本記事の筆者、カリ・ロベルジュ氏。
Kali Roberge
- 私は20代前半でFIRE運動に出会って夢中になった。収入の半分を貯蓄に回し、早期退職を目指した。
- しかしそれから数年がたって、自分が何かに向かっているのではなくて、何かから遠ざかっていることに気づいた。私は仕事を嫌い、人生を憎み、早期退職をそこからの出口とみなしていた。
- 30代か40代で仕事を辞めたところで、何の解決にもつながらないと悟り、私は自分が愛せる人生を築くことを意識するようになった。
投資のやり方を独学で学びはじめたころ、経済的自立と早期リタイアを目指すいわゆる「FIRE運動」に出会った。
10年ほど積極的に貯蓄すれば(これは通常、とことんまで支出を減らして余った額を投資に回すことを意味する)、誰もが40代で、場合によっては30代前半で引退できると、FIREの推進者は主張する。
FIREについて初めて読んだ瞬間、私は衝撃を受け、心から納得した。60代や70代でようやく引退できる程度の貯金をするために、人生の大半を嫌いな仕事をして過ごす理由があるだろうか?
比較的短い期間、自分に極度の倹約生活を強いるだけで、残りの人生を働かなくて済むほどの資産が手に入るのなら、そうしたほうがいいのではないか?
私はすぐにFIREに夢中になったが、わずか数年でもっとバランスのとれた、あまり極端ではないアプローチのほうが、経済的自立を手に入れる方法として自分に向いていることに気づいた。
20代前半のころ、FIREが魅力的に思えた理由
不要な支出をすべて(多くのFIRE支持者にとっては、食・水・最小限の居住空間以外のすべてを)カットして、収入のできるだけ多くを貯蓄に回せば、仕事を辞めることができる、というのが戦略としてのFIREが掲げる約束だ。
私の場合、早期引退という側面に何より強く魅力を感じた。仕事が嫌いだったからだ。これは私にとっては深刻な問題だった。当時私は22歳で、まだ2年しか働いていなかったのに、すでにリタイアする時期のことを考えていたのだから。
しかし、私が自分の人生で嫌っていたのは仕事だけではなかった。住んでいた場所も気に入らなかったし、ライフスタイルも、人間関係も、そして自分自身も好きになれなかった。
仕事、住む場所、ボーイフレンドなど、自分以外のあらゆる物事が不幸の原因だと考えていた私には、経済的自立を成し遂げて早期に引退するという考えは、すべての解決策に思えた。
しかし実際には、私自身が不幸の原因だった。早い時期にFIREを達成したところで、問題は何一つ解決しない。私は自分の抱える問題から逃げるためだけに、FIREを追い求めていたのだから。この運動を続けていたら、私は30歳で引退できたかもしれない。
しかし、幸せにはなれなかっただろう。仕事を辞めるという大きな夢がようやくかなったとたん、自分の不満と不幸の真の原因が別の場所にあると気づき、みじめな生活が続くのだから、精神的なショックは計り知れなかったはずだ。
問題はFIREではなく、極端な生活を送ること
ほかの22歳の人々も同じだろうが、当時の私は自分が何者かも、何を求めているのかも、わかっていなかった。私にとって、FIREを追い求めるということは、基本的にほかの何か(好きになれず、改善の努力をする気にもなれなかった生活と自分自身)から逃げることを意味していた。
私は「収入の半分をどうやって貯金する?」と考えることで、ほかのもっと難しい問題から気を紛らわせていた。
だが最後には、怖がって逃げるよりも、好きではないことや興味がもてないことに向き合うほうが幸せになれると考えるようになった。
自分に向き合わなければ、自分が誰なのかを学ばなければ、そして自分の時間とエネルギーを自分にとって大切なことに使わなければ、どれだけお金がたまっても決して幸せになれないと気づいたとき、FIREに対する関心が薄れていった。
自分の価値観と優先事項と目標がはっきりしたとき、私は自分が早期退職を望んでいないことに気づいた。私はただ、意味の感じられる有益な仕事がしたかったのだ。喜びと満足は、意義のある労働を通じて得られるものだ。
FIREに夢中だった数年の私は、未来は今よりも魔法のごとく改善していると思い描いていた。未来ばかり見ていたので、現在をないがしろにすることはたいした問題ではないと思っていた。最後には楽しい人生が送れると確信していたからだ。
今の生活を楽しみながら、将来のために
しかしある時点で、保証されているのは現在だけだと気づいた。未来のことは誰にもわからない。「いつか」がどこにあるのかもわからない。
FIREを追い求めていたころ、私はいろいろなことを後回しにして、たくさんの機会に「ノー」と言い続けてきた。それらを取り戻すことはもうできない。夢にばかり目を向け、現実の思い出をつくらなかった。私は生きていなかった。
私は今も収入の多くを貯蓄している。経済的な自立を勝ち取ることが、私にとっては今も金銭面での最終目標だ。しかし、そこまでの道のりを以前ほど急がなくなった。仕事を辞めようとも思わない。今に関心を向け、遭遇するさまざまな機会をオープンに受け入れるようになった。
現在の私は、バランスをうまく保つことで今の生活を楽しみながら、将来のために最適な計画を立てることができると確信している。極端になる必要はない。今を切り捨てて将来だけに賭ける必要も、将来などないものと考えて今だけに集中する必要もないのだ。
その中間で生きていけるはず。私もそこを目指している。