まだ座って仕事しているの?スタンディングワークで生産性も健康もアップ——働き方シフト〔オフィス編〕

近い将来、座って仕事をすることが時代遅れになるかもしれない。グーグルやフェイスブックなど、アメリカのシリコンバレーにある企業では、数年前から立って仕事ができるスタンディング・デスクの導入が進んでいる。社員自ら希望するケースが増え、ヘッドハンティングの際に、スタンディング・デスクを雇用条件に挙げる人もいるという。今後、立ち姿勢によるワークスタイルが世界のスタンダードになっていくのか。その変化の波は、すでに日本でも起きている。

マニュライフ生命保険の本社(東京・新宿区)のオフィスの様子

マニュライフ生命保険の本社では、立ったり座ったり。それぞれのスタイルで仕事をする

マニュライフ生命保険提供

オフィス家具で国内トップクラスのシェアがある岡村製作所が、立ち姿勢でも仕事ができる上下昇降デスク「Swift(スウィフト)」を発売したのは2015年1月。当時、日本国内で上下昇降デスク販売するのは岡村製作所だけで、発売開始直後から、カナダに本拠地を置くマニュライフのグループ企業、マニュライフ生命保険の日本本社から1千台以上、楽天から約1万3千台の大口注文が続いた。両社とも設備目的は、社員のウェルネス(健康増進)だった。

マニュライフ生命保険のオフィス内をのぞくと、立って仕事をする人と座って仕事をする人、さらに立ったり座ったりする人もいて、机の高さは人それぞれだ。商品開発部の前濱弘介さんは上下昇降デスクの使用感について、「デスクの高さを自分の身長に合わせて調整できるので、姿勢が良くなった気がします」という。

大口注文はさらに続く。三菱商事と日商岩井(現・双日)の合弁会社である鉄鋼総合商社メタルワンだ。

「次の大口注文も外資系やIT 系だろうと予想していたので、旧財閥系のメタルワンからの受注は正直意外でした。それと前後して、NHKのクローズアップ現代で紹介されるとBtoCの小口注文が増え、地方からの受注も増加。現在は、東京大学大学院や東北大学大学院、大妻女子大学などの教育機関でも数多く使っていただいています」(岡村製作所マーケティング本部ソリューション戦略部販促企画室室長・武田浩二さん)

立ち姿勢によるワークスタイルの浸透が早かったのは、デンマークやスウェーデンだった。北欧諸国でデスクといえば上下昇降デスクを指し、新しく導入されるデスクの9割以上が上下昇降タイプだという。「医療費が無料なので、国は医療費抑制のためにも国民の健康増進に真剣で、労働環境も厳しく指導していると言われています」(武田さん)。ドイツでもアウディなどの大企業が導入し、上下昇降デスクは座りすぎを改善する上で効果的なアイテムとして認識されている。

座りっぱなしは喫煙と同じぐらい危険

座っているとどこに負担がかかるかの図

座るだけで、体のさまざまな部署に負担がかかっている

岡村製作所提供

アメリカでは2013年、「長時間座って仕事をすると死亡リスクが高くなる」「座りすぎは喫煙行為と同じぐらい危険」といった複数の書籍や記事が発表された。「座りすぎは死につながる症候群(sedentary death syndrome)」「座ることは喫煙と同じ!(Sitting is the New Smoking!)」などの言葉も誕生し、グーグル、フェイスブックなどのシリコンバレーの企業が上下昇降デスクの導入を開始。ウォーキングマシンと一体化した、歩きながら仕事ができるデスクも販売されている。

ただ、いくら座りっぱなしが体に悪いと言われても、立って仕事をするのは疲れそうだと思ってしまう。しかし、実際には「座りっぱなし」で疲労は蓄積しているのだ。厚生労働省の調べによると、オフィスワーカーの約7割が目や首、肩、腰などの身体的疲労を抱えていることがわかっている。

厚生労働省データ

68.8%ものオフィスワーカーが目の疲れや首、肩、腰の凝り、痛みを感じている。1日の約3分の1を過ごすオフィスでの姿勢が大きな影響を及ぼしている

柔道整復師で、仲野整體東京青山院長の仲野孝明さんは「腰痛や肩凝りがあると、仕事に対するモチベーションや集中力が下がり、生産性が3〜4割落ちるという調査結果もあります」という。さらに、腰痛の原因となる椎間板にかかる負担は、立ち姿勢よりも座り姿勢の方が明らかに大きい。楽だと思って座った結果、体に負担をかけているのだ。

「姿勢の自由」で腰痛から解放

腰に負担のかかるメカニズムの表

岡村製作所提供

負担の変化の表

立っているときに椎間板にかかる負担を100%とすると、座って背すじを伸ばした姿勢では140%、座って前かがみになると185%の負担がかかり、腰痛の原因になると言われる。立つより座るほうが楽、ではないのだ

岡村製作所提供

日本は、8割以上の人が腰痛になると言われる腰痛大国。「腰痛の主な原因は座っているときの姿勢の崩れと運動不足。スタンディング・デスクは、その両方を解決します」という仲野さんは、患者に立ち姿勢によるワークスタイルを推奨する。座りっぱなしに慣れた現代人は、立つ力が弱まっているのも事実。ただ、立って仕事をすることに慣れるのに、さほど時間はかからないようだ。

「人間の筋肉の6割以上が下半身についていることから、私たちの体には立ち姿勢の方が向いています。また、立ち姿勢だと自然と重心を移動するなどして脚を動かすため、下半身の血流がよくなり、座り姿勢よりもむくみにくい。体をまっすぐ支えるため、腹筋の深層筋(腹横筋)が働いて、体幹トレーニングになっていることもメリット。ウエストがしぼられ、メタボ解消にも効果的です」(仲野さん)

岡村製作所が14年に全国のオフィスワーカー1200人を対象に行った実態調査では、立ち姿勢によるワークスタイルを「頻繁に行っている」「ときどき行っている」と回答した人は合わせて約2割。立って働くメリットを聞いたところ、「効率性が上がる」という回答がトップで、「健康面が改善」「機動性が高い」と続く。

最近、フリーアドレスの企業が増え、「場所の自由」を得た人も多いだろう。次に目指すは、「姿勢の自由」の獲得かもしれない。座り続けて疲れたから、立って仕事しようっと。そんな独り言を言いながら、机の高さを上げてみたい。



1993年、東京女子大学文理学部卒業。以来、フリーランスのライターとして活動。現在、「AERA」や「日経ヘルス」「日経ウーマン」などで人物インタビュー、健康、女性の生き方、働き方に関するテーマを中心に執筆。

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