AIが生成した作品が著作権を侵害していた場合、責任を負うべきは誰なのだろうか。
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2023年がAIの年だとすれば、2024年は訴訟がAIに足枷をはめる年になるかもしれない。
Anthropic(アンスロピック)が世界最大の音楽会社によって提起された著作権訴訟に対抗する準備を進め、OpenAI(オープンAI)がニューヨーク・タイムズ(New York Times)のベストセラーリストに名を連ねる作家たちから訴えられている今、AIモデルの盗作に対して誰が責任を負うのか、それは本当に盗作なのかという問題が重大さを増している。
この状況に真正面から取り組むべく、OpenAIは11月上旬に初開催した開発者向けカンファレンスで「著作権シールド(Copyright Shield)」を発表した。これは、ユーザーがOpenAIのプロダクトで制作した作品をめぐって訴えられた場合、同社が弁護士費用を負担するというものだ。
OpenAIのような生成AIサービスが機能を充実させるにつれて、ユーザーは芸術作品や動画制作から、脚本・小説の執筆、ウェブサイトの開発まで、あらゆることをAIに依頼することが可能になった。
OpenAIのサム・アルトマン(Sam Altman)は基調講演で、「当社は著作権に関する法的請求に直面した顧客を守り、発生した費用を負担することができる」と述べた。
一方、OpenAIの競合となるAnthropicは異なるアプローチをとっている。AnthropicはOpenAI出身のリサーチャーらによって設立され、グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)などから数十億ドルの出資を受けている。
Anthropicのジャネル・タムクル(Janel Thamkul)次席法務顧問は10月、米国著作権局に宛てた書簡の中で、著作権侵害の問題に対する同社の姿勢を明らかにした。
他の多くのAI企業と同様、Anthropicは、著作物を使って大規模言語モデルを訓練することは複製行為ではあるが、それはあくまで統計分析のためであって、表現を目的としたものではないため、フェアユースに該当するはずだと主張している。
「複製は機能性のためであって、創造性の模倣のためではない」(タムクルの書簡より)
タムクルはセガ・エンタープライゼス(Sega Enterprises)対アコレード(Accolade)裁判を引き合いに出している。これは1992年に起きた画期的な訴訟事件で、ビデオゲーム大手のセガはシリコンバレーの好戦的なスタートアップ企業であるアコレードに対し、ゲーム機の「メガドライブ」をリバース・エンジニアリングし、ゲーム機に対応した競合ゲームを開発したとして提訴したものの、敗訴した。
タムクルはまた、AnthropicのAIについて、他作品の著作権を侵害するような創作物を制作しないように設計されていると書簡の中で主張している。
「出力は、既存のテキストを単に『マッシュアップ』したり『コラージュ』したりしたものではないのだ」(タムクルの書簡より)
だが、責任が存在する範囲において、それを負うのはプロダクトのユーザーだとAnthropicは主張する。
「特定の出力に対する責任は、それを生成するためにプロンプトを入力した者にある。すなわちユーザーである。当社は、著作権侵害や法令違反を繰り返す者を発見した場合、アカウントの停止を含めた対応を行う」(タムクルの書簡より)
Anthropicのアプローチは古典的な「責任転嫁モデル」に当たると、生産性ソフトウェアメーカーでOpenAIの顧客でもあるアトラシアン(Atlassian)の最高管理責任者兼法務責任者のエリカ・フィッシャー(Erika Fisher)は言う。
アトラシアンでは、生成AIを使用する際の潜在的な法的リスクについていかに顧客に助言すべきかを検討するワーキンググループを設置しており、ベテランの企業弁護士であるフィッシャーもそのメンバーになっている。
彼女によれば、OpenAIによる著作権シールドの約束は斬新で、新たな責任を負うことなくAIを搭載したツールを導入したいと考えている企業顧客にとっては魅力的だという。
もっとも、この約束は最終的には無意味なものになるかもしれないと彼女は言う。というのも、ひとたび判決で、生成AI企業はモデルの訓練のために著作物を湯水のように無償で使用するのではなく、著作権者に対価を支払うべきだとの判断が下されれば、各社にとって大きな痛手となる可能性が高いからだ。
「現実問題として、係争中の裁判の中には、OpenAIに有利な判決が出なければ、同社のビジネスモデルの存続が危ぶまれるものもあります。そうなれば、支払わなくてはならない賠償金のリストよりも大きな問題を抱えることになります」(フィッシャー)