突如経営トップの座を追放されたサム・アルトマン氏を追って、マイクロソフト(Microsoft)一斉移籍をほのめかすOpenAIの従業員たちだが……。
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対話型AI(人工知能)「ChatGPT」開発元OpenAIの従業員たちは、サム・アルトマン共同創業者兼最高経営責任者(CEO)が突然解任されたことを受け、決定を下した取締役会に徹底抗議する動きを見せている。
同社従業員の大半が署名して提出した公開書簡は、現在の取締役会メンバーが全員辞任し、アルトマン氏および元取締役会会長で前社長のグレッグ・ブロックマン氏を復帰させなければ、マイクロソフト(Microsoft)が新設するAI研究ベンチャーに移籍すると警告する内容だ。
ただ、同書簡には「マイクロソフトはOpenAIの全従業員のために『新たな子会社』のポジションを用意することを確約した」との記載があるものの、内情に詳しい複数の関係者によれば、現時点では記述に該当する子会社もそこでの役職も存在していないという。
なお、署名書簡の内容はテクノロジー専門メディアのワイアード(Wired、11月20日付)が先に報じている。
上述の関係者は、書簡に記載されたマイクロソフトによるポジションの保証はあくまで幹部従業員を想定したもので、なおかつ完全に「口頭での」約束にすぎないと証言した。
具体的には、OpenAIを退職した従業員がマイクロソフトに雇用された場合、前職で得ていた報酬と同額を受け取れる内容という。
OpenAIの報酬は業界最高水準とされ、ほとんどの職種で基本給が年間約30万ドル、加えてプロフィット・パーティシペーション・ユニット(PPU、株式報酬のの一種)が支給される。
経験によって多少の差はあるものの、多くの従業員はPPUの権利が確定する4年間勤務すれば、株式報酬だけで最低200万ドル(約3億円)を受け取れることになる。
ただ、マイクロソフト移籍後にそうした破格の待遇を受けられるかというと、現時点でそれは不透明だ。
内情に詳しい関係者の一人は、OpenAIの従業員たちはアルトマン氏の突然の解雇に抗議するため、正式なオファー(採用内定)を得ないままに「信頼に基づく賭け」に出たと語る。
さらに別の関係者は、マイクロソフト側に優秀な人材を確保できる大きなメリットがあるとは言え、OpenAIが支給しているような業界最高水準の報酬で800人近い従業員を一気に受け入れる余裕があるのか、はなはだ疑問だと語った。
マイクロソフトは巨大テック企業の例に漏れず、2022年の株価下落を背景とする不調の中で大規模なレイオフ(一時解雇)を実施。
2023年については昇給を凍結し、賞与と株式報酬に充てる原資を圧縮して過去の平均水準に戻す方針を打ち出した。
セキュリティ部門のある従業員は、5月の全体ミーティング中に次のような痛烈な経営批判を口にしている。
「昨今の採用凍結や人員削減を経て、より少ない人数でより多くの仕事をこなすよう求められてきました。そして今度は、より少ない報酬でより多くの仕事をこなしてほしいという話です。
経営陣は従業員の貢献をきちんと評価できているのでしょうか?こうした労働環境を作り出しておいて、経営陣はどうやったら人材を手放さずにいられると考えているのでしょうか?」
Business Insider編集部の取材に応じたある現役従業員は、マイクロソフトに何ができて何ができないのかは、サティア・ナデラCEOの経営方針、その判断次第だと語る。
OpenAIの従業員を実質的にまるごと受け入れ、彼ら彼女らが希望する報酬を支払ってもいいとナデラCEOが考えるなら、その原資を捻出することは不可能ではないというわけだ。
いずれにしても、OpenAIの従業員たちがマイクロソフトへ移籍を心底希望しているのかと言えば、それは違うだろう。
大半の従業員がマイクロソフト移籍の意図を示す書簡に署名したとは言え、それはマイクロソフトで働きたいからではなく、あくまでアルトマン氏やブロックマン氏がそこにいるから追随したいという話だ。
マイクロソフトはOpenAIに比べてあまりに巨大で、それゆえに官僚的な面もあり、意思決定含めた仕事の遅さ、業務効率の低さを批判する内部からの声も絶えない。
2022年にレイオフの嵐が吹き荒れる前には、人材獲得における強力な競合であるアマゾン(Amazon)らに比べて、「そもそも株式報酬の支給レンジが低すぎる」といった厳しい経営批判の声を上げる従業員も多かった。
前出の内情に詳しい関係者はこう語る。
「OpenAIの従業員たちが期待する最高のシナリオは、サム(・アルトマン)がCEOに復帰し、彼を解任した取締役会のメンバーたちが全員クビになる結末でしょう」
アルトマン氏も目下そのような展開を目指して動いているのかもしれない。