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Z世代も年齢を重ねている。現在最年長で26歳になるこの世代では、学校を卒業して社会人としてのスタートを切る人が続々と増加中だ。
仕事に就く人が増えるにつれて、Z世代の収入は急速に増加している。2030年までに、Z世代の所得は世界で33兆ドル(約5000兆円、1ドル=150円換算)に達し、2031年にはミレニアル世代の年収を上回ると予想されている。
では、若者たちは新たに手に入れた現金で何をしているのだろうか?
若いZ世代のことだから、きっとパーティーをしたりお金を無駄遣いしたりと自由奔放な使い方をしているのだろうと先入観を抱きがちだが、さにあらず。Z世代の多くは、両親や1つ上のミレニアル世代が過去の不況を切り抜けてきたのを見て、経済がいかに不安定かを学んだ結果、将来のお金についてはより慎重姿勢で、給料を使って先手を打とうとしているのだ。
自分が望むタイミングでリタイアしたい
投資アドバイザーの世界的な業界団体であるCFAインスティテュート(CFA Institute)が2023年5月に行った調査では、Z世代の回答者の半数以上がすでに投資をしていると答え、アメリカのZ世代投資家の82%が21歳になる前に投資を始めたと回答した。これは、2018年の調査で同年齢から投資を始めたと答えたミレニアル世代の31%、X世代の14%を大きく上回る結果だ。
また、2023年4月のバンクレート(Bankrate)の調査では、すでに投資を始めているZ世代のうち90%弱が、インフレや金利上昇などの経済要因に対処して積極的に投資をしていると回答している。これは他の世代よりもはるかに多い割合だ。全体では、米連邦準備制度理事会(FRB)の「消費者金融に関する調査」で、2022年に株式を保有したアメリカ人は過去最高に達したことが判明した。
若者を不安にさせているのは経済的不確実性だけではない。退職後の生活設計もそうだ。CFAインスティテュートの調査対象の半数以上が「自分が望むタイミングでリタイアできるように投資している」と答えている。
ファイナンシャル・アドバイザーらが、Z世代は20年間の老後生活におよそ300万ドル(約4億5000万円、1ドル=150円換算)が必要だと言っていることを考えると(賢くお金を運用したとしても高いハードルだ)、若者たちは一分一秒も無駄にはしていない。
トランスアメリカ退職研究センター(Transamerica Center for Retirement Studies)の調査によれば、回答したZ世代の66%が、年収の20%(中央値)を貯蓄していると答えている。この数字は、上の世代が貯蓄していると答えた収入の割合のほぼ2倍だ。
Z世代の経済状況が不透明であること、そして金融商品がより身近な存在になっていることが、投資を始めようというZ世代の意欲を刺激している。投資を始めれば落とし穴や失敗などの苦い経験も多々あるだろうが、Z世代はかつてないほど金融に精通した世代となりそうだ。
投資にもSNSを駆使
Z世代はこれまでのどの世代よりも経済的に厳しいという見出しが氾濫しているが、彼ら彼女らはいったいどうやって、上の世代を上回る率を貯蓄に回しているのだろうか?
「その理由の大部分は、アクセスが容易になったことと関係があります」と語るのは、パーソナルファイナンスの人気シリーズ『ブローク・ミレニアル(Broke Millennial)』の著者エリン・ローリー(Erin Lowry)だ。
Z世代は、紙の小切手や物理的なクレジットカードの時代からずっとくだったオンライン時代に育った。勢いのあるこの世代にとって、お金とは常にデジタルなものだった。現金の代わりにベンモ(Venmo)やペイパル(PayPal)がある。伝統的な証券会社の代わりに、ロビンフッド(Robinhood)やウィブル(Webull)といった投資アプリがある。ファイナンシャル・アドバイザーの代わりに、YouTubeやTikTokなどのSNSにはファイナンシャル・プランニングのチャンネルがある。
「特に投資は、それ以前のどの世代よりもはるかに民主化されています。Z世代は最初のデジタルネイティブですから、上の世代と比べるとアプリを使った投資だってお手のものです」(ローリー)
前出のCFAインスティテュートの調査によると、取引に投資アプリを利用していると回答した割合はミレニアル世代で55%、X世代で38%だったのに対し、Z世代は65%にのぼる。投資を始めたばかりのZ世代の48%が「SNSからアドバイスを得ている」と回答しており、アメリカ、カナダ、イギリスの若い投資家にとってSNSは「最も重要な情報源」(CFAの調査)となっている。
これらのオンラインツールは、多くのZ世代投資家の参入へのハードルを下げる。従来のファイナンシャル・アドバイザーが膨大なフォームを送ってきたり不便なカスタマーサービスだったりするのとは大違いだ。
「旧来の証券会社の多くは、長い時間をかけてようやくまともなアプリやウェブサイト上のUIへと改善してきました。投資の仕組みに慣れていないと、ほんのちょっとした手続きでもびっくりするくらい大変なことがあるんです」(ローリー)
FOMO投資
Z世代が投資を始めるきっかけがアクセスであるとすれば、そこに飛び込もうと彼らを駆り立てるのはお金にまつわるオンラインカルチャーだ。
SNSをスクロールするごとに、TikTok、YouTube、Redditには金融系インフルエンサー(通称「フィンフルエンサー」)が大挙して立ち現れ、数百ドル、数千ドルを稼ぐための簡単な3ステップを紹介しようとしてくる。
フィンフルエンサーは、やれ自身の投資ポートフォリオがどのくらい収益を上げたとか、次に大化けする銘柄はこれだとか、証拠となるスクリーンショットを示してフォロワーを引き込む。洗練されたグラフィックとドルマークはどれもこう叫ぶ。「私ができたのだから、あなたにもできる!」
こうした喧伝は、確実に「取り残されることへの恐怖(FOMO:fear of missing out)という効果を生んでいる。先のCFAの調査では、Z世代投資家の半数がFOMOに駆られて投資を行ったことがあると答えている。
この感覚、そしてパンデミック下で否応なしに生じたあり余る自由時間が相まって、パンデミック下にミーム株ブームが起き、多くの若者がこのような行動に加わった。2021年1月下旬の2週間で、投資プラットフォームのインタラクティブ・インベスター(Interactive Investor)に新しく口座を開いた18〜24歳の男性は前年比1400%、同年代の女性は1200%という驚くべき急増を記録した。
失敗するなら早いほうがいい
「金融リテラシーが幅広く受け入れられることについては、いろいろな見方があると思います」
そう話すのは、モトリーフール(The Motley Fool)が運営するパーソナルファイナンスのサイト「アセント(Ascent)」の寄稿者であるチャーリー・パスター(Charlie Pastor)だ。しかしパスターは、FOMOがきっかけの投資や、フィンフルエンサーたちのアドバイスにやみくもに従うことは下手な投資戦略につながるおそれがあると警鐘を鳴らす。
イギリスの王立造幣局の調査では、Z世代の64%以上が「一攫千金」の投資スキームの犠牲になったと答えている。
また、バークレイズ(Barclays)のスマート・インベスター(Smart Investor)が最近実施した調査では、Z世代投資家の半数近くが、短期投資で手っ取り早い金銭的利益を追求していると回答した。18〜24歳の回答者のうち、2〜5年という比較的短期間の投資を想定している割合が半数近くいたほか、回答者の20%以上が「市場を利用する」ために投資していると答えている。手っ取り早く利益を得るために「投資で勝負」したいとの回答も16%あった。
また、CFAインスティテュートの調査によれば、Z世代投資家は国を問わず、実証されていないアセットへの投機に対して他の世代より抵抗が少なく、NFT(非代替性トークン)や暗号資産(仮想通貨)といったリスクの高い資産に高い関心を寄せている。
容易に想像がつくとおり、このようなイチかバチかのメンタリティはすぐに痛い思いをする可能性がある。
2022年、仮想通貨ルナ(LUNA)がほぼ完全に崩壊したことで、仮想通貨市場全体の深刻な低迷を引き起こした。推定600億ドル(約9兆円)と言われる大暴落は、多くのZ世代投資家に大きな損失をもたらした。当時23歳だったある若者はBusiness Insiderの取材に対し、LUNAに投資したことで、それまで貯めてきた財産を失ったと語っていた。
「ここがパーソナルファイナンスの、まさに“パーソナル”であるゆえんです」
Z世代の起業家で、お得な買い物に役立つアプリSavvyのチーフ・エクスペリエンス・オフィサーであるテイラー・プライス(Taylor Price)は言う。
「SNS上で、特定の企業やインデックスファンドに投資するようなアドバイスを見かけたら、自分なりに慎重に調べること。参考にしてもいいかもしれませんが、必ずしも万能だとは限りません」(プライス)
Z世代の誰もが良からぬ投資をしているわけではない。プライスは、多くの若い投資家が自分の好きなものや興味のあるものに資金を投じており、それは企業にとっても恵みになりうると指摘する。「チポトレが好きだからチポトレに投資する」(プライス)というわけだ。
Z世代が必ずしも安全な投資先に惹かれるとは限らないが、実践的な学びを得ているのは確かだ。
「時にはお金を失うこともありますが、それは将来改善するための教訓になるはずです。この手の失敗は45歳とか50歳でするよりも、19歳でしたほうがいいですからね」(ローリー)
将来のための貯蓄
なかには古典的な投資の落とし穴にはまる人がいるかもしれないが、多くのZ世代はファイナンシャル・プランニングに対して健全なアプローチをとっている。特に、両親の失敗から学び、退職金制度において先手を打っているのだ。
前出のトランスアメリカ退職研究センターの調査では、Z世代は19歳という中央値で退職後の貯蓄を始めていることが明らかになっており、これは他のどの世代よりも早い。
バンガード(Vanguard)の最近のレポートでは、15年前社会人になった人たちと比べて、Z世代はいくつかの教訓を学んでいるようだ。18〜24歳の62%が、2021年に職場の退職金制度に拠出していると答えている。これに対し、2006年に同年齢だった人たちは30%だった。
これは退職金制度に自動加入する雇用主が増えていることも一因だと、前出のパスターは考えている。だがそれだけでなく、多くの若者にとって退職が手の届かないものと感じられ、そのせいでできるだけ早く貯蓄を始めようと促された結果でもある。
両親や祖父母にとって退職後の貯蓄が経済的なプレッシャーになっているのを目の当たりにしたのは「目が覚めたような瞬間だった」とZ世代起業家のプライスは語り、次のように続ける。
「私は65歳、70歳まで働きたくありません。残りの人生を楽しみたいんです」
ブラックロック(BlackRock)のレポートでは、定年を迎えられるかどうかわからないと回答した労働者の数は、2021年の32%から2023年には44%に増加し、その節目を迎えられる見込みだと回答したZ世代はわずか56%にとどまった。2008年と2020年の金融危機の恐怖が尾を引いているがゆえの悲観論だろうとパスターは見ている。
「そのせいで、若い貯蓄家たちは、自分で手綱を握り、自己防衛することを余儀なくされているのだと思います。老後のための投資や貯蓄のことは心配いらないよと、世話を焼いて安心させてくれる人なんてほかに誰もいないでしょうから」(パスター)
多くの点で、Z世代はいいタイミングで成人している。好景気のさなかに卒業して社会人になり、賃金もしっかり上昇している。一方、ミレニアル世代が大人になるまでの道のりは障害物だらけだった。40歳になるまでに2度の不況に見舞われ、失業、住宅の差し押さえ、投資の損失などを経験してきた。
「私が知っているミレニアル世代の中には、2008年の一件が怖くて投資しようとしなかった人がたくさんいます」と、『ブローク・ミレニアル』のローリーは言う。ローリーいわく、ミレニアル世代には「強烈な欠乏感マインド」があるのだという。多くの人は「お金があったらおとなしく貯金しておこう。リスクは負いたくない」と考えたのだ、と。
しかし、Z世代は上の世代から学び、資金を増やすためにオンライン上にある膨大なリソースを利用する機会を得た。大きな投資利益を逃すことへの恐れであれ、退職できるだけの資金が不足していることへの恐れであれ、Z世代は「早く始めなさい」という金融アドバイスを聞き、それを実行に移した。時間を味方につけ、着実に資産を増やしているのだ。