日本に核攻撃の備えはあるのか

15172437356_8d4433b12b_k

国立原子力博物館に展示されているファットマンの実物大模型(アルバカーキ、ニューメキシコ州)

aaron_anderer from Flickr

アメリカのニューメキシコ州アルバカーキにある国立原子力博物館は、冷戦時代、市民に配られた核兵器攻撃に備えるパンフレットやポスター、広告などを展示している。同州の砂漠地帯は、米国の原爆開発の地だ。同博物館は、第2次大戦中から冷戦時代の核開発、医療など原子力の利用について説明する。ソ連の核実験開始(1949)、朝鮮戦争(1950−53)と、米ソ間で核兵器の使用がより現実味を帯びていた時代のプロパガンダ資料が一角にひっそりと並んでいる。

核兵器が同州の砂漠地帯で開発されてから70余年を経た今、朝鮮半島での軍事的緊張が増している。アメリカでのニュースの扱いは、北朝鮮が過去にミサイルの試射や核実験を続けていた時に増して、大きい。従来は、北朝鮮のミサイル・核実験は、ニューヨークの国連本部にいる記者が忙しくなることを意味した。今回は、ワシントンのホワイトハウス担当記者までが取材に駆り出されている。

「朝鮮有事」は「米国有事」

4月14日、米ニュースチャンネル、FOXニュースの女性アンカーが、深刻な表情でこう伝えた。

「北朝鮮は、今やニューヨークやワシントンも射程距離に入る(核弾頭付き)大陸間弾道ミサイル(ICBM)も開発しています。北朝鮮問題は、今日、アジアに限定されたものではなく、アメリカに対する脅威でもあるのです」

トランプ大統領が、原子力空母カールビンソンを中心とする空母団を朝鮮半島近海に向かわせたとするニュースが突然流れた直後だ。その理由を女性アンカーは、実にわかりやすく説明した。北朝鮮によるICBM試射や核実験を阻もうという外交的意図には、一切触れていない。しかし、「朝鮮有事」は「米国有事」だとしている。

「ライフハッカー」は「核爆弾が落ちてきたら、どこに避難すべきか?」http://www.lifehacker.jp/2017/04/170406_if_nuclear_bomb.html)と見出しを付けて、国立研究所の研究員の提言を載せた。



15195065842_9a3f67db59_z

国立原子力博物館は、冷戦時代の核開発の歴史を伝える

aaron_anderer from Flickr

「アメリカ合衆国所轄のLawrence Livermore National Laboratory(ローレンス・リバモア国立研究所)の研究者、Michael Dillon氏は、すぐにシェルターを見つけて、死の灰と呼ばれる放射性降下物を避けるべきだとしています」 「たとえば、頑丈なレンガかコンクリートでできている窓のない建造物や、地下貯蔵室、地下室、半地下室に隠れると、放射能被ばく量は屋外にいるときの200分の1になります」



米連邦緊急事態管理局や米国環境保護庁が、避難に好ましい場所や、被爆した後にシャワーを浴びる、被爆した衣服を隔離するなどの指導をしていることも、ライフハッカーの記事からわかる。

10年ほど前にこんなことがあった。 「アイム・ソーリー、アイム・ソーリー」。 近所のバーで話をしていた年配のユダヤ人男性が、筆者にこう言うと、ボロボロと涙を流し始めた。カリフォルニア州からニューヨークに出張中の彼は、ユダヤ教の超正統派で、つばが広い黒い帽子に長い黒のコートを身に付け、もみあげの髪を伸ばしてカールさせていた。

同じ格好の連れのユダヤ人男性も涙ぐみ、うつむき、友人の肩をぎゅうと抱いた。

「小学生の頃、ソ連からの核兵器攻撃があるかもしれないと先生に言われて、学校で避難訓練を何度もした。お日様よりも眩しい白い光を見たら、教室の机の下に入って、頭と首を洋服で覆うように言われた。本当に怖かった。もし原爆が本当に落ちたら、もっと怖かっただろう。私たちは日本に対してやってしまった。アイム・ソーリー……」

彼の目から、とめどなく涙が溢れた。 彼の告白で筆者は初めて、アメリカが冷戦時代、学校で核兵器攻撃に備えた訓練を行っていたことを知った。彼が受けていた訓練は「Duck and Cover(身を伏せて、覆う)」というものだ。

Duck and Coverという1952年製のプロパガンダ映画もある。冒頭は白黒アニメで、木の上から猿がつるした爆弾が破裂すると、バートという名の亀が瞬時に甲羅の中に隠れるというシーンで始まる。炸裂の後には、猿も木も跡形もなくなるが、甲羅に隠れたバートだけが生き残る。「バートは賢いです。バートがやったことは、身を伏せて覆う、ということです。バートは、(甲羅という)シェルターがあります。私たちも、バートに見習って、シェルターを見つけなくてはなりません」 というナレーションが流れる。

その後、ニューヨークの小学校で撮影された白黒映画になり、核兵器の攻撃には「警報」が「あるもの」と「ないもの」があり、米国の国家安全保障チームは、攻撃の探知に備えを怠っていないこと、警報があったら「何をやっていても、すぐにそれをやめて、校舎や家の中など、シェルターになるところに移動する」ことなどを勧めている。

地下鉄の駅は核シェルターになる?

筆者は4月19日現在、首都ワシントンにいるが、ここにも核兵器攻撃に対する備えを強く感じる場所がある。地下鉄の駅だ。 駅は地上からかなり深いところにあり、改札までのエスカレーターは100数十メートルはある。東京の地下鉄駅に降りるエスカレーターの3〜4倍の長さがある感覚だ。さらに、どのプラットフォームもかなり高いかまぼこ状のコンクリート天井に覆われ、ダウンタウンでは、表示を見ない限り、どの駅で降りたのか戸惑うほど、同じデザインで建築されている。

こうした構造は、冷戦時代に核シェルターにもなるように設計されたというのが、定説だ。ホワイトハウスの地下にも核シェルターがあり、ワシントン・ポストによると、直近ではブッシュ元大統領時代、チェイニー副大統領が2001年のアメリカ同時多発テロの際に逃げ込んだという。 北朝鮮から遠く離れたアメリカには、これだけの情報や施設がある。翻(ひるがえ)って日本はどうだろうか。


津山 恵子ジャーナリスト。 元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年に独立し、主にアエラに米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は「教育超格差大国アメリカ」

関連記事