※この記事は、ブランディングを担う次世代リーダー向けのメディアDIGIDAY[日本版]の有料サービス「DIGIDAY+」からの転載です。
- BuzzFeedによるコンプレックスネットワークス(Complex Networks)、ハフポスト(HuffPost)といった大規模メディア企業との統合戦略は期待外れな状況であり、現在は財務状況の立て直しのため、コンプレックスの売却が噂されている。
- CEOのジョナ・ペレッティ氏は、弱気な景気見通しとプラットフォームの急速な勢力拡大で、マーケティング予算に占めるデジタルパブリッシャーの分け前が縮小したためだ、と原因を語る。
- しかし、上場経験の持つ幹部を迎えたタイミング、縦型動画への投資、コンプレックスから出向してきた社員への扱いなど、終始BuzzFeedの動向はズレていたとの声も
11月9日、BuzzFeedの全社会議が開催された。同社広報担当者が米DIGIDAYに提供した会議の書き起こしメモによると、CEOのジョナ・ペレッティ氏はBuzzFeed、コンプレックスネットワークス(Complex Networks)、ハフポスト(HuffPost)といった大規模メディア企業を統合して大きな複合企業体を目指した戦略が、「期待通りの成果を出せていない」と社員に語った。
現社員1名と元社員2名は、「これをかなり控えめな表現だ」と言う。
2021年12月にSPAC(特別買収目的会社)上場を行ったあとの2年間のBuzzFeedの動きは、債務拡大から売上減少、複数回にわたる人員削減、BuzzFeedニュースの閉鎖、迫りくる上場廃止の期限まで、すべて世間の目にさらされてきた。2021年6月にSPAC上場の一環として3億ドル(約315億円)で買収したコンプレックス(Complex)の売却を検討しているとの報道もある。
コンプレックスの売却は既定路線?
全社会議でペレッティ氏は、「この状況があるのはFacebookなどのプラットフォームがパブリッシャーから離れてコンテンツクリエイターへと向かい、上質なコンテンツよりエンゲージメントを重視するようになったせいだ」と述べた。
ペレッティ氏は新しいアプローチを打ち出し、BuzzFeed傘下の各ブランドに注力していくことを漠然とした表現で語った。経営陣が中央に集約したチームと連携し、個々のブランドを中心とした組織体制を検討するそうで、システム部門や管理部門ではすでにこのような体制ができている。同氏は、このアプローチが経営の安定化につながると述べ、社員を安心させようと、「経営陣が会社の財務状況の改善と成長軌道に乗せるための取り組みを進めている」という話もした。
だが、ここで一切触れられることのなかったのは、コンプレックスの売却だ。それは、11月2日に行われた決算発表でも同じだった。米DIGIDAYが話を聞いた現社員・元社員も、メディア業界の業界ウォッチャーたちも、BuzzFeedが苦戦を強いられていて、BuzzFeedとコンプレックスの両社とも生き残るにはコンプレックス売却しかないと口をそろえる。ペレッティ氏については、本稿の取材には応じられないとBuzzFeedの広報担当者から辞退の申し入れがあった。
劣勢に置かれたBuzzFeedの状況を改めて示した11月第1週の決算報告では、第3四半期の収益が前年同期比で再び29%落ち込んだことが明らかになった。本稿に情報を提供してくれた情報筋のあいだで、BuzzFeedのもっとも価値の高い資産であると広く認められるコンプレックスの売却こそ、BuzzFeedが一息つくために必要なことかもしれない。
コンプレックスの売却話が浮上したのは今年2023年であると、2名のBuzzFeed幹部(現1名、元1名)が米DIGIDAYに認めている。同社広報担当者は売却の可能性に関してコメントできないとしながら、上場廃止期限の延長申請を計画していることを話してくれた。「延長を確信できるに足る十分な根拠」があるそうだ。
変わる評価額
注目すべきは、BuzzFeedがeコマース企業のNTWRKに、2年前の買収で支払った金額の半分以下である約1億4000万ドル(約210億円)でコンプレックスを売却しようとしているという「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」の報道だ。
激安価格でのコンプレックス売却が考えられるのには、さまざまな理由がある。BuzzFeedが資金を必要としていること、メディア業界における現在のM&A市場の状況、そしてファースト・ウィー・フィースト(First We Feast)の「ホット・ワンズ(Hot Ones)」といった人気番組が売却に含まれないこと、などだ。
M&Aアドバイザリー企業のプログレスパートナーズ(Progress Partners)でシニアマネージングディレクターを務めるサム・トンプソン氏は「現在はメディア不況にある」と話す。「BuzzFeedに選択肢はないはずだ。彼らはこれをコア事業の経営を支えるためのキャッシュフローを手に入れる手段だと考えていると思う」。
だが、「細かく見ていった場合、ファースト・ウィー・フィーストに1億6000万ドル(約240億円)の価値はあるのだろうか」と、2023年にBuzzFeedを退社した元幹部は疑問を呈する。「自分にはわからない。ただ、どのクライアントも番組について何か尋ねる場合は、必ずそれ(『ホット・ワンズ』)について尋ねていた」。
クライアントのデジタルメディア予算を管理しているというあるメディアバイヤーも同じ意見で、特にCPG分野の多くのクライアントが「ホット・ワンズ」に関わることを希望していた、と匿名を条件に語った。ただし、「ホット・ワンズ」に向けられる具体的な予算の割合については明かしていない。
BuzzFeedの懐事情
BuzzFeedがなぜ、もっとも高価な資産を売却してしまうのかというと、何よりもまず、キャッシュを必要としているからだ。
マーケットウォッチ(MarketWatch)によると、BuzzFeedは約4200万ドル(約63億円)の現金および現金等価物で第3四半期を終え、11月9日の市場取引終了時点の時価総額は4407万ドル(約66億1050万円)だった。かつて17億ドル(約2550億円)の評価額が付いた企業としては、ひどく下がったものだ。第3四半期の1390万ドル(約20億8500万円)という損失は、2022年第3四半期の2700万ドル(約40億5000万円)に比べれば改善はしているが、総収益は前年比マイナス29%だ。
「BuzzFeedは困窮している。だから高価な資産を売り払ってキャッシュフローを手に入れ、事業運営だけでなく債務返済にも充てようとしている」と、2023年に退社したもう一人のBuzzFeed元幹部は話した。決算報告によると、同社の第3四半期末時点での債務額は、2022年第4四半期末の1億5200万ドル(約228億円)からさらに増え、1億5700万ドル(約235億5000万円)になっている。
コンプレックス売却は、BuzzFeedが損失を埋め合わせて債務の残りを返済するもっとも確実な方法かもしれない。前述のメディアバイヤーによれば、広告費の獲得競争ではコンプレックスにはまだ大きなブランド力があり、そのバイヤーの会社がBuzzFeedのブランドのポートフォリオを評価する際に「かなり大きな部分の」時間と注目を向ける対象であるそうだ。
また、ストリートファッションやスニーカー文化に関連するキャンペーンで主に検討されるブランドであることが、「BuzzFeedにとってコンプレックスの新しい売却先を探すちょうどよいタイミングであることにつながっているのではないか」とも付け加えた。
「おそらくBuzzFeedにはコンプレックスにテコ入れするだけの時間も投資もなく、そこから価値を引き出す機会を見ているのではないか。そこから得た資金は、今度はBuzzFeedのコア資産に向けることができる」とトンプソン氏は話す。
主要なプラットフォームに敗北
コンプレックス買収時の当初の戦略は、より大きくより全体的にZ世代とミレニアル世代のオーディエンスを取り込んで、プラットフォーム各社が持つスケールメリットに対抗しようというものだった。
ペレッティ氏は先日の全社会議で、従来メディア企業は広告費交渉で有利になるように、統合によって大きな複合企業体を形成したと語った。だが、弱気な景気見通しとプラットフォームの急速な勢力拡大で、マーケティング予算に占めるデジタルパブリッシャーの分け前は縮小していき、最終的には「この残念な展開が、BuzzFeedの戦略の前提を無効にしてしまった」という。
「ひとつにまとめることによって、コンテンツ的にエコシステム全体を網羅し、個々で実現するよりはるかに大きなスケールメリットを生み出すという構想だったのは知っている。原則的な理論としてはそうだったが、現実はかなり違っていた」と別のメディアバイヤーも匿名を条件に語った。
このバイヤーは、以前はコンプレックスやBuzzFeedとニッチなキャンペーンで、特定のカテゴリーを深く掘り下げて的を絞ったオーディエンスへのリーチを試みたこともあったというが、合併のあとは、これらのパートナー企業からの音沙汰がなくなったそうだ。そのうえ、BuzzFeed幹部は、すでにクロスブランドでの営業に苦戦していたなかで、広告営業チームの統合によってクライアントとの関係が失われたと話している。
2人目のバイヤーは、統合後はプログラマティック広告へのシフトがあるように感じたと話し、「メディアバイイングは機械やプラットフォームで行われるにしても、販売に関しては生身の人間同士の話し合いが必要」だという。
最初のメディアバイヤーは「ポートフォリオ企業として、厳しい2年間だった」と話す。「テック、小売、金融といったカテゴリーでブランドが活動を控えていたことを考えると、BuzzFeedが権威を持っていたのはまさにその分野だと思う。BuzzFeedのポートフォリオが元は圧倒的に優勢だった分野で、YouTubeやTikTokなど、ブランドがそのカテゴリーのオーディエンスを集めることのできるさまざまな場所が登場している」。
このため、バイヤーやブランドがホット・ワンズ、コンプレックス、テイスティ(Tasty)のそれぞれに関心を持っていたとしても、これらを合わせたときにキャンペーン予算を獲得することができなかったのだ。同時に、BuzzFeedが別に買収したハフポストも、広告主の関心を失っているように見える。
1人目のメディアバイヤーは「もっとも落ち込みが激しく、大きなメディア企業にのみ込まれてしまっているのはハフィントンポスト(Huffington Post)で、クライアントの関心がかなり減っているのはそこ(一般メディア)だと思う」と話した。
ズレ続けたタイミング
本稿に関連して取材に応じた現幹部も元幹部も、BuzzFeedには上場企業を率いるにふさわしい首脳陣はいないと考えており、たとえば2021年12月に上場したにもかかわらず上場企業での幹部経験を持つマルセラ・マーティン氏を社長に迎えたのが2022年5月になる、といった経営幹部の決定には批判が集まった。
「上場後6カ月たってから上場企業での経験のある人をようやく雇うというのは、会社が空いている穴を埋めようとしているだけということだと思った。その人は6カ月前に雇われているべきだった」とBuzzFeedの現幹部は述べた。
賃料の予算削減(BuzzFeedは2022年8月にニューヨークの本社をコンプレックスのオフィスに移転し、ニューヨークのオフィス面積を実質的に半分にした)も、事業運営の予算削減も遅すぎた、と現幹部と元幹部は同様に話す。
さらには2022年5月に、BuzzFeed、コンプレックス、ハフポストがひとつの会社となったあとの初めての決算発表で、BuzzFeed上層部は成長の主な分野として縦型動画への投資を掲げていた。BuzzFeedの現幹部は「あれが自分にとって最初の危険信号だった。これは戦略ではなく、小手先の戦術だ」。
先日の決算発表では、ペレッティ氏はショートフォーム動画コンテンツの収益化が難しいことが判明したと認めている。「これらの取り組みの規模を拡大するためにやらなければならないことはまだある。そのうえ、市場で起きている変化はデジタルメディア企業にかつてない影響を与えており、新しい取り組みで増強・規模拡大を果たし、当社の財務業績に表れているようなトラフィックや収益化の課題に対応するには時間がかかるだろう」。
また、コンプレックスの扱いに関する件もあった。コンプレックスから来た社員は、自分たちのアイデアや責務よりBuzzFeedの首脳陣が優先されると感じたという。最初の元幹部は、「真の合併」ではなかったと話した。コンプレックスのCEOだったクリスチャン・ベイズラー氏とCROだったエドガー・ヘルナンデス氏が、合併後にそれぞれBuzzFeedのCOOとCROに任命されたにもかかわらず、である。2人とも2023年に退社しているが、まだ後任の任命はない。
「スケールやオーディエンスの重複を理由にコンプレックスとBuzzFeedを統合することが、市場で何らかの意味を持つだろうという考えは完全に誤っていた」と最初のBuzzFeed元幹部は語った。