突然の経営トップ解任騒動が沸き起こったOpenAIから競合他社への顧客流出が始まろうとしている。最有力のライバルと見られるアンスロピック(Anthropic)の名前も聞こえてくる。
Pavlo Gonchar/SOPA Images/Sipa USA via Reuters Connect
OpenAI最高経営責任者(CEO)を突如解任されたサム・アルトマン氏のマイクロソフト(Microsoft)移籍や復帰の可能性が取り沙汰される中、それと同じくらいの不確実性に動揺を余儀なくされている人々がいる。
OpenAIの顧客リストに名を連ねるスタートアップの創業者たちだ。
OpenAIが開発したAIモデルおよびその基盤となるクラウドサービスを活用して自社製品を構築する数百万の開発者や起業家たちにとって、アルトマン氏の解任は大きな不安要素を生み出した。
中には、サービス提供を一時中止せねばならなくなる懸念から、他の(AIモデルやクラウドサービスを提供する)ビジネスパートナーを探し始めたスタートアップもあるようだ。
11月20日には、従業員総数の90%を超える700人強の従業員が公開書簡に署名し、アルトマン氏の復職が実現しなければ退職し、同氏が新たに経営トップに就任するとされるマイクロソフト傘下のAI研究部門に移籍すると警告を発したこともあり、OpenAIのモデルを使うスタートアップ創業者や開発者の不安はさらに高まっている。
取材に応じた複数のスタートアップ創業者たちは、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)が開発したオープンソースの大規模言語モデル「Llama 2(ラマツー)」や、グーグルとアマゾンが出資するAnthropic(アンスロピック)の対話型AI「Claude(クロード)」への切り替えを検討していると語った。
また、AI開発基盤を提供するクラウドベンダーをマイクロソフトのAzure(アジュール)からGoogle Cloud(グーグルクラウド)やAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)に乗り換える検討を始めたスタートアップもある。
OpenAIの大規模言語モデルを活用したクイズ生成ツールを開発するクイズゲッコー(QuizGecko)のジェームス・ブラックウェル氏はこう語る。
「将来的にはユーザー向けの選択肢としてメタのLlama 2も用意し、OpenAIの状況が悪化した場合には、(当社製品向けに学習済みの)モデルをファインチューニングする方向で検討を進めるつもりです」
一方、AIアシスタントを開発するTakeoff AI(テイクオフエーアイ)のマッケイ・リグレー氏のように、OpenAIなど各社の提供する生成AIモデルをプラットフォーム上で使えるマイクロソフトのAzureサービスへの乗り換えを検討しているスタートアップもある。
リグレー氏は、マイクロソフトがアルトマン氏とOpenAI前社長のグレッグ・ブロックマン氏を新設する先端AI研究部門のトップに就任させる方針を発表したことで、Azureに乗り換える選択肢の魅力がさらに増したと語る。
テック専門メディアのインフォメーション(The Information、11月20日付)の報道によれば、OpenAIの主要な顧客企業である金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)ですら、AIソフトウェアをAzure経由で利用する形へのシフトを進めているという。
前出のリグレー氏は、現時点ではまだOpenAIが提供するAPIを利用しているものの、クラウドサービスに関しては(騒動の発生した)この週末にマイクロソフトの「Azure OpenAI Service」への全面切り替えを完了したという。
「OpenAIのスタッフには全幅の信頼を置いています。しかし、その信頼すべきスタッフが間もなくすっかりいなくなってしまう懸念を払拭できないのです。
事態が解決しなければ、彼ら彼女らはまるごとマイクロソフトの新設部門に移ってしまうでしょうし、そうなった時に何が使えて何が使えなくなるのか、現時点では見通せません」
また、OpenAIの元幹部が立ち上げたAnthropicの対話型AI「Claude」を魅力的な代替製品と評価するスタートアップ創業者もいる。
「当社がOpenAIを(AIモデルの提供元に)選んだのは、安定性に定評があるからこそでした」
そう語るのは、テクノロジーを駆使した廃棄物管理・リサイクルソリューションを提供するDSQテクノロジー(DSQ Technology)のチャーリー・ドーラン氏だ。
週末から続く混乱ぶりを踏まえ、Azure経由でのAIモデル利用も検討はしているものの、それと同等の実現可能な選択肢として、OpenAIを利用して構築している製品の(コードの)一部をアンスロピックのClaudeに移行するのは難しいことではないという。
前出のインフォメーション記事によれば、この週末だけでOpenAIの顧客企業100社以上がアンスロピックにコンタクトを取った模様だ。
主要なAIモデルを実装したウェブサイト構築をソフトウェア開発ツール(SDK)経由でサポートするヴァーセル(Vercel)のギレルモ・ラウチCEOはこう語る。
「開発者エコシステムにおいては、足元で間違いなく懸念が強まっています」
著名ベンチャーキャピタル、マドロナ(Madrona)のマット・マキルウェイン氏はBusiness Insiderの取材に対し、出資先の複数のAIスタートアップ創業者からこの週末に連絡があり、OpenAIのエンジニアが大量離脱した場合、いかに危機を回避すべきかとの相談を受けたと語った。
マキルウェイン氏が一連の動きを踏まえて何人かのスタートアップ創業者にアドバイスしてきたのは、「ある部分はOpenAI、別の部分はLlamaで、さらに別の部分はStable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)で」というように、ニーズに合わせて活用するAIモデルを使い分けるやり方だ。
マキルウェイン氏はこの問題を、3月のシリコンバレーバンク破綻に端を発する銀行危機に直面したスタートアップ各社の間で、新たなバンキングサービスの提供先を探す動きが広がったことに重ね合わせ、次のように表現した。
「2023年、私たちはシングルスレッドでは立ち行かなくなる深刻な事態を二度経験しました。一方はバンキングサービスの提供元、もう一方が今回のAIモデルの提供元を、それぞれマルチスレッド化する必要があることを教わったのです」