令されたロンドンの空。

Dylan Martinez/Reuters

アメリカ肺協会によると、これらの汚染物質に日常的にさらされる原因となっているのは、車の排気ガスやガスストーブだ。鉱山や石炭火力プラント、その他の化石燃料施設も有毒物質を排出している。

ハーバード大学の科学者によると、化石燃料の燃焼による大気汚染が原因で、2018年だけでも870万人以上が早死している可能性があるという。これは世界全体の死亡者数の5人に1人にあたる。

「すでに分かっていたが、数字で示されるのはいいことだ」と、ボストン大学公衆衛生大学院のジョナサン・ブオノコア(Jonathan Buonocore)助教授(環境衛生学)はInsiderに語っている。

WWFとBCGのレポートは、2022年についても分析し、現在のエネルギーシステムはすでに大きな犠牲を強いており、1億5900万年の健康寿命が奪われたと結論付けた。

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