「見終わった後、観客同士で30分対話する」新・映画体験のススメ

映画を観た後、“誰かと語り合いたくなる”経験は誰しもがあるのではないだろうか。

例え個人的に関心があったとしても、日常生活の中では気軽に話題に出すことをためらってしまう……そんな社会問題を新しい手法で伝え、内省や対話を生み出すきっかけをつくる映画がある。

下北沢駅直結のミニシアター、「K2(ケーツー)」(東京都世田谷区)で公開されている、『Dance with the Issue :電力とわたしたちのダイアローグ 』だ。

「実験的」な作品

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©︎ 2023 BLACK STAR LABEL

『Dance with the Issue』は、大テーマとしてエネルギー問題を掲げ、特にわたしたちの生活と密接に関わる電力にフォーカスしている。

本映画は、日本が抱える電力問題の解説や、有識者のインタビューを通して課題を紐解くドキュメンタリーパート、身体表現を通じた問題提起を行うダンスパート、そして鑑賞後に内省や観客同士の対話を促すリフレクション(内省)パートで構成されている。これまでに類を見ない実験的な作品だ。

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インタビューには、経済産業省、東京電力、自然エネルギー産業のキーマンたちが登場。エネルギー問題を自身の言葉で語っている。

©︎ 2023 BLACK STAR LABEL

リフレクションパートを設けた理由は?

「Dance with the Issue」の一番の特徴は、60分の本編終了後に内省や観客同士で語り合うことが求められる30分のリフレクションパートが設けられていることだろう。

なぜそのような仕掛けをしたのか。本映画を監督した田村祥宏氏は、次のように話す。

「映画は、娯楽や芸術としての側面を持ち、多くの人に広めやすいメディアです。

映画を “観る”だけではなく、映画を触媒として自分自身と向き合い、対話を促すきっかけづくりをしたいと考えました」(田村監督)

※一部、リフレクションパートがない上映もあります

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©︎ 2023 BLACK STAR LABEL

「見過ごされてきた社会問題にスポットを当てる」

これまで私は、100本以上のドキュメンタリー作品を観てきた。特に社会派の作品は、つくり手と観客の距離感が近いと感じている。

鑑賞後の「対話」までを設計した本作だが、今後このような手法を取り入れることも増えていくのではと思った。

なぜなら、社会問題を扱う作品は、エンタメ性の強い作品とは異なり、鑑賞後に観客に何らかのアクションへとつなげてもらいたい意図があることが多いからだ。

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©︎ 2023 BLACK STAR LABEL

社会問題と映像作品の可能性について、田村監督はこう語る。

「作品一つで社会システムの変容を起こすなど、大きなアクションにつなげることは難易度が高いことかもしれません。

でも、少しでも問題を知ったり課題共有を促したりすることは、映画にもできる。

鑑賞を通じて人々の対話を生み、その輪を広げていくことで、見過ごされてきたさまざまな社会課題に光を当てることができます。そこから企業や団体・政治を動かすうねりにつながるのでは」(田村監督)

また、本作は日本のエネルギー問題の基本的な解説からスタートするため、最近エネルギー問題に関心を持った、電力問題に詳しくない人にも間口が開かれている。

このままではいけない、と思っている人へ

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本作品では、エネルギー問題を考える前に“まずは豊かすぎる社会を一旦立ち止まって見つめ直してみよう”と言った問題提起のメッセージも感じられた。

©︎ 2023 BLACK STAR LABEL

社会課題は、「まず問題自体を知ることから始めよう」と語られることが多いが、その先にできる行動は何か?と迷う人も多い実情があるように思う。

「今回『Dance with the Issue』で題材とした電力問題以外にも、多くの社会課題に対して“白か黒か”を決めるのではなく、個人として持続可能な選択を促し、社会全体の良い落としどころを見出していけたらと思っています。

日々報道されている国内外の社会課題に対して、このままではいけないと気になっている・何か行動したいと思う方にこそ見て欲しい作品です」(田村監督)

内なる自分や、周りの観客とのディスカッションを通じて生まれる「自分なりの答え」を求めて、劇場へ足を運んでみてはいかがだろうか。

【映画:Dance with the Issue

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