育休復職後に辞めないためにあなたと会社がやるべきこと —— 働き方シフト[キャリア編]

育休プチMBAメソッドの勉強会に集う親子

プチMBAメソッドは産後離職を防げるか

ワークシフト研究所提供

日本では依然として多い女性の出産離職を防ぐカギは育児休業中と復職後1年の過ごし方にある——。出産離職する女性の9割がこの時期に離職しているとのデータに着目し、育休中や復職後女性向けに「マネジメント思考」を伝授する取り組みが、注目を集めている。実施するのは、組織や個人の意識変革を研究するワークシフト研究所(東京都港区)。ビジネススクール(経営大学院)でMBA(経営学修士)を目指すような「意識の高いバリキャリ」志向ではない女性にこそ、MBA的なマネジメント思考を広めることで、子育てしながら働くスキルを磨いてもらう狙いだ。

復職直後に始まる「戦場」

育休明けの家族、とりわけ育休取得の当事者であることの多い女性にとって、4月は「戦場」だ。

毎朝、保育園に預ける際には子どもがこの世の終わりのように泣き叫ぶ。後ろ髪を引かれるように職場に向かえば、メンバーやシステムが変わっているなど育休中の「タイムラグ」を埋めるのに必死だ。 帰宅後には、1日の疲れと空腹でぐずる子どもの相手をしながら、食事の支度、食べさせ、片付け、洗濯物、明日の保育園の準備、お風呂、読み聞かせ……とタスクは満載でクタクタ。こうした怒涛の1日が繰り返される。

さらに、新入園児の多い4月は風邪が蔓延。何度も看護休みを取らざるをえない。復帰したばかりの職場で上司や同僚に気を遣い、家に帰ればどちらが仕事を休むのかから始まり家事や送迎の分担まで、夫婦間の言い争いが激化する。

「こんなことが続けられるのだろうか」。そうよぎった経験をもつ女性は少なくないだろう。

変わらない6割離職の現実

「育休中と復職1年に女性はヤマ場を迎えます」と話す国保祥子氏

ワークシフト研究所長の国保祥子さん自身も1児の母。両立を実践している

滝川麻衣子

「育休中と復職1年内に、仕事をもつ女性には最大のヤマ場がきます」

ワークシフト研究所長で、静岡県立大学や慶應義塾大学で経営学の講師を務める国保祥子さんはこう指摘する。

出産後の女性の離職は日本の大きな特徴だ。2016年版男女共同参画白書(内閣府)は「第1子出産後、約6割が離職する傾向に大きな変化は見られない」と明記。その割合はこの20年来、あまり変わっていない。

さらに三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「両立支援に係る諸問題に関する総合的調査研究」(09年)によれば、一人目の出産後に退職した人のうち、9割が産休または育休中、もしくは復職後1年内に離職しているという。

女性の労働力率が子育て期に下がる、日本特有のM字カーブはゆるやかになりつつあるが「その内訳は非正規労働者の増加です。いったん離職してしまうと再び正社員になるのは困難」と国保さんは話す。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査などを元にした、正規雇用と非正規雇用の生涯賃金の格差は1億~2億円との試算もある。納得の上での離職ならもちろん問題はない。しかし、迷った末の決断ならば、その代償は決して小さくはない。

ワークシフト研究所はこの「育休中と復職1年のヤマ場」に着眼し、渦中にいる女性やその管理職に向けて、勉強会「プチMBA」や「育休プチMBA」を開催。MBAメソッドに基づく「マネジメント思考」やスキルを発信している。

あなたのやるべきこと

なぜ復職後の女性にMBA的なスキルと知識が必要なのか。

ワークシフト研究所が、育児中社員のような「制約を抱えた人材に必要な実践力」として提案する内容は、ビジネススクール出身者である国保さんらが、実際のMBAメソッドを育児中女性向けにカスタマイズしたものだ。

・ プレイヤー思考から「他者を使ってものごとを成し遂げる」視点のマネジャー思考にシフトする。

・ リーダーシップスキルを鍛える。自分が不在のときにも業務が滞らない体制をつくる。

・復職後に直面する(育児と仕事の)両立上の壁を想定しあらかじめ対策を検討することで、乗り越える力をもつ

・社内外のネットワークを築いて解決策を探す

・ まずは自分が組織に貢献できる意欲やスキルを上司に伝え、そのために必要な条件を交渉する。

MBAメソッドと聞くと敷居が高そうだが、メーンターゲットは全体の過半数を占める「モヤモヤ層」だ。 「バリキャリ層なら自分でビジネススクールに行くでしょう。そこまでやらないけれど、産後の復職や仕事と育児の両立不安を抱えている層がマネジメント思考を習得することでサバイバルスキルを身につけてほしい」(国保さん)。

育休プチMBAを補強するツールとして3月には初めての「育休手帳」を制作。家族プランと並行して自分のキャリアプランを書き込むページを設けたり、家事代行やシッターサービスの連絡先欄をアドレス帳に入れたりと、就業継続のヒントを織り込んだ。


小さな男の子を抱き上げようとする母親

子どもも親も、成長してゆく

MakiEni's photo/Getty


会社のやるべきこと

企業側の課題として国保さんは「管理職の意識次第で復職者がハイパフォーマーにも制度にぶら下がるフリーライダーにもなりうるということを念頭においてほしい」と、訴える。

「育休中や復職後の女性は不安を感じていますが、仕事へのやる気を喪失しているわけではない」。働きやすい環境を整えることはもちろんだが、管理職が「(復職した女性は)子ども第一で仕事は二の次」といった先入観を外して、責任ある仕事を任せることで、復職者のモチベーションは大きく変わるという。

育休中・復職後の女性の離職を防ぐことは、企業にとって単なる人材流出の防止にとどまらない。 国保さんによると、ある大学で実施したアンケートでは、男子学生の7割が「育休をとれるものならとりたい」と答えたという。 「まだ女性の問題として語られがちな育児と仕事の両立問題ですが、近い将来、男女を問わず若手人材の確保に企業側の対策が必要になるはずです」(国保さん)。

怒涛の日々は永遠に続くわけではない。親と離れる時に泣き叫んでいた子どもも、4月を過ぎれば保育園や新しい環境に徐々に慣れてくる。不安が募る育休中や怒涛の復職1年の「ヤマ場」をなんとか乗り切るうちに、親にしても、仕事や育児のスキルは上がっていく。

それまでのハードな日々を、プチMBA仕込みのマネジメント思想が、あなたや家族を助けてくれるかもしれない。

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