Notionは第3弾となるAI機能を正式発表した。
画像:筆者によるスクリーンショット
ドキュメンテーションサービスの「Notion(ノーション)」は11月14日、新しいAI機能「Q&A」(ベータ版)を公開した。
Q&A機能はすでに有料オプション「Notion AI」(月額10ドル)を契約しているユーザーであれば、追加料金なしで利用できる。11月初旬ごろから先行利用できるユーザーはいたが、14日時点でほとんどのNotion AIユーザーが利用可能になった。
Notionは2月23日にNotion AIを公開しており、その後5月にプロジェクトマネージメント向けの「AI自動入力」などの機能追加を実施してきた。
Notion日本法人のゼネラルマネージャーを務める西勝清氏がBusiness Insider Japanの単独取材に応じた。Q&A機能の具体的な機能や狙いを詳しく聞いた。
Q&AはNotion内を横断して「調べるAI」
筆者は非常用の備蓄品をNotionで家族と共有しているが、購入した商品のQ&Aをメモしていたので、Q&A機能で聞いてみた。
画像:筆者によるスクリーンショット
Q&A機能を一言で表すと、「調べてくれるAI」というものになる。
と言っても、マイクロソフトの「Bing Chat」やグーグルの「Search Generative Experience(SGE)」のように、インターネット上のあまねく情報を検索して要約してくれるわけではない。
Q&A機能が検索対象とするのは、Notionのワークスペース内の情報だ。もう少し細かく言えば、ワークスペース内で検索したユーザーがアクセスできる(権限がある)範囲の情報だ。
使用例としては、NotionとNotion AIを導入している企業などで、社内のワークスペースにある出張申請の方法や出張費の上限などが知りたい時AIに「出張申請の方法について教えて」などと入力して使う。
検索欄でQ&A機能を呼び出してみた例。
撮影:小林優多郎
また、いわゆるLLM(大規模言語モデル)が得意とする、分析や要約といった作業もできる。
例えば、社内の特定のプロジェクトをNotionで管理しているケースでは、「XXXのプロジェクトの状況を教えて」と質問すると、そのプロジェクトの進捗率や開発工数、残っている主なタスク、リリース予定日などをまとめて教えてくれる。
筆者は7月末からNotion AIを個人契約して使っているが、11月上旬ごろにQ&A機能が使えるようになった。実際に検索してみると、Bingなどと同様に「どのノートを参照したか」という情報も併せて表示されるため、Q&A機能からすぐにノートを表示、編集できて便利だった。
右下のボタンがQ&A機能の有効前後では異なる。
画像:筆者によるスクリーンショット
なお、Q&A機能はデスクトップアプリやWeb版であれば既存の検索機能(左のサイドバーにある)と、常時表示されている右下の「AIマーク(キラキラのアイコン)」から呼び出せる。
特に右下は従来「ヘルプ」ボタンで、Notionが用意したヘルプや解説ページのリンクやサポート連絡への導線だった。「まずはAIに聞いてみて」と言うNotionの設計指針が感じられるような変化だ。
同僚や部下の代わりにAIに聞いて「時間短縮」
Q&A機能を紹介するNotion Labs Japanゼネラルマネージャーの西勝清氏。
撮影:小林優多郎
「誰かに聞く代わりに、AIに聞く」ことが可能になるQ&A機能は上手く使えば、「聞く人にとっても、聞かれる人とっても時間短縮になる」と言うかなりわかりやすい価値がある。
そのため、Q&A機能は個人や法人に問わず活用できるわけだが、西氏は特に法人会員からのヒアリングで「全員が使えるユースケースとは何か。という要望が増えている」と明かし、「特に企業の中の期待値に応えられる」とする。
企業がQ&Aを導入する3つのメリットとは
企業がQ&A機能を導入するメリットは3つある。
1点目は、前述の「すでにドキュメントにしてあることを、誰かに聞く」といった無駄な時間が減ることだ。現場レベルであっても、管理職であっても、Notionに情報を集約するという文化さえできていれば、AIが情報をまとめてくれる。
西氏による、正式発表前にQ&A機能を試していたいくつかの企業からは効果が出てきているという。
例えば、大阪ガスはQ&A機能によって「情報探索にかかっていた時間が約35%短縮できると期待している」とコメント。名刺管理サービスなどを展開するSansanは「(企画検討などの)作業の時間が30%以上短縮され、企画の質も向上した」と述べている。
Q&A機能を事前に試した3つの企業。
撮影:小林優多郎
また、Notion日本法人の早川和輝氏は「Q&A機能を使うとナレッジが整理される。参照したノートが仮に古かったとしたら、それに気づくことが情報を更新するきっかけにつながる」と、ドキュメントを貯めておく場としての質も高まると指摘する。
2点目は「導入が簡単」と言う点だ。1点目と同じく、「Notionに情報が集約されている」と言う前提条件があるものの、それさえできていれば新たにAIに学習させる手間などなく、Notion AIを契約すればすぐに利用を開始できる(無料で試せる機会も設定されている)。
大企業などでは、独自にOpenAIのAPIを使って、自社専用のAIの開発・運用を進めている会社もあるが、そうした開発費用や時間がかからないと言うわけだ。
Notion Labs Japanでソリューションエンジニアを務める早川和輝氏。
撮影:小林優多郎
最後に、「セキュリティーや権限管理」ができるという点だ。前述の通り、2月にリリースされたNotion AIの「AIライター」機能はそのページ内の情報だけを参照していたが、Q&A機能はワークスペース全体を参照する。
だが、Notionではどのページを誰が(もしくはどのチームが)参照・編集できるかを細かく設定できる。Q&A機能もこの設定を踏襲するようになっている。
また、今回のインタビューで初めてNotionはNotion AI全般で使われているAIサービスが、OpenAIとAnthropic(アンスロピック)のLLMを活用していると明言(GPTのバージョンについては非公開)。すでに同社の規約ページにも明記されている。
もちろん、従来提供しているAI機能も同じだが、Notion内の情報や質問した内容は「モデルの学習にも使われない」(早川氏)と明言している。
Q&A機能でNotion AIの日本での利用者を2倍に
Business Insider Japanのインタビューに応じる西氏(右)と早川氏(左)。
撮影:小林優多郎
ただ、例えば今回のインタビュー後の出来事にはなるが、OpenAIが11月6日に新しいLLM「GPT-4 Turbo」や、自分だけのGPTが作れる「GPTs」を発表するなど、AIが活躍できるシーンは昨今目まぐるしく変化し続けている。
そんな中でNotion AIの優位性はどこにあるのか。
西氏は年内3回目となるAI機能のリリースや昨今の生成AIブームを振り返って「AIって何に使えるんだろう?とみんな考えている」と分析。個人や企業がさまざまなことを考えて試している中で、迷ってしまっている人も出てきていると指摘する。
Notion AIは一機能や使い方と言うより、Notion全体に影響する「下支えするレイヤー」になっている。
出典:Notion
一方で、Notionは「ドキュメンテーション」「Wiki」「プロジェクト管理」と言ったすでに具体的なユーザーの活用例が確立している。その使い方をベースに、「AIが基礎レイヤーのように支える形」(西氏)を提供することがユーザーの満足度を上げることになり、NotionらしいAI機能の提案になると言うわけだ。
ソリューションエンジニアである早川氏も、Q&A機能が従来の検索から呼び出せることに関連して「(Notionは)AI機能だからこう使いましょう、と言う提案はしていない」「AIがインフラのようにNotionを強くしている」と、AIが主役でない部分がNotionと競合他社の差別化であることを話していた。
西氏はNotion AIの契約数など具体的な状況がわかる数値を明らかにしていないが、Notion自体の利用と同じくNotion AIも「アメリカの次に日本で活用されている」とし、今回のQ&A機能によって「日本でのNotion AI利用者を2倍にすることを目指している」と目標を語った。