【佐藤優】「優秀な子どもは理系一択」それでも日本でGAFAのようなスタートアップが生まれない理由

sato_65.001

イラスト:iziz

シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。

佐藤さん初めまして。私は文学部出身で、現在はスタートアップ企業で働いています。佐藤さんに伺いたいのは、これからの「人文科学」の立ち位置についてです。

2022年から政府のスタートアップ五カ年計画が進められ、その中でも「ディープテック」(編注:AI、自動運転、クリーン電力、ゲノム編集などテクノロジー分野の中でも高度な研究開発が必要になってくるジャンル)をはじめ大学発スタートアップに重点が置かれています。

国際競争力を強化するという視点でも理系人材の育成が叫ばれ、「優秀な子どもはみんな理系を目指せ」という方向になっていきそうな感じもしています。

私が気になるのは文系、特に人文科学系の学問の必要性ついてです。人文科学系、例えば人類学、心理学、哲学、さらには美術や芸術などは本当に世の中に必要はないのでしょうか?

(風薫る、40代前半、女性、会社員)

理系を推奨する文系の人々という矛盾

シマオ:風薫るさんはいまや理系人材ばかりが求められていて、人文科学系がおろそかにされていることを憂えているようですね。

佐藤さん:先に結論を言うと、杞憂だと思います。これはあくまで国策の一つに過ぎません。

政府としては、最先端分野での理系の研究者やエンジニアを多く養成し、スタートアップ企業をはじめ、さまざまなビジネスを立ち上げて国力を高めたいという思惑がある。だからこういうことを言っている訳です。

シマオ:でも、理系の方が就職には有利じゃないですか? 最近では、コンサルや商社の新卒でも理系学生が優遇されると聞いたことがあります。

佐藤さん:たしかに、就職に関していえば理系の人の方が断然有利でしょう。いまや文科系の大卒者と、高専などの技術系の高校を出た人を比較すれば、後者の方が就職率は高いと思います。

あるいは理科系大学を卒業して医師だとか研究者となった人たちは、確かにエリートと呼ばれる人たちです。

シマオ:だったら、子どもたちも理系を目指した方が潰しはきくと思うのですが……。

佐藤さん:ですがシマオくん、実態として、大企業の幹部や官公庁の偉い人たちはどういった学部出身者が多いですか?

シマオ:そう言われてみると……。法学部や経済学部なんかの人が多いですね。

佐藤さん:そうなんです。子どもたちには理系を推奨してはいるけれど、国家や企業のあり方をデザインしている人たち自身は人文科学系の人たちが多くを占めている。この矛盾は何を意味していると思いますか?

シマオ:えぇ、なんだろう……。理系の人たちの力を借りていきたい、みたいな?

佐藤さん:その通りです。究極的には、リードするのは自分たちだという意識があるということだと思います。

実際、国家も企業のシステムも法を中心に成り立っているので、法学部出身者は組織の指導者に向いているという側面もあるでしょう。

アメリカ型に倣っても成功できない

368035070_1241243527277954_8018838804692008206_n

イラスト:iziz

シマオ:なるほど。でも、リードしたいにしても、そんな簡単にアメリカ並みのスタートアップが日本からぼんぼん生まれるとは思えないんですけど……。

佐藤さん:シマオくんが言うスタートアップというのは、いわゆるグーグルやアマゾン、アップルのような、イノベーションを起こして一気に世界中を席巻するような企業を指していますよね?

シマオ:そうですね。いわゆるシリコンバレー型のグローバル企業というか。日本もそれに倣って、追いつけ追い越せということだと思うんですけど。

佐藤さん:では、シマオくんはどうして、日本からはそういった企業が生まれないと思ったんですか?

シマオ:え? それはなんて言うか、直感的に……。英語の壁とか、あとはエンジニアの数が圧倒的に少ないとかはあるんじゃないかなって。

佐藤さん:なるほど。私もシマオ君と同じように、日本でアメリカ並みに成長できるスタートアップが生まれることは難しいと思っています。いや、はっきり言うと不可能だとすら思っているんですよ。

そして、その理由はシマオくんが指摘した要素もありますが、一番根幹にあるのはアメリカが圧倒的な資本主義社会だからです。

シマオ:ど、どういうことでしょうか……。日本だって資本主義社会ですよね?

あわせて読みたい

Popular