Amazon; Insider
米連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)はアマゾンに対する訴訟で、同社とジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)前CEOは利益を上げるために、アマゾンのサイトを無関係な「ジャンク広告」で溢れさせていると批判した。
だが、その広大なマーケットプレイスの中に、この動きから一部除外されているページが存在するようだ。それがアップル製品のページだ。
アマゾンが直接販売するアップルの最新モデルのページは、レイアウトが非常にすっきりしており、ページの一番下まで広告やおすすめ商品が表示されていない。この件に詳しい関係者によると、他のほとんどのブランドはこうした特別扱いを受けていないという。
他社の製品ページには、競合他社やときには無関係なブランドの広告やおすすめ商品が並んでいる。例えば、サムスンのGalaxyやマイクロソフトのSurfaceのページには複数のバナー広告が並び、「Products related to this item(このアイテムと関連する商品)」や「4+ star picks(日本語サイトでは「星4つ以上のおすすめ」)」といったタブの下にスポンサーのおすすめ商品が表示されている。
アップルの最新モデルのページには、このような余計なマーケティングは一切ない。この違いは、サムスンをはじめとするアップルのライバル企業から怒りを買っていると、ある関係者は語る。
クリーンなiPhone検索
アマゾンで「iPhone」「iPad」と検索しても、同じようなクリーンな結果となる。Insiderが確認したところ、一番上のバナーは常にアップルの広告で、ページの一番下にバナー広告が1つ表示されるだけだ。
これとは対照的に、サムスンやソニーなど他社ブランドの検索結果には、ライバルのスポンサー広告が少なくとも2つか3つは表示される。また競合他社に比べて、アップル製品が他のブランドの検索結果に表示されることは少ない。
「アップルが他のブランドには提供されていない取引をアマゾンと行ったことは明らかだ」とEC調査会社マーケットプレイス・プラス(Marketplace Pulse)のジュオサス・カジウケナス(Juozas Kaziukenas)CEOは語る。
「同じような設定のブランドは思い当たらない」
プライベートな要求
米下院司法委員会が以前公開した内部メールによると、この異例の取り決めは、アップルがアマゾンに対して「iPad」などのアップル製品の名称が検索された場合、検索結果に自社製品のみを表示するよう秘密裏に要求したためだという。当時、アップルはアマゾンに対して、アップル製品のページには、おすすめ商品としてアップル製品以外は一切表示しないことも求めていた。
「WW framework terms」と題されたこのメールには、2018年にアップルとアマゾンの間で結ばれた広範なパートナーシップ契約の以前に行われた議論のポイントが示されている。この契約によって初めて、アマゾンはiPhoneやiPadをはじめとする、さまざまなアップル製品を直接販売できるようになり、アマゾンのマーケットプレイスでアップル製品を販売できるのは正規販売店のみにするなどの偽物対策が講じられた。
「アップルが検索結果や詳細ページで、競合ブランドを販促することを望んでいないことは理解している」と当時アマゾンの小売部門トップだったジェフ・ウィルケ(Jeff Wilke)はEメールに書いている。
特に注目すべきは、FTCによる裁判で議論されたように、アマゾンがマーケットプレイス全体に以前よりも多くの広告を掲載するようになっているなかで、アップルがこの要求を行ったことだ。
アマゾンの広告部門は2022年に380億ドル(約5兆7000億円、1ドル=150円換算)以上の収益を上げ、成長と利益の重要な原動力となっている。だが、サイトを広告で埋め尽くすことは、ブランドを遠ざけ、加盟店にさらなるコストを課す危険性がある。また、消費者を混乱させるおそれもあり、アップルはこれを避けようとしていたと思われる。
アップルとサムスンの製品詳細ページの比較。
Amazon/Insider
Insiderがアップルに取材したところメールで回答があり、2018年のアマゾンとの契約によって、特定のアップル関連ブランドのキーワードが検索された場合、他社ブランドはアマゾンのECサイト上の広告を購入できなくなったことを認めた。ただしサードパーティーブランドは引き続き、アップルの名称を含む一般的なキーワードで広告を購入できると付け加えた。
マーケットプレイス・プラスのカジウケナス氏によると、つまりブランドは「iPhone 15 pro case」のような一般的なキーワードでは広告を購入できるが、「iPhone」のような特定の検索キーワードでは広告を購入できないという。
アップルの広報担当者は、アップルの目標は可能な限り最高の顧客体験を創造することであり、他の企業が同じことをすることは自由だ、と付け加えた。
アマゾンとサムスンの広報担当者にもコメントを求めたが、返答はなかった。
「偽物と安全性の問題」
またアップルはInsiderの取材に対し、アマゾンとの2018年の合意は、マーケットプレイスにおける偽物と安全性の大きな問題に対処するためのものだったと述べた。この契約に先立ち、アップルは偽品を排除するために数十万件の削除要求通知をアマゾンに送っていた。だが実際に製品を購入したみたところ、継続して偽物が送られてくる確率が高かったとアップルは付け加えた。
だが上述の取り組みにより、アップルはアマゾンのECサイト上で、アップル製品の偽品や安全ではない製品を大幅に減らすことができたと述べた。
「失われた広告収入を補償せよ」
下院司法委員会のメールによると2018年当時、アマゾンは当初アップルの要求を拒否していたようだが、金銭的な交渉を行う可能性を残していた。
「アップル製品が検索されたときに、検索結果にアップル製品のみを表示するよう、オーガニック検索のアルゴリズムを変更することはできない」と、当時アマゾンの小売部門トップだったウェルケ氏はメールに書いている。「オーガニック検索」とは、広告を含まない純粋な検索結果を指す。
ウィルケ氏はまた、同社は製品の「詳細」ページで広告をブロックしたり制限したりしていないと書いている。だがアップルは、こうしたことを実現するために金銭を支払う可能性があるとも記している。
「アップルは、失われた広告収入の代わりにこうした広告を購入するか、損失を補償する必要がある」
アマゾンの社内メール。
House Judiciary Committee
メールの一部は伏せられており、取引の正確な詳細を知ることはできなかった。しかし、この件に詳しい人物によると、広告に関する取り決めは広範な合意の中のひとつだったという。
この人物は、アップルはアマゾンで「大規模な優遇措置」を受けていると述べた。アップルはアマゾン上でのブランド体験に非常に敏感で、「厄介な」ライバル企業が製品詳細ページを埋め尽くすことを望んでいないと付け加えた。
デジタルの末端拠点
小売業者はこれまで、特定商品の特設コーナーなど、実店舗で特別な販促スポットを提供してきた。アマゾンのアップル最新モデルの扱いは、そのデジタル版と言えるかもしれない。
だが、アマゾンがこの特別扱いを他のブランドに対しても利用可能にするかどうかはわからない。Insiderはサムスン、マイクロソフト、ボーズ、ソニー、LGの最新モデルを確認したが、製品ページや検索結果ページにはスポンサー広告やおすすめが多数表示されていた。
フラストレーションの原因
だがこの特別扱いは、競合他社の一部にとってはフラストレーションにつながる。例えばサムスンは、この件について不満を漏らしていると関係者は語る。アマゾンの広告チームとシンプルに交渉できるものではないためだ。
Insiderが取材したアマゾンの元シニア広告マネジャーは、アップルのクリーンな製品ページと検索結果ページについて「驚いた、奇妙だ」と語る。
「私のときはこうした裁量権は与えられていなかっただろう」
iPhoneとGalaxyの検索結果ページの比較。
Amazon/Insider
アマゾン広告チームの少なくとも6人の営業担当者がInsiderに語ったところによると、こうしたアップル的な特別待遇を自分のクライアントに適用することはできなかったという。アマゾンの大手広告主は常にこうした独占的な扱いを求めてくるが、アマゾンは多様な検索結果と広告を望んでいるため、通常はそうした要求を拒否している、とそのうちの1人は語った。アップルのクリーンな製品ページと検索結果ページを実現するには、アマゾンの最上級レベルの複数のチームが関与しなければならなかったはずだとこの人物は話す。
「広告枠を買い占めようとする企業には気が重くなる。私はそうした権限を見たことがないし、与えることもできない」
ジャンク広告
アップルに与えられた特別待遇は、仮にそれが顧客体験を損なうものであったとしても、アマゾンが自社マーケットプレイスに多くの広告を受け入れるという方針を前提としていることとはまったく異なる。
FTCは、アマゾンは近年、サイト上の広告を増やしただけでなく、社内で「欠陥広告」と呼ばれる「無関係なジャンク広告」も増やしたと述べた。FTCは裁判の提出書類の中で、ベゾス氏は収益性を高めるためにこうした広告を増やすことを同社に勧めたと批判している。
「ベゾス氏は、顧客に対するサービスを悪化させるにもかかわらず、広告を増やすことで何十億ドルも引き出せるのだから『もっとマイナスを受け入れろ』と幹部に指示した」(FTCの提出書類)
アマゾンは広告の問題に対処しようとしてきた。ここ数年、同社は無関係な広告を排除するために、アップルの特別待遇に似た機能を持つ新しい検索サービスをテストしたと、ある関係者は語る。例えば、ユーザーが「アディダス(Adidas)」と検索した場合、アマゾンはアディダスの製品だけを表示するようにしたと関係者は語る。無関係な商品やおすすめにユーザーが不満を抱いているためだ。だが、Insiderが検索結果を検証したところ、このテストはもはや行われていないようだ。
売上アップの可能性
アップルにとっては、検索結果ページと製品ページがすっきりしたことでメリットがあっただろう。売上の増加だ。
アマゾンの内部データでは、ページの読み込みスピードが速くなると、たとえ1ミリ秒の違いであっても、一般的には売上が上がると関係者は語る。アップルのページには、多くの広告やおすすめが表示されないため、製品ページや検索結果ページがより速く表示され、より良い顧客体験につながる。つまりは、売上アップの可能性をもたらす。関係者はこう語った。
「アマゾンは中立ではない。アップルの方を向いている」