降って湧いたサム・アルトマンCEOの解任騒動にOpenAIの社内は混乱を極めている。
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OpenAI(オープンAI)の現行の独立した取締役会は、共同創業者兼CEOのサム・アルトマン(Sam Altman)の解任理由は率直さの欠如にあるとし、2つの実例を挙げて同社を混乱に陥れている。
OpenAIの共同創業者でボードメンバー、かつチーフサイエンティストでもあるイリヤ・サツキバー(Ilya Sustkever)は11月19日深夜、社員に対し、元トゥイッチ(Twich)CEOのエメット・シア(Emmett Shear)がOpenAIの新たな暫定CEOに指名されたと発表した。
11月17日にアルトマンの後を受けて暫定CEOとなったミラ・ムラティ(Mira Murati)は、わずか2日間でその職をシアに引き継ぐこととなった。
悪い知らせ
OpenAIの事情に詳しく、19日の会合についてよく知る人物によると、同社のサンフランシスコオフィスの1つで簡単な会合が開かれ、ごく一握りの従業員がそれに参加したという。他の従業員は実質的にストライキをしていた。この会合についてはザ・ヴァージ(The Verge)も報じている。
従業員たちはその日、アルトマンのCEO復帰が伝えられるのではないかと期待していた。17日夜、30分ほどの会合で従業員に伝えられたのは、アルトマンが復帰するということ、やはり復帰しないということ、そしてシアが指名されたということだと、匿名を条件にBusiness Insiderに応じた関係者は語る(情報提供者の身元は確認済み)。
シアの指名を知った従業員の大半は、そのニュースを「非常に悪い知らせ」として受け止めたと、情報提供者の1人は語る。週末の間ずっと気をもんでいた従業員にとって、これはさらなる衝撃だった。
シア就任の知らせを従業員に告げる役割は、サツキバーに委ねられた。サツキバーは、アルトマン追放に票を投じ、Google Meetでアルトマンにクビを申し渡した人物だ。この会合中のサツキバーは「元気がない」様子だったと、情報提供者の1人は語る。
従業員はテック業界の評論家たちと同じく、アルトマンが「取締役会との意思疎通において一貫して率直ではなかった」というOpenAIの厳しい調子の声明の背後にどのような思惑があるのか、ここ数日いぶかしく思っていた。
この件に詳しい人物によると、サツキバーは取締役会から受けたとされる2つの説明を伝えたという。1つは、アルトマンがOpenAIの従業員2人に同一のプロジェクトを与えたというもの。もう1つは、アルトマンが1人の従業員について2人の取締役に異なる意見を伝えたというものだ。Business InsiderはOpenAIの広報担当者にコメントを求めたが、回答はなかった。
これらの説明は従業員にとって納得のいくものではなく、好意的には受け止められなかったと、この件に詳しい人物は語る。現在の社内では、社内外で言われている通り、これは取締役会による「クーデター」だという説が有力だ。今は取締役会がどのような説明をしても、従業員への説得力はないに等しいと先の人物は語る。
サツキバーは取締役会に加担し「後悔」
その会合から数時間後、1通の公開書簡が起草され、一夜のうちに全従業員に広まり、ムラティやサツキバーをはじめとするOpenAIの幹部が署名した。その内容は、アルトマンを復帰させないという取締役会の決定に抗議する内容であり、11月20日正午現在で従業員の90%が署名している。
この公開書簡の中で従業員たちは、取締役会の残りのメンバーが退陣せず、新たな取締役会が任命されず、アルトマンがOpenAIに復帰しないなら退職すると主張している。
現時点でアルトマンはマイクロソフト(Microsoft)に暫定的な役職を得つつ、復帰の可能性を交渉中だと言われている。マイクロソフトでのアルトマンの役職はサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOが準備したものだ。マイクロソフトはOpenAIの最大の出資者であり、少なくとも100億ドル(約1兆5000億円、1ドル=150円換算)を同社に投じている。
OpenAIの事情に詳しい人物によれば、「従業員たちは激怒していて、一斉に辞めかねない緊迫した状況」だという。
同社の現在の取締役会のメンバーは以下の通りだ。
- アダム・ディアンジェロ(Adam D'Angelo):クオーラ(Quora)CEO
- ターシャ・マッコーリー(Tasha McCauley):テック起業家
- ヘレン・トナー(Helen Toner):ジョージタウン大学 安全保障・先端技術研究センター
- サツキバー
会社を辞めると脅す公開書簡にはサツキバーも署名しているが、彼は厳密には今も取締役会のメンバーであるとされている。アルトマンとOpenAI社長グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)も、以前は取締役会の一員だった。
アルトマン解任直後は、多くの従業員の怒りの矛先がムラティに向けられていた。ムラティはアルトマンの最初の後任であり、彼が解任されることを前日には知っていたとされているからだ。ムラティへの怒りの感情は今では鎮まっている。本件に詳しい人物によると、ムラティは17日の騒動直後は終始サツキバーの「言いなりになっていた」という。
ムラティが、万が一アルトマンが復帰しなければ会社を去る決断をし、サツキバーもアルトマンに対する取締役会の動きに加担したことへの「後悔」を公に表明している今、これらのトッププレイヤーがOpenAIなり他社なりの幹部として仕事を続けることができるだろうかと考えている人もいる。
一方で、サツキバーが簡単に許されることはなく、同社に引きとめられることもなく、マイクロソフトでの新事業に招かれることもないだろうとの見方も出ている。