著名投資家でバロン・キャピタル・マネジメント(Baron Capital Management)の会長を務めるロン・バロン氏。
Baron Capital Management
大富豪で著名投資家のロン・バロン氏は常に10年、15年後にアウトパフォームする企業に投資することを考えてきた。
人生の終末期とも言える80歳の人間がそのような長期的視点に立って投資と向き合うのは稀な例と思われるが、バロン氏の場合は過去40年、そのやり方を貫いてそれしか知らないのだから仕方ない。そして、それは成功を収めてきたのだ。
1982年にバロン・ファンズ(Baron Funds)を創業したバロン氏は、ロング(買いポジション)一本槍で、これぞと見定めた企業の株式は決して手放さず、それでも長年にわたって大きな運用実績を築いてきた。
ロングオンリー戦略の採用により、バロン・ファンズは投資先の株価が10倍(リターン1000%)以上に成長するケース、いわゆる「テンバガー」投資を31銘柄について経験している。
また、米投資信託評価機関モーニングスター(Morningstar)によれば、バロン・ファンズが運用する「バロン・パートナーズ・ファンド」および「バロン・フォーカスト・グロース・ファンド」は、過去10年間で類似ファンドの99%をアウトパフォームする実績を残している。
11月10日、30回目の節目となるバロン・インベストメント・カンファレンスがニューヨークで開催され、そこに出席したバロン氏は、いまもなお多額の資金を投じ、今後もモンスター級のリターンを生み出し続けると考える二つの企業に言及した。
イーロン・マスク氏率いる電気自動車大手テスラ(Tesla)、同じく同氏が設立した宇宙開発企業スペースX(SpaceX)がそれだ。
スペースX(正式名:スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)は非公開企業だが、バロン・ファンズが運用する前出の2ファンドがエクスポージャーを提供している。
株式の組入比率は、テスラについては前者が41%、後者が13.4%。スペースXについては前者が8%、後者が7.6%(いずれも各出資ラウンドの優先株合計)と、大きな割合を占める。
バロン氏はカンファレンスで、テスラとスペースXが今後数年のうちに飛躍的に売上高を伸ばしていくとの見方を示した。
テスラの競合他社に対する優位性
テスラについては、将来的に電気自動車の多くを他社が受託する時代が来たとしても、テスラの場合は自動運転技術を他社に販売できる(ので、収益を維持拡大できる)との認識を示した。
「インテル(の半導体)がマイクロソフト製のコンピューターに組み込まれているのと同じです。『インテル入ってる(Intel Inside)』キャンペーン(のCM)を覚えているでしょう?私の考えでは、これからテスラが全ての車の中に『入ってる』未来がやって来ます」
テスラが開発を進める人工知能(AI)は、すでに世界で数多く販売されているテスラ車によって日々取得・蓄積される膨大な公道走行データを学習に使えるため、自動運転技術の開発においても優位に立てるとバロンは語った。
また、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード(Ford)を筆頭に大手自動車メーカーが相次いでテスラの充電規格(NACS)を採用することを決め、2025年以降はテスラが展開する直流急速充電器「スーパーチャージャー」をアダプターなしで利用できるようになった。
10月にInsider編集部の取材に応じたマイケル・バロン氏(ロン・バロン氏の息子で、バロン・パートナーズ・ファンドの共同ポートフォリオマネージャー)によれば、テスラは車載電池ビジネスでも優位なポジションにつけていて、完成車に関しても競合他社を下回るコストでの量産が予想されるという。
伝統的な指標で見る限り、テスラの株価は足元であまりに割高な水準で取引されている。例えば、フォワードPER(12カ月先予想株価収益率)は57.8倍だ。それでも、長期的に見ればまだ割安水準だとバロン親子は主張する。
「スペースX上場は2027年頃」
バロン氏は11月10日に放送された米CNBCの番組に出演し、スペースXの今後に言及。「2027年頃には上場し、4年後の評価額は2500億〜3000億ドルに達する」との見方を示した。
バロン氏がスペースXを非常に高く評価する大きな理由は、インターネット接続の代替手段を提供する衛星通信ネットワーク「スターリンク(Starlink)」にある。
米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは最近の記事(9月5日付)で、光ファイバー経由のインターネット接続インフラは高コストで、それゆえにスペースXのスターリンクには付け込むチャンスがあると強調した。
米ネバダ州の遠隔地向けに光ファイバーケーブルを敷設する政府プロジェクトでは、1世帯(もしくはオフィス1カ所)当たり平均5万3000ドルのコストが発生し、モンタナ州の一部ではそれが30万ドル以上に膨れ上がる可能性もあると、同紙は指摘する。
バロン氏はカンファレンスでこう語っている。
「その(光ファイバー回線の)代わりに今すぐ利用可能なスターリンクの衛星通信サービスを契約し、1世帯当たり500ドルを支払い、アンテナを設置して電源プラグを差し込み、空に向けて視界を確保するだけでインターネット接続が得られるのです」
イーロン・マスク氏は11月2日のX(旧ツイッター)投稿で、スターリンク事業がキャッシュフロー収支均衡を達成したことを明らかにした。
同社はスターリンク事業に加えて、ロケット打ち上げなどの宇宙探査事業も手がけており、ブルームバーグ報道(11月6日付)によれば、2023年の売上高は約90億ドル(約1兆3500億円)、24年はさらに倍増以上の約150億ドル(約2兆2500億円)を見込むという。
バロン氏はカンファレンスで次のようにその取り組みを評価した。
「テスラとスペースXは、圧倒的な市場規模を誇る宇宙開発および輸送産業に革命をもたらす技術を低コストで提供する企業であり、私たちが出資する企業の中でも、最も力強く成長していく企業の一つであり続けるでしょう」
なお、ロイターは最近の調査報道(11月10日付)で、スペースXが骨折・脱臼、火傷、四肢切断、感電、頭部・眼球損傷など、2014年以降で600件以上の従業員負傷事故を起こしてきたことを明らかにした。同社の事業実施体制、過酷な労働条件への批判が高まりつつある。