※この記事は、ブランディングを担う次世代リーダー向けのメディアDIGIDAY[日本版]の有料サービス「DIGIDAY+」からの転載です。
- ソーシャルメディアプラットフォームは近年、急速に登場と衰退を繰り返しており、ソーシャルメディア担当者は目まぐるしい変化に対応せざる得なくなっている。
- ブランドとマーケターは新しいプラットフォームにリソースを投入することでユーザー行動を学び、新たなオーディエンスを築く必要があるが、生き残るプラットフォームを見極めるというタスクが重要になってきた。
- 新興プラットフォームへ先陣を切らなければいけないというプレッシャーがあるなか、その取り組みは慎重に行うべきであり、一方でメジャーなプラットフォームの提供する新機能に注目することが大事だという声も。
ここ数年、ソーシャルメディアプラットフォームが次々と現れ、マーケターたちのあいだに旋風を巻き起こし、そして最後にはその勢いを失ってきた。クラブハウス(Clubhouse)やビーリアル(BeReal)、レモンエイト(Lemon8)、ディスコード(Discord)といったプラットフォームが辿ってきたシナリオが、これである。
こうしたアプリがソーシャルメディアを取り巻く状況を、より分散化させてきた一方で、ブランドのソーシャルメディアアカウントの裏にいる関係者は、その戦略の一新を余儀なくされてきた。
新たなプラットフォームの模索には、各プラットフォームの展開に合わせて実験を行い、KPIを設定し、コミュニティーエンゲージメントの指標を測定するためのリソース(広告費というよりも人的資源という意味での)が必要だ。それは動画ベースであれ、音声ベースであれ、そのプラットフォームの特質に応じて、リソースはソーシャルチームの垣根を越えて、クリエイティブやビジュアルアセットを担当するメディアチーム、また、クラブハウスやTwitterスペース(Twitter Space)がそうだったように、サウンドクオリティを担当するオーディオチームにまで広がる。
目まぐるしい変化に対応せざる得ない
もし新たなプラットフォームに試してみるだけの価値があることが分かれば、ブランドは新たなユーザー行動を学び、新たなオーディエンスを築くことになる。場合によっては、プラットフォームでの信頼性を高めるために、新たなブランドボイスを作り上げることにもなる。
「ひとつのチャネルでも大変なことだ。それが10のチャネル、毎日のように現れてくるすべての新チャネルとなると、なおさらだ」と、広告エージェンシーのジャイアント・スプーン(Giant Spoon)でソーシャル戦略担当グループディレクターを務めるホリー・ステア氏は語る。ここ何年かで、ソーシャルメディアのポテンシャルは急激な高まりを見せている。これに対して、ソーシャルメディアを担当するプロたちは現在、急ピッチで実験を行っていると、同氏は話す。
社内では各チームが新たに登場するプラットフォームをそれぞれ吟味して(場合によってはアプリのローンチから数時間以内に)戦略を練り、ユーザー数の増加や諸機能、コンテンツパフォーマンスなどに関する最新情報を五月雨式でクライアントに報告しているという。
「まさにチーム一丸となっての取り組みだ。我々の戦略担当、クリエイティブ担当、メディア担当、制作担当の各チームは、緊密に連携を取らなければならない。何らかの結果を出すために、関係者全員がお互いを必要としているのだ」と、ステア氏は語る。
生き残るプラットフォームを見極める、というタスク
これは数年がかりで生まれつつあるトレンドだ。
2021年、インフルエンサーの拠り所となる可能性に期待をかけたブランドは、音声ベースアプリのクラブハウスにこぞって参入した。クラブハウスがまだベータ版の段階で、そのためのマネージャーを雇うエージェンシーさえあったころだ。それと同じころ、チポトレ(Chipotle)、ジャック・イン・ザ・ボックス(Jack in the Box)といったブランドや、投資プラットフォームのオーティス(Otis)が、ニッチなコミュニティーを求めてディスコードデビューを果たした。それから間もなく、写真共有アプリのビーリアルが人気を集めるようになり、もうひとつのインスタグラムともいうべきレモンエイトがそれに追随した。
今年7月には、メタ(Meta)がX(旧Twitter)の対抗馬たるスレッズ(Threads)をローンチすると、1週間で1億人がユーザー登録を行い、ブランドも我先にとそこに殺到した。そのあいだ、TikTokはソーシャルメディア界のゴールデンチャイルドとして、広告主に大々的にモーションをかけ、TikTokショップ(TikTok Shop)や検索連動型広告トグルなどの新機能を次々に発表した。
TikTokのハイプサイクルとユーザーエンゲージメントが安定を保っている一方で、同じことがそのほかのプラットフォームについても言えるわけではない。コロナ禍によるロックダウンが終わり、人々が対面型のイベントに再び足を運ぶようになると、彼らのクラブハウス熱は徐々に冷め、収益化への取り組みをよそに、同アプリがブランドのソーシャル戦略に顔を出すこともめっきりなくなった。また、広告インフラを持たないことに加えて、ユーザーの関心も薄れつつあるビーリアルも勢いを失い、マーケターから優先順位を下げられるようになった。ブランドが動揺した状態で利用を誓ったメタのスレッズを取り巻く熱狂でさえ、すでに弱まっているようだ。
そうしたなか、エージェンシーのソーシャルチームには、飽和状態の現況を進みながらどのプラットフォームが、クラブハウスのようにデジタルの墓場送りになるのか、どのプラットフォームがTikTokのようにソーシャルメディアの定番になるのかを見極めるタスクが課されている。「いい仕事をするには、多くの判断と少しの未来予測が欠かせない」と、マーケティングエージェンシーのランドリー・サービス(Laundry Service)で代表を務めるジョーダン・フォックス氏は語る。
アプリの支持率低下=広告主の支持率低下
ブランドにとっての新興プラットフォームの未来の多くは、そのユーザー基盤にかかっている。ブランドが目指すのはカルチャーが生じるプラットフォームであり、そこがカルチャーとオーディエンスが存在するところなら、彼らは喜んで時間とリソースを投じる。「一度に現れるプラットフォームがあまりにも多いため、ユーザーエンゲージメントやオーディエンスの増加数、広告機会を追跡するという、慎重なアプローチが重要だ」と、エージェンシー関係者は話す。新たなプラットフォームに参加するたびに、オーディエンスを新たに築き、ユーザー行動を学び直し、コンテンツをつくることになるのだから、それも当然だろう。エージェンシー幹部によれば、アプリへのユーザーの支持率が下がれば、マーケターや広告主の支持率も下がるという。
ビーリアルが騒がれなくなると、フォックス氏のチームもクライアントも、同アプリへの興味を失ったという。「やがて誰もが飽き始め、ユーザー数の増加はごくわずかにとどまっているという記事を目にするようになった。非情だが、それで終わりだ」と、同氏は語る。
通常、スタート時点の新興プラットフォームのユーザー基盤は小さく、エンゲージメントも最小限だ。フォックス氏のエージェンシーは、そこに規模が生まれるまでは初期段階のプラットフォームに時間とリソースを投じ過ぎないようにと、クライアントに助言している。新たなソーシャルメディアプラットフォームを導入するときのハードルは高い。Facebookやインスタグラム、TikTokといったメジャープラットフォームで大規模なオーディエンスを相手にするというタスクを、ブランドがエージェンシーパートナーに課している場合は、特にそうなる。
フォックス氏によれば、スレッズが世に出た当日の朝、同プラットフォームをすでに熟知していたランドリー・サービスは、これについて詳しく述べたガイドをクライアントに送ったという。一部のクライアントは、スレッズのバックにはメタがついていて、そのインフラとオーディエンスを活用できると考えて、そこに自信を持って飛び込んだ。一方、ビーリアルについては、そこまで確信が持てないフォックス氏は、同プラットフォームのユーザー基盤が弱体化していることを理由に、慎重になるべきと助言している。
フォックス氏は、ソーシャルメディアの広告機会に触れ、「我々のクライアントがこれらのプラットフォームを利用しているのは、それがメジャーなマスメディアチャネルで、かつてないきめ細かなターゲティング機能を備えているからだ」と語る。「我々がTikTokを重視するようになったのは、TikTokがユーザー基盤とユーザーエンゲージメントでスケール化を達成し、(中略)ほかのメジャーなメディアプラットフォームと競合できるようになったからだ」。
先陣を切ることが最適なのか?
終わることなく次々と出現するソーシャルメディアプラットフォーム。そのなかを進んでいくには慎重さが必要だと、エージェンシー幹部は口をそろえる。人的リソースを投入したり、クライアントに利用を提案したりする前に、エージェンシーは新興プラットフォームごとに、クライアントのKPI(アプリトラフィックやユーザーエンゲージメント、規模)を決める必要がある。
「文化的機会やリソースの予算を確保して、時間を取ってこれらについて考えたり最新情報を入手してすぐに動いたりできるようにすることが、必要不可欠だ」と、ステア氏は語る。
もしそれに値しないなら、既存のプラットフォーム内に予算をとどめておくことをエージェンシーは検討すべきだ。TikTokやインスタグラムなどのメジャー度で勝るプラットフォームが新機能をリリースするときには、新興プラットフォームに時間とリソースを割く前に、「すでに確立されたオーディエンスやプラットフォームプレゼンス、ブランドプレゼンスに照らして、その可能性を探っておいて損はない」と、広告エージェンシーのブンティン(Buntin)でソーシャル部門のディレクターを務めるモーガン・マーレイ氏は話す。
メタがこれまでに何度も新興プラットフォームの成長の勢いを利用すべく、それを模した機能をリリースしてきたのはよく知られている。たとえば、インスタグラムストーリーズ(Instagram Stories)はスナップ(Snap)の後追いであり、スレッズはXの危機に乗じてローンチされた。
マーレイ氏によれば、ブンティンはスレッズ用にコンテンツの調整を開始しており、特別に時間を割いてスレッズに特化したコンテンツを制作しているという。しかしいまのところ、そのエンゲージメントはかつてのTwitterのエンゲージメントの半分で、このままスレッズ戦略を続けるべきか、それともそのリソースをXへ戻すべきかで、チームは頭を悩ませているという。
当然ながら、ソーシャルメディアプラットフォームにおいて、先陣を切らなければならないというプレッシャーがある。しかし、フォックス氏によれば、とりわけオーディエンス数やユーザーエンゲージメントが着実に成長していないのなら(場合によってはメディアに取り上げられて、自分たちが1番だと自慢はできるが)、学びや実験を除き、新興プラットフォームで真っ先にプレゼンスを示すことに本質的な価値はないという。エージェンシー幹部たちも、「プラットフォームを捨て、アプリをデジタルアプリやテクノロジーの墓場に置いておいても害はない」と話す。
マーレイ氏はこう言い添える。「繰り返しになるが、この新しいバスケットに自分たちの卵すべてを注ぎ込むようなことがないように、ほかのものをきちんと準備することだ」。