ソニー「新型PS5とPlayStation Portal投入」で正念場。ただし「為替は弊社だけではいかんともし難い」

PlayStation Portal

ソニー・インタラクティブエンタテインメントにとって、このホリデーシーズンは「勝負時」だ。

撮影:西田宗千佳

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は、この年末に賭けている。

11月10日に新型のPlayStation 5(以下、PS5)を発売し、さらに、新周辺機器の「PlayStation Portal」も、11月15日に発売する。

SIEはPS5というプラットフォームをどう捉え、ビジネスを拡大しようとしているのだろうか?

SIEでPS5を中心としたプラットフォームエクスペリエンスを担当するシニアバイスプレジデントである西野秀明氏に単独インタビュー。PS5の状況と「プラットフォームとしての戦略」について聞いた。

PS4から5への移行は「3年目のホリデー商戦」が重要

西野秀明氏

ソニー・インタラクティブエンタテインメント LLC・プラットフォームエクスペリエンス担当シニアバイスプレジデントの西野秀明氏。

撮影:西田宗千佳

筆者が前回西野氏にインタビューしたのは2020年末。PS5の立ち上げ時期のことだった。

当時はコロナ禍の長期化の影響で、市場にも混乱が広がっていた。そんな中でのPS5立ち上げは大変なことだったようだ。

その中で筆者は西野氏に「PS4からPS5への移行にある程度の目処がつくのはいつか?」と質問した。

答えは「3年後」だった。

その3年後とは2023年、今年だ。あの当時の予想はどうなったのか? まずはそこから聞いてみた。

「PS5の立ち上がり当初は、PS4と同じようなカーブを描ければ……とイメージしていました。

しかしご存知のように、コロナ禍もあって物流や調達が滞り、需要を満たしていないところがありました」(西野氏)

西野氏はPS5市場の立ち上がりについてそう語る。需要が旺盛なタイミングで店頭に十分な在庫を用意できず、「PS5が手に入らない」という時期が長かった。

それが変わり始めたのが2023年に入ってから。西野氏は「1月から需要が満たせるようになってきて、4月くらいから店舗の棚にも並ぶようになってきた」と話す。

「部材の複数社購入を可能にするなど、社内の仕組みを整えてきた結果が出てきた。

このホリデーシーズンに勢いをつけ、年度末に向けてPS4の数(発売開始から同時期の累計出荷数量)に追いついて行きたいと考えています。」(西野氏)

2023年のホリデーシーズンにPS4からの移行を本格化させ、本格的に大きな数量を販売するということは、SIEにとって元々計画されていたことだった。

「PS5発売の3年後、PS4からの移行が本格化する」という読みもそこから来ており、まさに予想通りの展開となっている。

「もちろん、供給の問題などで事情が違った部分はあります。ですが、コンソール(ゲーム専用機)はホリデーシーズンの需要が圧倒的に多い。

そもそもこの時期に積極展開するのは予定されていたことですし、まさにここに注力すること自体は変わっていません」(西野氏)

技術的に「値下げしづらい」時代のゲーム機戦略

PS5の比較

手前が新型の、奥が初代のPS5。機能は全く同じだが、3割小型化されデザインも変わった。

撮影:西田宗千佳

11月10日、SIEは新型のPS5を発売した。この機種の発売自体も、この「PS5発売から3年が経過したホリデーシーズン」の投入を狙って開発されたものである、と西野氏は話す。

大ヒットが期待される「Marvel’s Spider-Man 2」が発売された後でもあるので、そういう意味でも重要なタイミングだ。

ただ、このPS5は過去の「新型PlayStation」とは少し異なる点がある。デザインが変更になり小型化したにもかかわらず「値下げしていない」

ドルだと499ドルで同一価格(ディスクドライブ非搭載版は50ドル値上げ)であり、日本向けは円安の影響を受け、発売当初の4万9980円から6万6980円へと値上げしている。

西野氏も「為替は弊社だけではいかんともし難い、難しい問題」と話す。

実のところ、為替問題がなかったとしても、過去とは異なり、今のゲーム機は値下げしづらい傾向にある。

過去、IT機器は半導体製造技術の進化によって「高性能化」と「低価格化」が同時に進行した。半導体製造技術が微細化すると、動作速度を上げつつ消費電力を下げやすくなる。

すると同じ工程から同じ性能の半導体を、より安価に作ることが可能になるし、冷却機構などを低コスト化できる。より小さく、より安く量産できるわけだ。

だが、5年ほど前から半導体の製造技術の進化速度は落ちている。製造プロセスが進化してもサイズはあまり小さくならず、消費電力低下も一定の範囲にとどまっている。

そうなると、「同じコストでより性能の高いものを作る」ことはできても、「同じ性能で大幅にコストを下げる」のは難しくなる

事実、PlayStation 4はあまり値下がりしなかったし、任天堂の「Nintendo Switch」も大きな価格改定はしていない。

PS5世代も同様で、技術が進化しても値下がりはしにくい状況になった。生産量を増やして供給を安定させるには有効だが、価格を下げるには至らないのだ。

西野氏もこの点を認める。

「普及のために1円でも安くしたい、というのが本音ではあります。しかし、半導体のシュリンクによるコスト削減が難しくなっているのは事実。

では今回、(アメリカでは)価格を据え置かせていただく中でどのような付加価値が出せるのか、と考えた時に『小さくする』『ストレージ(SSD)の容量を増やす』『ドライブを着脱可能にする』という発想が生まれました」(西野氏)

すなわち、小型化とSSDの大容量化(825GBから1TBへ)という変化は、価格が下げづらい中で提供できる「付加価値」だった、というわけだ。

新型PS5の膨らんでいる部分

手前が新型PS5。ふくらんでいる部分にディスクドライブが入っていて、着脱が可能な構造だ。

撮影:西田宗千佳

もちろん、再設計によって生産性も上がっている。「2023年末の供給は問題ない」と西野氏はいう。SIE自体もそうしたアナウンスを出しているが、過去のように「欠品を起こさず、普通に買える」状況を整えることが、現状もっとも重要なことでもある。

今回のモデルからは、Ultra HD Blu-rayドライブが着脱式になった。これはドライブのない「デジタル・エディション」を買った人でも、後からドライブだけを買って取り付けられるという「選択肢を提供する」(西野氏)ことが第一義だ。

一方、ドライブのある・なしで生産ラインを分ける必要がなくなるため、生産性も向上する。これもまた、供給安定のための施策でもある。

2500万台か「濃いユーザー」か

決算資料のスライド

ソニーグループの決算資料より。PS5は2023年度末までに2500万台の出荷を目指している。

出典:ソニーグループ

ソニーグループとSIEは、2023年度にPS5を「2500万台」出荷する目標を立てている。目標が達成できるか否かは、この年末商戦の状況にかかっていると言っても過言ではない。

ソニーグループの十時裕樹・代表執行役社長(2024年4月から1年と期限を区切り、SIEの暫定CEOを兼務する)は、11月9日に開いた2023年度第2四半期業績説明会にて、次のように答えている。

十時裕樹社長

ソニーグループの十時裕樹・代表執行役社長。

出典:ソニーグループ

「(2500万台出荷という)目標はかなり高いものであることは事実。実現に努力するが、利益を無視してまで実現することはない」(十時社長)

うまくいけば2500万台に届き、PS4時代よりもさらに大きな規模になるが、そこまで到達しなくても一定の利益水準を維持してビジネスをやっていく……ということなのだろう。

では、PS5というプラットフォームとしては、なにを重視していくのだろうか? 西野氏は次のように話す。

「PS4からPS5への移行を推進していきたいですが、無理に4から5にするものでもないです。PS4と5の間には互換性がありますから、スムーズな移行が実現できる。

一方、PS4の時代と比較すると、プレイ時間やプレイ頻度など、あらゆるKPIにおいて、PS4時代よりもプレイの体験が深い。エンゲージメントの観点では非常に好調といえます」(西野氏)

ユーザー数についてのスライド

ソニーグループ決算発表より。PlayStation Networkのゲームプレイヤー数・ゲームプレイ時間ともに伸びており、PS5世代のエンゲージメントは「上がっている」とSIEは主張している。

出典:ソニーグループ

ユーザーはPS4からPS5へ移行している一方、PS4+PS5ユーザーの数として、劇的に増えているわけではない。

他社やPCとの間では顧客の取り合いが起きているというより「併存」状態であり、「PlayStationで遊ぶユーザー」総数で見ると、劇的にユーザー数が拡大するフェーズではないのだろう。

そこでは、より長時間プレイし、よりゲームを熱心に遊ぶユーザーの比率を増やすことが重要であり、PS5はそこがうまく回っている……という主張なのだろう。

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