今やっている仕事が嫌いという人なら、会社を辞めたいと思うことが少なからずあるだろう。あるいは、もうどこにも勤めないで、近所の公園でボランティアでもして過ごしたいと思うかもしれない。デスクワークから解放され、新鮮な空気を吸いながら社会へ恩返ししようかと空想してしまう。
しかし、ほとんどの人にとって、このように自然の中で気ままに過ごすことが現実になることはない。なぜなら、仕事とは、たとえ嫌いな仕事であっても、お金を稼ぐための手段だからだ。
そう、私たちの多くはお金を必要としている。「大退職時代(Great Resignation)」と呼ぶ経済学者がいるほど、それが賢明であろうとなかろうと誰もがこぞって仕事を辞めているような状況で、それを理解するのは難しいかもしれない。
米世論調査大手ギャラップ(Gallup)が実施した、約11万2000の事業所を対象とした大規模な調査では、51%の労働者が現在の仕事に愛着を持っていないことが分かった。2021年9月の1カ月間だけで440万人のアメリカ人が離職したのも不思議ではない。
幸いにも、行き詰まりを感じている人たちには、仕事への満足度を高め、心理的な苦痛を和らげる方法がある。それは人生やキャリアを一新させる必要はなく、内省と自己評価を用いた方法だ。その効果は大きく、ほんの少しやり方を変えるだけで、毎朝、気分の落ち込みやイライラを感じることなく出社できるようになる。そして、おそらく今の仕事もうまく進められるようになるだろう。
業界によってさまざまな種類の職種があり、仕事の内容も大きく異なる。しかしどんな仕事でも、学び、成長する機会をつくることは可能だ。社会心理学者で『Decoding Greatness(未訳:偉大さの解読)』の著者であるロン・フリードマン(Ron Friedman)は、「好奇心のマインドセット」を持つことが大切だと述べている。
現在の売り手市場は、働き手側にとっては追い風だ。とりわけ人手不足が深刻な小売業界では、優秀な人材を獲得し、維持しようと必死だ。おそらく読者の職場でも、雇用主は従業員に長く働き続けてほしいと思っているはずだ。
より楽しく仕事をするために、気軽に実践できるコツを6つ紹介しよう。
1. 嫌いな理由を明確にする
転職を考える前に、まずは現状を把握することが重要だ。自分の仕事のどこが嫌なのか? 一番イライラすることは何か? 嫌がらせをする同僚、「有害」な社風、もしくは1日の終わりに精神的にも感情的にも疲弊してしまう仕事そのものなのか?
不満の原因を突き止めれば、その情報をもとに、今後、同じような状況に直面した際に対処する術、あるいは回避する術を身につけることができる。
キャリア形成の専門家、リンジー・ポラック(Lindsey Pollak)は『ハーバード・ビジネス・レビュー』の記事の中で、人は一見すると理想的な状況よりも、実は困難な状況下でのほうが自分自身について多くを学べると記している。つまらない仕事を経験することは、アジリティ(変化の激しい環境にも対応できる機敏性)、レジリエンス(回復力)、臨機応変さなどのスキルを高めるための素晴らしい手段となる。
不満に思う理由を正確に把握することは、最終的に、よりよい環境に身を置くか、今置かれた場所で花を咲かせるかを決める判断材料にもなる。
2. 自分の強みを知る
自分の強みを特定するプロセスは旅にたとえられるように、長期にわたって続く。ギャラップやポジティブ心理学の米非営利団体VIAインスティテュート・オン・キャラクター(VIA Institute on Character)は強み診断ツールを提供している。
また、勇気がいるかもしれないが、上司や同僚、友人に自分の強みを聞いてみるのもいいだろう。実際、それを実践したうえで人事業務に挑戦したローラ・サップ(Laura Sapp)は、今では住宅サービス会社のアンジー(Angi)やニュースサイトのデイリービースト(The Daily Beast)などを傘下に収める、時価総額130億ドル(約1.5兆円)の米持株会社IACの人事部長を務めている。
プロジェクトマネジメントや人材開発など、自分ならではの得意分野を把握したら、そのスキルを発揮できるような仕事の進め方を考えていく。これは「ジョブ・クラフティング」と呼ばれ、個人的にやりがいのある仕事に自ら修正していく手法である。
ロンドン・ビジネススクールの組織行動論の教授で、『Alive at Work(邦訳:脳科学に基づく働き方革命)』の著者であるダニエル・ケイブル(Daniel Cable)は、上司は最初、あなたが自分の職責を再定義することを快く思わないかもしれないと警告する。しかし仕事の質が向上し、あなたがより主体的に取り組んでいるのを見れば、上司も理解してくれるはずだ。強みを生かした仕事は、パフォーマンスが向上しやすいからだ。
3. 「意欲診断」をする
仕事のあらゆる面が煩わしいと感じていても、実は楽しんでやっている作業も少しはあるかもしれない。
心理療法士でリーダーシップコーチのサラ・グリーンバーグ(Sarah Greenberg)は、このような行き詰まりを感じている人に、さまざまな仕事をしているときに湧き出る感情を記録するよう勧めている。彼女はこれを「意欲診断」と呼んでいる。
心理療法士でリーダーシップコーチのサラ・グリーンバーグ。
Shelly Puri
例えば、プロジェクトレポートのためにブレインストーミングをすると気分が高揚するのに、書く作業になると壁に頭を打ちつけたくなる(またはその逆)、ということがあるかもしれない。職場での年次によりけりだが、耐えられない作業は同僚に手伝ってもらうこともできる。
また、意欲診断を通して、今の仕事にも夢中になって取り組める部分があることに気づけるかもしれない。だからこそ、仕事を作業ごとに分解することはとても重要だ。新たな気づきがあると、性急な退職を防げるだろう。
4. 成長できる機会を捉える
仕事が嫌いになると、学びや成長への意欲が減退し、一種のジレンマに陥ってしまう。フリードマンいわく、学びは「別の職を得たり、現在の仕事を続けたりするためにも不可欠」だからだ。
では、どのように学ぶとよいのか。もしあなたがピープルマネジャー(メンバーの成功にコミットするマネジャー)で、出席した会議がとても素晴らしかったとしたら、その会議の録音を解析してはどうだろうか。司会者の優れた点を突き止められれば、同じように会議をうまく進行するコツが分かるかもしれない。
ただし、これは通常、自ら進んで実践する必要がある。
「上司や同僚が自分の成長の必要性に気づいてくれるのを待つだけでは、失望することになるでしょう」とフリードマンは助言する。
5. ネガティブな同僚を避ける
不幸は仲間を好む。同じように仕事を毛嫌いする同僚と「トラウマ・ボンド(ゆがんだ絆)」を築きたくなるものだが、キャリアデザインの専門家でライズアップ・コンサルティング(Rise Up Consulting)の創業者兼コンサルタントのレベッカ・ゲブハルト(Rebecca Gebhardt)は、不満を抱えたクライアントには、その逆を行うようアドバイスしている。
「前向きな人や高みを目指している人と一緒に時間を過ごすことです。育むべきはこういう人間関係です。将来自分のためになりますからね」とInsiderに語った。
すでに仕事でやる気をなくしている場合、悲観的な同僚とお互い哀れみ合っても、負のスパイラルが加速するだけだ。
「職場には、延々と仕事の愚痴を言ったり、うわさ話をしたりする人もいます。そんなネガティブな同僚との付き合いは、なるべく減らしましょう」とゲブハルトは助言する。
6. 状況は移り変わると知る
とはいえ、あなたも一生行き詰まっているわけではない——グリーンバーグはコーチングの研修で、あるスタートアップ企業で働く男性に、そうアドバイスをしたことがある。
その男性は長時間労働で家族と過ごす時間があまり取れず、イライラしていたという。しかしグリーンバーグの助言がきっかけで、今の仕事を、自分が本当に望む人生やキャリアへの「橋渡し」だと考えられるようになった。
つまり、その仕事は一時的なものであり、その時々の家族を支えるための最善策だったということだ。この「橋」をイメージすることで、「彼は現状を受け入れやすくなり、その時に払っていた犠牲に対しても、気持ちが楽になりました」とグリーンバーグは話す。
今すぐ今後のキャリアをすべて計画する必要はない。キャリア・ハピネス・コーチであるエイミー・グエン(Amy Nguyen)は、クライアントに毎週集中して取り組みたいことを1~3つ挙げてもらい、後日その中で一番達成感を得られたものを振り返るよう指導している。このやり方だと、「集中力が高まるし、気負わずできます」とグエンは話す。
このような短期的なアプローチは、心を解放させる。将来のキャリアを考えたとき、今の仕事は満足できるものではないかもしれない。それでも、これから1カ月、あるいは1年なら、きっとうまくこなせる。そして、仮に辞めると決めたとしても、円満に退職できるだろう。
※この記事は2022年1月21日初出です。