ゴールドマン・サックスのストラテジストは、アメリカ経済が2024年にソフトランディングすると見込んでいる。
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ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(Goldman Sachs Asset Management:GSAM)によると、投資家は2024年にあまり大きな変化を期待すべきではないという。
2兆7000億ドル(約405兆円、1ドル=150円換算)規模の資産を運用するGSAMは、2024年は金利が高止まりし、インフレ率が下降線をたどることでペースは落ちるものの、アメリカ経済は拡大を続けるとの見通しを基本的なシナリオとしている。
この予測は、ウォール街のコンセンサスとほぼ一致している。しかし、GSAMのストラテジストたちは自分たちの信念に自信を持っている一方で、特に2023年は将来を予測するのが決して簡単ではないことが明らかになったため、謙虚な姿勢を保ちながら方向転換の準備を進めている。
GSAMのマルチアセット・ファンド部門の責任者であるアレクサンドラ・ウィルソン-エリゾンド(Alexandra Wilson-Elizondo)氏は、11月7日に開催されたバーチャルカンファレンスでこう述べている。
「もし、誰もが大きな成功を期待していたのに実現しなかった今年の学びがあるとすれば、それは、私たちは常に現状に挑戦していかなければならないということです」
2024年は消費者と世界の紛争が主役になる年に
中央銀行の政策決定は株価や経済に大きな影響を与えるため、2023年は金利が市場の主な焦点となった。
GSAMの投資責任者のアシシュ・シャー(Ashish Shah)氏はカンファレンスで、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを終了する可能性が高い2024年には、このシナリオは変わるはずだと述べた。しかし、金融状況は今後も引き続き逼迫したままであり、経済は望ましくないショックにさらされるだろうとも付け加えた。
「長期にわたる金利の高止まりは、借り換えが始まる2024年に、短期金利にさらされている多くの企業や消費者に打撃を与え始めるでしょう」
また、シャー氏によれば、もう一つの逆風はFRBが債券を売却することでバランスシートを縮小させていることだ。これにより、流通する現金の量が減少し、経済成長も後退する可能性が高いという。
そして、FRBの決定から消費者の力に焦点が移ろうとしているとシャー氏は言う。
2023年9月の個人支出は予測を上回ったが、長年にわたって弱気派のエコノミスト、デビッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)氏によると、消費者は今や枯渇したパンデミック時代の景気刺激策に大きく依存してきたため、その強さは実態からかけ離れているという。そのため、“補助輪”がなければ支出は減退し、長らくその時を待っていた景気後退がやってくるだろうとローゼンバーグ氏は警告している。
シャー氏は「政府から大きな支援を受けることができたため、消費者はかなりの金額を蓄えることができ、それが個々の状況に関係なく支出能力につながった」と言いし、低所得層がこの支援の最大の受益者だと指摘する。
シャー氏は、個人消費が劇的に減速するとは言わなかったが、景気刺激策の終了により、買い物の習慣が変化したと指摘している。また、消費者はより安価な商品を購入して大規模な裁量購入を減らしているが、これがインフレ率をFRBの目標である2%に戻す助けになるという。
またウィルソン-エリゾンド氏は、2024年に注目度が高まるもう一つの分野として労働市場を挙げている。失業率はこの数カ月で上昇しており、ウィルソン-エリゾンド氏によれば、2024年には失業率が大方の予想を上回る可能性があるという。
しかし、個人消費の低迷や失業率の若干の上昇は、イスラエルとウクライナの緊張の高まりが世界経済に及ぼしうるダメージに比べれば、影響が少ないという。投資家たちは紛争が景気の急激な減速を引き起こすリスクを見逃しているとGSAMのストラテジストは述べている。
GSAMのプライベート・エクイティ部門のグローバル共同責任者であるマイケル・ブルーン(Michael Bruun)氏はカンファレンスで次のように述べた。
「われわれはコントロールできないリスクを嫌います。予測もコントロールもできないのが地政学的リスク。そして現時点では、われわれが目撃しているものに対して、そのリスクはおそらく過小評価されています」
しかし、市場に織り込まれていないのは予期せぬリスクだけではない。ゴールドマン・サックスは、今後10年間で生成AIが年間1.5%という驚異的なペースで生産性を向上させると予測しており、ブルーン氏によると、これは電力やインターネットの初期の影響に近いレベルだという。
「経済へのより大きな意味合いに目を向ければ、これはかなりの生産性の向上につながる可能性が高いでしょう。AIがアメリカの経済に根本的な影響を与えることに疑いの余地はありません」
2024年に行うべき6つの投資
GSAMのストラテジストは、慣れ親しんだ経済環境のおかげで2023年に大きな成果を出した投資の多くは2024年にも再び高い収益を上げると見ている。
ウィルソン-エリゾンド氏によれば、米国株は過去15年間一貫して世界の株のトップを維持しており、今後もその多様化した世界的な収益源のおかげでトップを保つという。しかしそれと同時に、米国株は短期的には特に好調ながらも、長期的には大きな収益を出さない可能性があると見ている。
そしてGSAMによれば、アメリカ以外ではインドと日本が投資に最適な市場だという。2023年5月にGSAMのポートフォリオマネージャーは、これらの国の企業が最善の投資先の一つだと述べている。
インドのBSE SENSEX指数の上昇は2023年には6.8%と比較的小幅だったが、3月下旬以降は13%近く上昇している。これは、インド企業が地政学的リスクを軽減するためにサプライチェーンを中国から分散させていることが一因だ。その結果、世界最大の人口を誇るインドは製造業ブームを享受しており、この勢いは当分衰えそうにないとウィルソン-エリゾンド氏は語る。
日本株は2023年最大の勝者の1つであり、日経平均株価は23%以上も上昇している。日本企業の多くが何年かぶりに過小評価されている自社株を買い戻し配当金を増額することで株主に報いたことが、この株価上昇に拍車をかけた。
また、GSAMは債券にも期待を寄せている。債券は金利の急騰によりクオリティとデュレーションの面で大打撃を受け、FRBが金利を高水準に維持している間も圧力を受け続けている。債券価格と動きが反比例する利回りが金融危機以来の最高水準にあるため、債券市場の状況はここ数十年でも大いに魅力的な状況にあると複数の債券専門家は10月にInsiderに語っている。
投資家はリスクに対してより良いリターンを要求するため、債券利回りの上昇は通常、リスクの高さを反映する。しかし、利回りが魅力的なのはジャンク債だけではない。ウィルソン-エリゾンド氏によれば、投資適格企業の債券は堅調なファンダメンタルズを誇るにもかかわらず、1桁台半ばの利子を支払っているという。
「われわれは利回りが4〜6%の範囲で、質を高めるアプローチを提案しています。これは2009年から2019年の10年間に見られた数字の約2倍。簡単に言えば、リターンを求めて無理をする必要はないということです」(ウィルソン-エリゾンド氏)
ウィルソン-エリゾンド氏は、洗練された投資家らはプライベート・クレジットを利用してリターンをさらに高めることができ、11〜12%という高い利回りが得られると述べている。またGSAMによると、このオルタナティブ投資はポートフォリオを多様化しつつ、ハイイールド債よりも低い損失率を実現できるという。
「投資家は資金調達コストの上昇を有利に活用できるとわれわれは考えています」(ウィルソン-エリゾンド氏)
最後に、10月初旬以来9%以上も価格が上昇しているゴールドは、地政学的リスクに対するヘッジを提供しながらもポートフォリオの多様化に役立つため、保有する価値があるとGSAMは考えている。