楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏。
画像:筆者によるスクリーンショット
「基地局の無線機の中に700MHz帯用のバンドを設置するだけで同じアンテナから帯域を狭めることなく電波を発射できる。基地局1局当たり544万円でおつりが出る」
楽天グループの三木谷浩史代表取締役会長兼社長は、同社2023年度第3四半期の決算説明会でそうコメントし、新たに割り当てられたプラチナバンドの開設計画に関して、他社の懸念を一蹴した。
三木谷会長は、仮想化技術によるプラチナバンドの対応の容易さに自信を示しており、コストを抑えた展開が可能だとしている。
「すごく遅い」楽天の新エリア展開に競合各社が苦言
新規参入となった楽天モバイルは、当初、割り当てられた周波数帯域が1.7GHz帯のみ。しかし、広域エリアを構築しやすい、いわゆるプラチナバンドとして700MHz帯を新たに割り当てられた。
700MHz帯は遠方まで電波が届くため、出力を高くして高い鉄塔から吹き下ろすように設置されることも多い。それに対して楽天モバイルはこれまで、ビルなどの建造物の屋上に加えて、比較的低いポール型の基地局を多く設置してきた。
そうしたことから、KDDIの髙橋誠社長やソフトバンクの宮川潤一社長は各社が直近に開催した決算会見で、楽天モバイルは新たな鉄塔建設やアンテナの設置が必要になるとの考え。特に楽天にローミング回線を提供するKDDIの髙橋社長は楽天モバイルの開設計画が「すごい遅いペース」といった判断を示していた。
例えば、髙橋社長は11月2日の決算会見で「鉄塔などを見ているとギリギリで作っているので、700MHz帯のアンテナを積むのは苦しい。もう一度700MHz帯用の鉄塔を建てなければならないエリアも結構出てくる。投資が必要とみている」と指摘。
ソフトバンク宮川社長も11月8日の決算会見で、「1万局で500億円ちょっとの設備投資でさすがにできるとは思わない」と話し、開設計画の投資額に疑問を呈していた。
NTTドコモの井伊基之社長は、「アンテナを立てていかなければならず、LTEのアンテナは結構大きくて場所も(設置のためにビルの管理者などとの)折衝も投資も必要」と、設置の難しさを指摘していた。
「1局544万円でお釣りくる」三木谷会長は反論
楽天モバイルの無線機器は、アンテナなどは変える必要がなく「700MHz帯用の機器を追加してソフトウェアの更新で発射できる」という。
出典:楽天
そうした各社の声に対して、三木谷会長は「他社は新しいアンテナを設置したり無線ユニットを搭載したりしなければならないが、仮想化しているので700MHz帯のバンドを設置するだけで、同じアンテナから帯域を狭めることなく電波を発射できる」とする。
開設計画では、1万局の基地局を544億円で設置するということになっていたが、「1局当たり544万円でできるかということで、十分おつりが出るぐらいでできる」と三木谷会長はアピールした。
「工事業者が(アンテナに)行ってパカパカとはめてつなぐと、700MHzを発射できる。それが仮想化技術の特徴で拡張性が高いということが生きてくる」(三木谷会長)
理由のもう一つとして、「アンテナのパワーが業界でも1位2位を争うパワー」(三木谷会長)である点も挙げる。
既存の1.7GHz基地局に対して機器の取り付けや交換、ソフトウェアの更新で対応が可能なため、コストも抑えられる仕組みだという。同じポール、同じ高さでできる、という。
700MHz帯のアンテナは物理的に大きくならざるをえないが、現在でも十分なアンテナゲインがあり、日本特有のスペックとして4×4MIMOに対応、「非常に高性能なものになっている。(基地局が)大きければいいというものではない」と三木谷会長は強調する。
コストを大幅に削減しつつインフラを構築していく計画。
出典:楽天
現在のネットワーク投資額も2000億円の今期目標に対して下回り、効率化を追及している。
2024年度にはさらに半減させる見込みで、三木谷会長は「楽天グループの総力を挙げて知恵と工夫で、非常に高性能だけどコストの安いネットワークを構築していきたい」とする。
他社の心配を尻目に1300万契約、収益増を目指す楽天
ソフトバンクの宮川社長は、800MHz帯のプラチナバンドを獲得したときは、「3年間でCAPEX(設備投資)が2兆円で、しゃかりきにやってもまだつながらないソフトバンクと言われた」と話しており、真っ向から反論している形だ。
仮想化技術や当時の3G、4G、5Gの違いなど、時代が違うので同列には語れないが、過去の経験から「チューニングには相当なノウハウがいる」と宮川社長は強調する。
さらに「スタートダッシュはを一生懸命やる時期」だと宮川社長は言うが、楽天モバイルの計画では、「最初に都心部建物内のカバレッジ対応に集中し、計画の10年間では後半に設備投資が集中」となっている。
遅れていた新ローミング契約に基づくKDDIローミングが稼働し始めて、エリアなどの問題は今後改善していく見込み。
出典:楽天
さらにKDDIとの新ローミング契約では、ネットワークの最適化が遅れていたが、ユーザーの多い繁華街では一部で稼働が始まり、年内には問題も解決して運用を開始する。
一部の残ったエリアでも、2024年1~3月までには稼働するため、700MHzの運用開始を待たずにエリアの改善が実現できる見込み。
楽天グループとしては、設備投資の重さを懸念する投資家の声に応える必要があり、コストを下げるアピールをしつつ10年間の後半に投資を先送りし、KDDIのローミングでカバーしながら契約数の拡大による黒字化を狙う戦略だろう。
既存の楽天モバイルのネットワークは、「1300万人ぐらいはサポートできる」と三木谷会長。ユーザー数がそのレベルに拡大するまでは新たな追加投資は「当面はあまり必要ない」という考えだ。
契約数は拡大。24年12月までに800万契約に達する可能性が見える純増数。
出典:楽天
「最強プラン」のリリース以降、契約数も順調に拡大しているとの認識で、10月には純増数が19.2万人に達した。
1割ほどは他社回線の副回線の利用ということでARPU(1ユーザー当たりの月間平均収入)は大きくないが、それでも10月の段階で542万回線に達し、さらに解約率も1.3%まで低下したことで、契約数の増加を加速させる。
当初は8%に達していた解約率が1.72%、調整後では1.3%まで縮小した。
出典:楽天
あまりユーザー数が急増すると「パケ詰まり」「パケ止まり」といった、通信できない・通信しにくい問題が発生する可能性もあるので、同社としてはユーザー数の増加もコントロールしたいところだろう。
ARPUは837円から2046円まで増加。これをさらに拡大させることを目指す。
出典:楽天
ARPUは2046円まで拡大しているが、さらにコンテンツサービスなどとのセットでAPRU・4000円までを目指し、契約数の増加だけでなく売上の増加を目指していく。