Rakuten Technology Conference 2023に登壇した三木谷浩史会長。
撮影:小林優多郎
「(楽天なら)日本国内でもユニークで、第一級の生成AIを作り出せる」
楽天グループが11月18日に開催した開発者向けイベント「Rakuten Technology Conference 2023」にて、基調講演に登壇した三木谷浩史会長は自信たっぷりに語った。
実はこの基調講演の裏で、生成AI業界には現在進行形の激震が走っていた。
三木谷氏が登壇する約7時間前に、生成AIブームの火付け役である「ChatGPT」を開発したOpenAIが、創業者の一人であるSam Altman(サム・アルトマン)氏の同社CEO解任を発表していたからだ。
アルトマン氏と旧知の三木谷氏、CEO電撃解任に言及なし
OpenAIと楽天グループは8月に協業を発表している。
撮影:小林優多郎
結論から言えば、Rakuten Technology Conference 2023で三木谷氏はアルトマン氏のCEO解任については全く触れなかった。
三木谷氏は、OpenAIとの協業は続け、自社でも独自のLLM(大規模言語モデル)やAI機能の開発を進めていく方針を熱心に語った。
8月2日に開催された「Rakuten Optimism 2023」では、サム・アルトマンCEO(当時)がゲスト登壇した。
撮影:小林優多郎
ちなみに、三木谷氏は楽天グループとOpenAIの協業を発表した8月2日の別イベントで、アルトマン氏をオンライン登壇させ、話題を集めていた。
三木谷氏曰く「アルトマン氏(と三木谷氏)は13歳の頃から顔なじみ」とのことだが、今回のOpenAIのお家騒動は楽天とOpenAIの協力関係に水をささないのか。
楽天はさまざまなデータを使ってOpenAIとのシナジーを活かす。
撮影:小林優多郎
Business Insider Japanが楽天グループ広報に今後のOpenAIとの関係性について質問してみても、広報担当者は
「引き続き『Rakuten AI for Business』を通じて、これまでにはない便利で革新的なサービスをビジネスパートナーへ提供することを目指します」(楽天グループ広報)
と回答するのみだ。
多彩な事業データで社内外の「業務効率20%向上」狙う
カンファレンスで「AI-nization」という造語(AIの革命、AIの民主化などを表す)を掲げた三木谷氏。AI-nizationは「今後、商標を取ろうと思っている」とも話していた。
撮影:小林優多郎
楽天がここまでAIに本腰を入れている根拠は、同社の多様な事業ポートフォリオによるデータがあるからだ。
楽天は以前から、自社のサービスがIDやポイント・会員制度が統一された形で、クレジットカード、銀行、証券、ポイント、保険などといった事業がある点を強調してきた。
三木谷氏は11月16日の基調講演内で改めて「大きなエコシステムはアップル、グーグル、アマゾンあるいはメタ(旧フェイスブック)も持っているが、リアルなトランザクションベースだと楽天は非常にユニーク」と説明した。
それらのデータを用いて、OpenAIと協業したり、自社の開発チームで独自あるいはオープンなLLM(大規模言語モデル)を開発。その成果を、社内業務の効率化だけではなく、消費者向けの機能や、楽天市場の加盟店などといったビジネスパートナーに展開していく方針だ。
楽天はオンライン、オフライン問わず事業を展開したり、協業を強めたりしている。
撮影:小林優多郎
基調講演では実際に成果をあげ始めている例が二つ紹介された。
一つ目は、アパレルに特化したECサイト「Rakuten Fashion」で展開している検索機能だ。
楽天ファッションでは「冬物 ダウン」のようなキーワードだけではなく「ピクニックに行きたいけど寒いから上着が欲しい」などの文章を入力しても最適な商品を表示する検索機能も展開されいている。
この機能の実装により、検索経由でのGMS(流通総額)が5%向上したという。
二つ目は、フリマサービスの「ラクマ」での活用例で、現在ラクマではおすすめ商品の表示にAI技術を活用しているという。
この機能の実装によってラクマでのコンバージョン率は「30%向上した」と三木谷氏は語った。
現在、Rakuten Fashionの検索バーはキーワードだけではなく、文章でも検索できるようになっている。
撮影:小林優多郎
三木谷氏はこうしたECの例以外にも本人確認作業(KYC)や、カスタマーセンターのチャットボット、広告、物流分野などでの活用も見越していると明かしている。
将来的にはAI技術の活用によって、自社のマーケティング領域、オペレーティング領域、そしてビジネスパートナーの業務効率を20%向上させると、展望を語った。