オーストラリア・シドニーで2023年11月に開催されたテックイベント「SXSW Sydney 2023」。
撮影:横山耕太郎
「スタートアップの育成は簡単ではなく時間がかかる。メンタリングを含めた細かいケア、いろいろな形での支援が求められている」
オーストラリア政府の担当者は、スタートアップ支援の重要性についてそう熱弁した。
スタートアップの育成は、日本だけでなく世界の国々の課題だ。
10月、オーストラリア・シドニーで開催されたテックイベント「SXSW Sydney 2023」で、スタートアップ展示ブースを取材する機会があった。
撮影:横山耕太郎
オーストラリアはかつて「スタートアップ不毛の地」と呼ばれたこともあったが、国もスタートアップ育成に力をいれており、世界的に有名なグラフィックデザインのCanvaなどのユニコーンも生まれている。
いまオーストラリアで活躍しているスタートアップは、どんな企業なのか? 野心あふれる4社を紹介する。
アレルギー対応レストランをアプリ検索
アレルギーに対応できるレストランを探せるアプリ・foodini。
撮影:横山耕太郎
「創業者はグルテンアレルギーのアイルランド人男性なのですが、オーストラリアにもアレルギーを患っている人は多く、国としての課題となっているんです」(foodiniのElla Bummingさん)
食品アレルギー情報や、菜食主義などの食生活を入力することで、自分の食生活にあったレストランやメニューを検索できるサービスがfoodiniだ。
同サービスは約3年前にローンチした。ピッチコンテストで好成績を収めたこともあり、シドニーで初開催となったテックイベント・SXSWでブースを構えたという。
将来的にはアメリカでのサービスローンチも検討しているといい、現在はVCなど投資家へのアピールを続けているという。
「3人に1人のオーストラリア人が、アレルギーなど食事に制限があると言われています。国内外に大きなニーズがあるサービスだと思っています」
地域に合ったエコ住宅改修を提案
EvitatはAI を活用した住宅改修のプラットフォームだ。
撮影:横山耕太郎
「地域に合った最も効率的なエコハウスを作ることができるサービスです。オーストラリアの次はドイツでの展開を予定しています」(EvitatのCOO・Armin Towfigh Niaさん)
Evitatは、AI を活用した「住宅改修のプラットフォーム」。このサービスでは、現在の住宅をよりエコにするための方法を提示してくれる。
「例えば気温などのデータから、その家に適した断熱塗料を提案できます。家を建てるときやリノベーションするときに、このサービスを使ってオーダーがすることができ、家を引き継ぐときにの証明にもなる」
日本を含めて、エコ住宅への関心は高いといい。同社のCEOはドイツ出身で、ドイツでのサービス展開を狙っている。
「ドイツはエコ住宅のルールがどんどん厳しくなっている。一方でエコ性能について情報開示が求められるようになっており、データ開示という意味でも価値のあるサービスだと感じています」
2年前に起業したばかりだと言うが、ドイツだけでなく世界を目指し「2030 年までに、世界100 万人のリフォーム業者をサポートし、持続可能な影響を与えること」を目標に掲げている。
オリーブの搾りカスをアップサイクル
Nun Sustainable Technologyはオリーブの搾りカスのアップサイクルを行っている。
撮影:横山耕太郎
Nun Sustainable Technologyはブラジル生まれのスタートアップ。
オリーブオイルを搾ったあとの「搾りカス」を先端技術に基づきアップサイクル(資源化)し、主に化粧品向けの天然原料を開発・生産している。共同創業者は3人の女性で、いずれも科学のバックグラウンドがあり博士課程を持っている。
共同創業者の一人で、薬学に関するテクノロジーの博士であるSimone Jacobus Berlitzさんは「農業とテクノロジーの視点から、アップサイクルに取り組んでいます。今回のシドニーでの出展を機に、農業が盛んなオーストラリアでもパートナー企業を見つけたい」と話した。
リスキリングサービス、米国進出も
BtoBのリスキリングサービス「HowToo」。
撮影:横山耕太郎
日本でも政府が支援を打ち出しているリスキリングだが、オーストリア生まれのサービスもあった。
「企業がハッキング被害を受けていることもあり、サイバーセキュリティーが一番人気のテーマです。あとリーダーシップなどのソフトスキルやオンボーディング関連、最近ではジェンダーギャップ、コロナ後は特にメンタルヘルスに関わる内容も人気です」(HowTooの担当者)
HowTooは学びコンテンツを提供するBtoB企業で、それぞれの企業に最適な学びのカリキュラムを提供することを強みとしている。
1つの授業の時間は20分程度にまとめており「短い時間でリアルタイムで学ぶことができれば、脳は多くの情報を取り入れることができる」という。
「例えば大学の職員と巨大な製造メーカーとでは、必要な内容はまったく違うものになります。大学ではより多様性を重視した内容になるかもしれないし、製造メーカーでは製品管理が大事になるかもしれない。
私たちは既成の巨大プラットフォームでなく、顧客と一緒になってコースを作っていきます」
HowTooは、数カ月以内にアメリカ進出が決まっているという。
スタートアップの出展コーナーには、オーストラリア政府もブースを出展していた。
撮影:横山耕太郎
スタートアップ育成の先進国の背中を追いながら、日本と同じように、国を上げてスタートアップの育成を進めているオーストラリア。
米国調査会社のスタートアップ・ゲノムなどが発表した、世界都市別のスタートアップ・エコシステムのランキングでは、シドニーは20位、東京は15位だった。
オーストラリアも決して「成功例」とは言えないかもしれない。ただ実際にシドニーでスタートアップを取材してみると、日本のスタートアップにも通じる「成長への熱気」を肌で感じることができた。