グーグルの2023年度のフラグシップモデル「Pixel 8 Pro」(写真は純正ケース着用時)。
撮影:小林優多郎
いまや、日本国内ではiPhoneシリーズと争う存在になった「グーグルスマホ」Pixel 8シリーズ。その最高峰モデルのPixel 8 Proが得意とするAIカメラ性能を、アップルの最高峰モデルiPhone 15 Pro MAXと比較してみた。
フォトグラファーの目線で見ると、同じ風景を切り取ったなかでの、両機の個性の違いは興味深いものだった。
どのセンサーもデジタルズームがしやすく使いやすい
Pixel 8 Proの背面カメラ。
撮影:林佑樹
AIによる補助といえば、グーグルの「Pixel」とアップルの「iPhone」がわかりやすい存在だが、両社ともハードウェアに力を入れる段階に入っている。
「元ソース(画像)が良くないと、加工にも限界がある」のが主な理由だ。後ほどiPhone 15 Pro Maxとの比較もしているが、まずはPixel 8 Pro単体で見ていこう。
Pixel 8 Proには、35mm換算で12mm相当の超広角カメラ(4800万画素)、24mm相当の広角カメラ(5000万画素)、110mm相当の光学5倍ズームがある。
画角の変容を見ておくとこのようになる。「熱海駅」のプレートを中心に画角を変更したもので、左上が0.5倍、右上が1倍、左下が2倍、右下が5倍だ。
撮影:林佑樹
複数の画素を1つの画素として扱ったり(ピクセルビニング)、全画素オートフォーカスなどといった技術に対応した「Quad PDセンサー」で、スペック値そのままだけではなく、1200万画素で保存するなど使い分けられる。
デフォルトでは1200万画素になっているため、どのカメラを選んだ場合でも一定の品質を確保する狙いが強い構成だ。
4800〜5000万画素で撮影する際は、夜景モードと同じく1秒ほどPixel 8 Proをしっかりと構える必要がある。またスマホから見て扱いやすいファイルサイズを考えると、1200万画素のままで扱うユーザーばかりだろう。
カメラアプリ上では超広角、広角、光学5倍ズームに加えて、広角をデジタルズームした48mm相当のモードも用意されている。
そのため、そのまま使うのであれば画角は4つから選ぶことになる。どの画角を選んでも画素数的な余裕があるため、どのカメラを選んでいるときでもデジタルズームを使いやすいのは良いところだ。
バランスよく盛ってくれるAIカメラ
ここからは作例を見ていくが、記事上の写真と実機での表示では、明るさなどに違いが出ている点は留意が必要だ。
これは、2023年のiPhoneやAndroidスマホの多くは、HDRでの撮影になっているが、PCのディスプレイではSDR表示になるためだ。
全体的な印象としては、それなりに雰囲気よく「盛って」くれている。過度な盛りでもなければ、バランスはよく、他の機種と比べても差別化もできている印象だ。
広角で撮影。海を検出して青が強めになっているが、空の境界線付近の処理がやや荒く、少し違和感がある。
撮影:林佑樹
超広角で撮影。細部までしっかりと解像している。
撮影:林佑樹
カメラ(レンズ)ごとの差がほとんどないので、それぞれのクセを覚える必要もない。強いていえば、光学5倍ズームのみ色にばらつきがある。
光学5倍ズームで撮影。金属の質感は苦手かもしれないと思ったのだが、予想よりもしっかりと記録できている。
撮影:林佑樹
カメラアプリの操作は「シャッターを押すだけ」を重視している。
ほとんどのAndroidスマホや、そしてiPhoneは撮影画面をタップすると露出補正ができるが、Pixel 8 Proにそれはなく、1階層進んだところで明るさ、シャドウ、ホワイトバランス、シャッタースピード、ISOなどを調整する仕様だ。
思い出してみると、露出補正をすることがほとんどなくなっていた。そこまで操作するならシャドウとホワイトバランスも調整したくなるので、しばらく使ってみてその操作設計に納得がいった次第だ。
なお、Pixel 8は明るさ、シャドウ、ホワイトバランスのみ設定できる。
朝焼け。期待していた以上に赤くなったのだが、そのままだと物足りない感じがあったので、次のように設定を変更した。
撮影:林佑樹
シャドウを濃くし、ホワイトバランスを調整。広角カメラから光学5倍ズームに変更した。
撮影:林佑樹
夜景モードは手持ちで1~6秒(3秒がほとんど)保持して撮影する。ノイズはそれなりに生じているが、品質は悪くない。
また過去機種同様に、三脚に固定すると「天体モード」に切り替わる。ただ、1枚の撮影に5分ほどかかるため、旅行などで思い出したら使ってみるくらいの機能になるだろう。
夜景モード。ディティールもあり、良好。じゃっかんノイズもあるのだが気になるレベルではない。
撮影:林佑樹
天体モード。写真下部の木々や構造体が露出オーバーしておらず、星景写真にも使える機能だ。
撮影:林佑樹
レンズフレア・ゴーストは頻繁に遭遇した。
撮影:林佑樹
光学5倍ズームは光ぼう(強い光を写した時の光の筋など)が生じやすく、これからのシーズンであればイルミネーションなどの撮影で頻繁に遭遇するだろう。カメラ好きとしては、クロスフィルタめいてなかなかいいのだが、ちょっとうるさくもある。車両のヘッドライトで決まるとかっこよいので狙ってみてほしい。
撮影:林佑樹
マクロ撮影は超広角カメラを利用し、倍率変更はデジタルズームになる。この点、4800万画素ある点が都合よく、露骨な粗さを感じにくい。
もうひとつ、背景にぼかしをつけて被写体を際立たせる「ポートレートモード」もスマホの定番だ。
Pixel 8 Proの場合、イメージセンサーの巨大化もあり、ポートレートモードでなくてもそれなりにボケが生じる。シーンに応じて使い分けがベターだ。
どのくらいの規模のユーザーが「センサー由来のそれっぽいボケ」で満足するのか、それとも「ポートレートモードのわかりやすいボケ」を選ぶのか。フォトグラファーとしては気になるところだ。
ポートレートモード。視差とAIベースで距離を取得しているようだが、苦手そうな枝への対応も良好。
撮影:林佑樹
前ボケは総じて苦手なスマホが多いのだが、Pixel 8 Proは割とうまくいっている。
撮影:林佑樹
細かい操作は気にせずに撮影するという点で見ると、細かく調整したいと思うことは少なく、ほとんどシャッターボタンを押すのみだった。やや明るめに撮影する設定がデフォルトだが、Pixel 8 Proは適正露出に近い点が大きい。
撮影:林佑樹
ちなみに、今回の旅行で一番筆者の琴線に触れたのがこのカット。光学5倍ズームがあってよかった。
撮影:林佑樹
食べ物の写真はやや色が盛られやすく、干物がかなりギラギラしてしまっている。また、絵面的に掲載したくないのでしないが、別のシーンでは肉の焼けていない部分が悪目立ちしている印象があった。
撮影:林佑樹
色の多い料理では様になるのだが、緑がくすみがち。
撮影:林佑樹
iPhone 15 Pro Maxと比較。暗所では差が出るシーンも
競合のひとつである「iPhone 15 Pro Max」と比べてみよう。まずはざっくりとPixel 8 ProとiPhone 15 Pro Maxの違いをおさらいしてみる。
ともに、超広角、広角、光学5倍望遠を備えているが、画素数の違いがわかりやすく、以下のようになる。
超広角 | 広角 | 光学5倍望遠 | |
---|---|---|---|
Pixel 8 Pro | 4800万画素 | 5000万画素 | 4800万画素 |
iPhone 15 Pro Max | 1200万画素 | 4800万画素 | 1200万画素 |
Pixel 8 Proは、前述の通りどのカメラのイメージセンサーもQuad PDであり、どのカメラでも複数の画素を1つの画素と扱うピクセルビニングが使える点が強みになる。
一方でiPhone 15 Pro MaxはX(旧Twitter)やInstagramをはじめとする「サムネイル文化に沿ったスペック」とも言える。
自分の普段の生活を思い返してもらいたいのだが、SNSなどのフィードやタイムラインで流れてきた写真をわざわざ拡大するかと言えば、しない人がほとんだと思う。多くの人は拡大前の縮小された画像(サムネイル)で見ており、それなりに写っていればよいだろう。
こうした利用シーンでは、画素数の差を感じることもない。iPhone 15 Pro Maxがあえて画素数が低いレンズを設定しているのは良い意味での割り切りとも言える。
ただしAIによる補助を考えると、良好な「元情報」は必要だ。Pixel 8 ProとiPhone 15 Pro Maxでは、薄暗い環境下での超広角と光学5倍望遠の違いが分かりやすくなっている。
なお、メインカメラである広角については、処理の路線は違うものの、両機の傾向は似た感じなので、好みの世界だ。
Pixel 8 Proで撮影した夕方の街中。
撮影:林佑樹
iPhone 15 Pro Maxで撮影した夕方の街中。
撮影:林佑樹
撮影後の処理でわかりやすいのは空だ。
海と空の場合、iPhone 15 Pro Maxは空を盛ってくる傾向があるが、Pixel 8 Proは見たままに近い雰囲気になる。
しかし、街中になるとPixel 8 Proは曇ったくすんだ感じを排除してクリアな雰囲気に処理する、一方でiPhone 15 Pro Maxはくすんだ雰囲気を残したままにしている……と両社間で「印象」の違いが見えておもしろい。
Pixel 8 Proで撮影した夕陽。
撮影:林佑樹
iPhone 15 Pro Maxで撮影した夕陽。
撮影:林佑樹
夜景や薄暗い場所では、1~3秒ほどスマホをなるべく動かさないで撮影する仕様は共通している。
連続撮影したデータの加工の仕方に差があるわけだが、ここは好みの世界ではないだろうか。
Pixel 8 Proで撮影した夜の街。
撮影:林佑樹
iPhone 15 Pro Maxで撮影した夜の街。
撮影:林佑樹
スマカメラとして良好だが、バッテリー駆動時間に不安あり
カメラついては良好な仕上がりのPixel 8 Proだが、心臓部のチップセット「Tensor G3」に疑問が残る。
ソフトウェアアップデートにより改善される可能性はあるだろうが、原稿作成時点では撮影処理時のもたつきを何度も確認している。
また、モバイルネットワークへの接続ナシ、Wi-Fiオフで撮影していただけなのに、半日ほどでバッテリーが60%を切っており、バッテリーライフに関しては疑問しかない。
既報のとおり、グーグルはPixel 8/8 Proに対して「7年間のソフトウェアアップデート」を予定している。すると、必然的に長期運用を検討するユーザーが増える可能性が高く、カメラ性能が良好な分、気になる点として目立つ。
平日ながらにぎわっていた熱海駅前。圧倒的に日本人観光客が多いからかキャッシュレス対応事情は、駅周辺で充実するもPayPayに偏っている印象だった。
撮影:林佑樹
スマホとしての性能は良好で、バッテリーライフへの疑問以外は満足いく人が多いだろう。
日常生活でカメラを使うのであれば、チェックしてきたようにシャッターを押すだけでもいいし、ちょっとこだわってもよいと遊べるカメラに仕上がっている。