2023年11月初め、アマゾン(Amazon)のクラウド担当副社長がチームの士気を上げるためのメールを送った。これは、マイクロソフト(Microsoft)傘下の開発者向けコード共有サイト、GitHubがAIイベントを主催し、そこで新製品を大量にリリースした後に送られたものだ。
AWSの次世代ディベロッパー・エクスペリエンス部門のディーパック・シン副社長。
Amazon Web Services
Business Insiderが入手したそのメールの送り主は、AWS(Amazon Web Services)のクラウド部門に新設された次世代ディベロッパー・エクスペリエンス(Next Generation Developer Experience)チームの副社長、ディーパック・シン(Deepak Singh)だ。
メールの中でシンは、GitHubユニバース(GitHub Universe)と呼ばれる開発者向けカンファレンスで発表されたプロダクトは、AWSの彼のチームがすでに取り組んでいるものと類似していると指摘している。そして、GitHubよりもはるかに短期間でこれらのプロダクトを作り上げた自分のチームを称賛し、ライバルに先を越されても落胆しないよう伝えた。
GitHubユニバースで発表された目玉の一つが「Copilot Chat」の一般公開だ。これは開発者の質問に答えたりバグを特定したりできるチャットボットだ。このほか、新しいエンタープライズ向けのプロダクトや、AIセキュリティ機能なども複数発表された。
AWSは現在、Copilot Chatのような会話型AIアシスタントの開発に取り組んでいる。これを使うことで開発者はAWSの機能やサポートに関する問題を質問できるようになると、このプロジェクトに直接関与している人物は匿名を条件に明かす。AWSではこれを一般的にAWSナレッジ(AWS Knowledge)エンジンという。シンはメールの中で、この取り組みについて言及している。
「今日、われわれの競合他社がイベントを開催し、多くの発表を行いました。ただ、彼らが発表したものを見てみるとどれも、われわれが開発中のものばかりです」と、シンはGitHubユニバースについて書いている。
「しかしここからが重要なのですが、彼らはおそらく長い間これらの機能に取り組んでいる。一方われわれはわずか数カ月前に着手したばかりです。皆さんがこの4〜5カ月で成し遂げたことは、素晴らしいの一言に尽きます」
Business Insiderはアマゾンとマイクロソフトの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られていない。
競合他社がOpenAIのChatGPTやグーグルのBardといった人気コンシューマー向けアプリで先行するなか、アマゾンは内部で生成AIブームに乗ろうと躍起になっているとBusiness Insiderは以前報じた。
一方AWSは、基礎モデルをより簡単にアクセスできるようにするサービスBedrockや、コーディングアシスタントアプリCodeWhispererなどのプロダクトを発表している。
Business Insiderの既報の通り、2023年初めに創設されたシンのチームのミッションは、開発者がAWSのクラウドインフラ上に新しいプロダクトを構築するのを支援することだ。AWS開発者向けの新しいチャットボットはその戦略の一例であり、開発者がAI製品を構築する際に、より多くのAWSサービスに誘導することを意図していると、このプロジェクトに詳しい人物はBusiness Insiderに語る。
Business Insiderが入手した別の内部文書では、この戦略をさらに詳しく説明している。それによると、AI分野におけるAWSの大きな目標は、「生成AIを使ってAWS上でアプリケーションがどのように構築されているかを再度イメージさせること」だという。その一環として、AWSは「 楽しい開発者体験(Delightful developer experiences)」と 「次世代AWSビルダー(※)の可能性を広げること(Enabling the next generation of AWS builders)」に投資している、と同文書は述べている。
※ビルダーとは
アマゾンにおけるエンジニア職の呼称。「ビルダー(大工、建築業者)とは夢を見る人のアイデアを実現する人である」という創業者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)の哲学にちなんでいる。
シンは11月初めのメールの中で、AIの覇権争いはまだ緒についたばかりだと指摘した。
「この領域は熱を帯びており、われわれの仕事は始まったばかりだと感じることもあります。目の前には多くのイノベーションがあり、絶え間なくそれを実行し続けることが必要ですが、非常に限られた時間枠の中で、多くのことをやってくれている皆さんに感謝したい」(シン)