グーグルのサンダー・ピチャイCEO。
Christoph Soeder/dpa via Reuters Connect
ビッグテックのロビイストとして働く人は、すでに政府関係者とのパイプがある可能性が高い。
オープンシークレット(OpenSecrets)のデータによると、2022年時点で、アマゾン(Amazon)のロビイストの82.4%、アルファベット(Alphabet)のロビイストの81.3%が、過去に政府職員として働いていたという。
ビッグテックがこのような「天下り」を通して通商協定の形成に過大な影響力を行使しており、そうすることで自社の利益を守り、規制が及ぶ範囲を抑えている——こうした批判はかねてからあった。
2023年5月には、エリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren)上院議員が報告書の中で、ビッグテックと米通商代表部との間で交わされたメールを根拠に、ビッグテックがキャサリン・タイ(Katherine Tai)米通商代表を含む通商代表部当局者に対し「比類なきアクセス」を得ているとし、デジタル関税などの政策の決定を自社に有利な方向に誘導していると主張した。
「ビッグテックは、特別な天下りにより得たアクセスを利用して、仕組まれた通商政策を密かに推し進めている」(ウォーレン議員の報告書より)
キャサリン・タイ米通商代表。
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Insider編集部は、2022年4月から2023年5月にかけて通商代表部とグーグル(Google)やアマゾンのロビイストとの間で交わされた一連のメールを精査した。メールは活動家グループのデマンド・プログレス(Demand Progress)が情報公開法に基づく開示請求により入手したもので、Insiderに独占提供したものだ。
同メールでは、デマンド・プログレスが言うところの、ビッグテックと通商代表部の「癒着」が浮き彫りになっている。一部のメールでは、通商代表部と現在ビッグテックで働いている元職員との間に存在する密接な関係が示されており、これによりテック企業は、市民社会団体が享受できないような政策立案者への即時的かつ直接的なアクセスを得ていると、批評家は主張している。
このメールの内容はアマゾン、グーグルのロビイストとのやりとりに限定されており、他のテック企業の代表者とのやりとりは含まれていない。
通商代表部の広報担当者はInsider編集部の取材に対し、「通商代表部の全職員は高い倫理的透明性を維持しており、特定の業界や個人を優遇することは決してない」と回答しているほか、タイ代表は労働者や中小企業経営者と面会し、「アメリカの通商政策の策定と実施に彼らの視点が反映されるよう配慮している」と述べている。
「通商代表部の組織風土に問題」
メールでは、米通商代表部当局者がテック企業のロビイストに対して、問題に関する相談を求め、法案の状況を報告する内容が示されている。また、非公開の協議について最新情報の提供までしている。
2023年5月には、通商代表部のアンドレア・ボロン(Andrea Boron)サービス・デジタル貿易担当部長がグーグルとアマゾンにメールで連絡をとり、ブラジルの電気通信庁がグーグルを含むデジタルサービス事業者にネットワーク使用料を課すことを検討していることを知らせ、交渉に関する助言を求めている。
通商代表部の広報担当者は、このメールは「見通しが不透明な時期に、より多くの情報を得るため」のものだったとしている。
「通商代表部は、この規制案に関する立場を形成するうえで、グーグルやアマゾンに協力を求めたり、コメント作成に協力を求めたりしたことはない」(広報担当者)
通商代表部の元職員の中には、アマゾンやグーグルの下でロビー活動に従事する者もいる。例えば、メアリー・ソーントン(Mary Thornton)はかつて通商代表部の部長だったが、最近までアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のトップロビイストだった。グーグルの政府担当のグローバル責任者であるカラン・バティア(Karan Bhatia)は、2005年から2007年まで米国通商代表部副代表を務め、問題のメールの多くで言及されている。
米国通商代表部の出身で、現在はグーグルの政府担当を務めるカラン・バティア。
Byun Young-Wook/Getty Images
一部メールでは、巨大テック企業が重要な政策協議にアクセスを認められていることが明確に示されている。2022年6月には、デジタル貿易担当部長のジリアン・デルーナ(Jillian DeLuna)が、非公開の協議で提示した電子商取引に関するプレゼン資料の写真をソーントンに送り、資料の共有が許可される時期について議論している。
アマゾンの広報担当者は、これはソーントンが議会により設立された政府委員会の委員を務めており、通商代表部から機密情報を受け取ることができたためだと説明している。
2022年10月には、バティアはタイ代表に宛てたメールの中で、当時審議中だったカナダの法案がビッグテックに対し、ニュースコンテンツへの対価支払いを義務づけ、ユーチューブ(YouTube)、アマゾン・プライム(Amazon Prime)、スポティファイ(Spotify)などのサイトにカナダ発コンテンツのプロモーションを義務づけようとしていることについて注意を促している。
その2カ月後、当時のアマゾンのロビイストであり、元通商代表部職員でもあったケイト・カルトキエヴィッチ(Kate Kalutkiewicz)は、通商代表部の職員に宛てたメールの中で、カナダの国際貿易大臣との会合で法案に対する懸念を表明してもらったことに対し、「米国企業を代表してのあなたの行動にはとてつもないインパクトがあり、深く感謝しています」と感謝の言葉を述べている(ただし、カナダのオンラインニュース法は6月に成立)。
デマンド・プログレスの広報責任者マリア・ラングホルツ(Maria Langholz)は言う。
「これらのメールは、われわれがかねてより気づいていたことを裏付けるものです。通商代表部の組織風土には問題があります。ビッグテックをはじめとする企業の利権との癒着があまりにも多すぎるのです」
アマゾンの広報担当者はInsider編集部の取材に対し、次のように回答している。
「国内において多大な投資と雇用創出を行っている他の多くの米国企業と同様、当社はお客様と販売業者様にとって重要なさまざまな問題について提起を行っています。あらゆるレベルの政府関係者とのコミュニケーションルートを確保するのも、その一環です」
「この文書は公開されるべき」
そうしたなか、批評家の一部にとって喜ばしい動きも出てきている。タイ代表は2023年10月、ビッグテックとそのAIシステムに対する規制を難しくするトランプ政権下での提案をアメリカが撤回することを発表した。
この撤回は、バイデン政権が立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)をめぐる協議に波乱をもたらした。IPEFはアジア諸国に対し中国に代わる経済的な選択肢を与えることを目的としたものだが、批評家らは、テック産業があまりにも深く関与していたと言う。
アマゾンのソーントンは2023年3月に通商代表部のイーサン・ホルムズ(Ethan Holmes)に宛てたメールの中で、バリで開催されたIPEFサミットの期間中、ビッグテック各社とアメリカの交渉担当者との間でのブリーフィングを手配したことについて謝意を表している。
IPEFの会合に出席するバイデン大統領。
Jonathan Ernst/Reuters
通商代表部の広報担当者はInsider編集部に対し、通商代表部が内部の諮問委員会にブリーフィングを行うのは通常の慣行だと述べている。
同月の上院公聴会で、ウォーレン議員は通商代表部関係者がバリの会合の内容を秘密にする一方で、アマゾンやグーグルなどのテック企業を内部に招き入れ、発言させていることを非難した。
「このようなことは断じて間違っている。この文書は公開されるべきです」(ウォーレン議員)
グーグルの広報担当者ホセ・カスタニェダ(José Castañeda)は、同社がIPEFに「強いデジタル貿易条項」を盛り込むよう働きかけていたと述べている。
「スタートアップ企業や中小企業などとともに、当社は消費者と中小企業を助け、経済成長を支える政策を今後も推進し続けます」(カスタニェダ)
ビッグテックを批評する人は、このような政策立案者へのアクセスは一般市民や市民社会団体では得られず、だからこそウォーレン議員らは透明性の向上を求めているのだと述べる。
ウォーレン議員は2023年5月に発表した「Big Tech's Big Con(ビッグテックの大詐欺)」と題する報告書で次のように述べている。
「ビッグテックのロビイスト、特に過去に政府機関とつながりのあったロビイストは、通商代表部からコンサルタントやパートナーとして頻繁に呼び出されており、その結果、通商政策決定プロセスのほぼ全段階において、企業の利害関係者が発言権を得ている」
そして、報告書は次のように締めくくられている。
「アメリカ人は、貿易交渉の担当者が何をしようとしているのか、彼らが公益のために動いているのかを知る権利がある」