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- 火星の植民地化を目指す、イーロン・マスク氏率いるスペースXの従業員の労働時間は、週80時間を超えると報じられている。
- ロイターは2014年から現在まで、スペースXで起きた600件の労働災害を調査した。
- マスク氏の「異様な切迫感」は以前から知られていると、同氏の伝記作家は指摘している。
スペースXでは、仕事のペースについていくために精神刺激薬「アデロール」を使用するロケット打ち上げ施設で働く従業員や、長時間労働が続きトイレで眠ってしまう従業員がいることが最新のロイターの調査報道で分かった。
アメリカのテキサス州ブラウンズビルにあるスペースXの施設で働いていたトラビス・カーソンさんはロイターの取材に対し、一部の従業員は仕事のペースについていくために、処方箋なしでアデロール(ADHDの人の集中力などを高めるために開発された精神刺激薬)を服用していたと語った。カーソンさんは2019年から2022年までスペースXで溶接工として働き、のちに製造監督を務めたが、上司との口論が原因で解雇されたという。
カーソンさんを含むスペースXの現役従業員と元従業員4人はロイターの取材に、従業員は週に80時間以上働くこともあり、より多くの仕事をこなすために職場で寝る者もいたと話している。トイレで寝てしまう従業員もいたという。
カーソンさんらスペースXの溶接工は、発射場のテントのような建物の中でも働き、37度を超える気温の中でロケットの機械を溶接することもあったという。あまりの暑さに、点滴を受けて仕事を続ける従業員もいたとロイターは報じた。
ロイターによると、約1万3000人の従業員を抱えるイーロン・マスク氏率いるスペースXでは、9年間で少なくとも600件の労働災害が施設全体で発生している。同社はこれまで労働安全衛生局に報告書を一度も提出していないため、この数字はスペースXにおける労働災害を全て表しているわけではないとロイターは伝えている。報告されたこれまでの労災発生率は、宇宙産業全体の平均を上回っているという。
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36人以上をインタビュー取材したロイターによると、複数の現従業員や元従業員がこの労働災害の多さはマスク氏の仕事に対する"危険極まりないスピード"の表れだと語っている。マスク氏はスペースXで、人類の火星旅行を可能にするロケットの製造を目指している。
スペースXのエンジニアだったトム・モリーンさんは、自分はスペースXの労働環境について会社に不満を申し入れたことで解雇された数人の従業員のうちの1人だとロイターに話している。
また、4人の現従業員がロイターの取材に、会社にある火炎放射器をいじったり、安全上の理由から使用されることもある"明るい色"を嫌うなど、マスク氏自体が職場の安全を脅かす一因になったこともあると語っている。スペースXの元管理職3人も、マスク氏が黄色い機械を黒や青に塗り替えさせようとしたり、マスク氏が現場にいる時は明るい黄色の安全ベストを着用しないよう指示された従業員もいたと話している。
スペースXの広報担当者はコメントを求めたロイターの取材には応じなかったが、労働安全衛生局(OSHA)からの問い合わせに対し、同社は従業員に安全教育を実施しているため、労働災害について法的責任はないと回答したとロイターは報じている。
ロイターによると、責任あるエンジニアは「自分たちの部品やシステムのあらゆる側面について最終的な責任を負っている」と、スペースXはOSHAからの問い合わせに答えたという。
スペースXをめぐっては、複数の従業員が2022年にマスク氏を批判し、企業文化の改善を求める公開書簡を公表、スペースXにとってマスク氏は「邪魔で恥ずべき存在」と主張した。
マスク氏は会社を高負荷で経営することで知られていて、全速力での仕事を要求したり、テスラでは工場の床で眠ることもある。
マスク氏の伝記を手掛けたウォルター・アイザックソン氏は、マスク氏には「異様な切迫感」があり、それは従業員を怯えさせる可能性があると指摘している。アイザックソン氏によると、これは80%は効果的で、20%は「問題」だった。マスク氏は、火星の植民地化といった大きな使命を犠牲にした共感は「利己主義」の1つだと考えているとアイザックソン氏は語った。