東芝メモリー争奪戦 —— 買収を狙うウエスタンデジタルCEOの告白

東芝が進める半導体メモリー事業の売却 —— 買い手候補らが提示している金額は2兆円を超えると言われる。この超大型の事業売却に意欲を示すのは当然、世界のビッグプレイヤー企業だ。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業、韓国のSKハイニックス、米ブロードコム、そして、東芝の合弁生産パートナーで米半導体大手のウエスタンデジタル(WD)。

WDは昨年、三重県四日市市でフラッシュメモリーを東芝と共同で生産してきた米サンディスクを158億ドル(約1兆7400億円)で買収した。国内の報道によると、東芝のメモリー事業の売却は契約違反だと主張するWDは5月14日(米国時間)、売却差し止めを求めて国際商業会議所(ICC)国際仲裁裁判所に仲裁申立書を提出した。

4月、WDのマーク・ロング(Mark Long)最高財務責任者(CFO)は来日した際に、事業売却をめぐって、東芝はWDと独占的な交渉をするべきだと、ブルームバーグやロイターとのインタビューで語った。また、WDが官民投資ファンドの産業革新機構や日本政策投資銀行と協議していることを明かした。

WDが描く東芝メモリーの近未来の姿、そして世界の半導体を取り巻く環境について、同社の最高経営責任者(CEO)スティーブ・ミリガン氏は4月25日、BUSINESS INSIDER JAPANなどに寄稿した。ミリガン氏の寄稿文を再掲載する。

寄稿文の要点

東芝・綱川社長

3月下旬の記者会見で話す東芝・綱川智社長

BUSINESS INSIDER JAPAN

  • マイク・ペンス米副大統領、麻生太郎財務大臣を中心とする政府高官は会談で、半導体業界における中国の台頭をテーマに議論
  • 日米エンジニアの連携は技術革新を促す
  • 日立と連携したグローバルストレージ・テクノロジー、東芝とのNANDフラッシュの合弁は、日本の生産技術とシリコンバレーのイノベーションのコラボレーション
  • サンディスクと東芝の合弁事業は日米協力の1つ
  • 東芝が深刻な経営課題に直面しているのを看過することはできない
  • 東芝とその債権者に、危機から脱出するための資金を提供する
  • 東芝のメモリー事業の優れたエンジニアを長期的に雇用していく
  • NANDフラッシュメモリーは、IoT、自動車のインターネット化、AR、VR、AI、機械学習、ロボティクスなどの中核的役割

寄稿全文

『日米協力、さらに前進せよ』

戦後70年、日米関係は両国の経済的な繁栄や安全保障に大きく寄与してきました。世界を取り巻く様々な情勢の複雑化に伴い、両国の発展のためには政府、企業、民間レベルの密接な連携を維持することで新たなる脅威に対応しなければなりません。この70年の間に日米両国は政治的、文化的に、より密接にお互い依存しながら自然災害や金融危機などに対処して発展してきました。当社の日本人スタッフはその克服する力を「トモダチ」という言葉で表現しています。

日本は米国にとって第4位の貿易国であり、その額は2016年に2740億ドル(29兆6千億円)に達しました。自動車、宇宙産業、半導体といった先進業界が、貿易の中心を担っています。1988年に始まった政府機関の連携事業によって国際宇宙ステーション、宇宙飛行士の訓練、核融合炉の研究など160件以上の共同プロジェクトや取り組みが実施されています。ボーイング787ドリームライナーの機体ではボーイング社、三菱重工、川崎重工、富士重工といったメーカーが翼と胴体製造に参加しました。パナソニックはテスラの自動車用リチウムバッテリーの主要サプライヤーであり、自動運転システム開発の提携も始めています。トヨタ、日産、ホンダもアメリカの自動車部品メーカーと緊密に協議して米国での生産に重点投資をしてきました。

ウエスタンデジタル CEO スティーブ・ミリガン氏

ウエスタンデジタル CEO スティーブ・ミリガン氏

Western Digital Corp.

日米の戦略的同盟は長期的でゆるぎないものです。先週ペンス副大統領とロス商務長官が麻生副総理と世耕大臣、その他の政府高官と会談し、北朝鮮の挑発的行動や世界の半導体業界における中国の台頭などをテーマに議論を重ねました。

ウエスタンデジタル社が現在取り組んでいるテーマは社内におけるオープンな会話、統合性、協力、チームワークといったイノベーションを可能にする企業文化の創造です。当社は日本の「ものづくり」の優れた設計生産技術ととシリコンバレーのイノベーション技術を活用して多くの課題を克服してきました。この象徴的なものが日立製作所と連携した日立グローバルストレージテクノロジー(HGST)や東芝との17年にわたるNANDフラッシュの合弁事業です。HGSTの成功は日米協力のいいサンプルでしょう。HGSTではまず人員の整理をするのではなく役員人事を変更し、新たなる成長分野に挑戦するという戦略変更をしました。さらにより社員に決定権を付与するという新たな企業文化の創造などにより、当初は損失を出しましたが、収益性の低かった事業を速やかに安定させ,高収益を確保できました。

日米エンジニアの連携は多くの分野で技術革新を促進しました。日本人のエンジニアは極小部品製作過程において重要な役割を担い、2009年の金融危機や 2011年の東日本大震災や2011年のタイの洪水による危機を乗り切り、2012年にHGSTはウエスタンデジタル社に売却されました。我々はこのコラボレーションを成し遂げた日立製作所の経営陣に敬意を表します。我々はこれにより日本人の文化的な考え方を理解し、コラボレーションのための環境を作ることに成功しました。

サンディスクと東芝の長期的な合弁事業も日米協力の好事例です。1999年に始まったこの提携は、日本の強みであるプロセス技術や生産技術とシリコンバレーが得意とする技術革新を組み合わせたものです。17年にわたる合弁事業によりNANDフラッシュメモリーの技術で世界をリードしました。2015年には世界のフラッシュ製品の約40%を四日市工場で生産しました。

長年にわたり東芝と連携してきた当社としては、この優れた企業が深刻な経営課題に直面しているのを看過することはできません。世界経済の様々な分野で数えきれないほどの貢献をしてきた東芝に対し、当社は多大な敬意を抱いています。東芝が現在の課題に対処するにあたり、当社との共通の価値に沿ったソリューションの開発を支援し、東芝がその社員、顧客、株主、債権者などすべてのステークホルダーの長期的な利益を確保することができるよう支援します。当社のソリューションを通して、東芝とその債権者に、現在の危機から脱出するために必要な資金源を提供します。さらに重要なこととして、当社は東芝のメモリー事業の優れたエンジニアを引き続き長期的に雇用し、業界をけん引していくのに必要な研究開発や工場能力を確保すべく投資していきます。四日市の共同製造拠点についても、長期的に当社のメモリー開発・生産の中核拠点としていきます。

また、さらに日本のエコシステムを発展させ、東芝と共同開発してきた技術革新を活用していきます。NANDフラッシュメモリーは、モノのインターネット(IoT)、自動車のインターネット化や自動運転、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、人工知能(AI)、マシン・ラーニング(機械学習)、ロボティクス、エッジコンピューティング、その他多くの戦略分野、防衛分野など将来のイノベーションの多くの重要分野において中核的な役割を担うでしょう。また当社は、日本の大学や政府の研究機関との密接な技術提携も継続していく計画です。

ウエスタンデジタルの大きな目標は、長期的な日米スタッフの協力をこれまで以上に推進し、両国の関係に貢献することで当社を強化することです。これまで信頼関係を構築し、課題に共に対処してきたことを基とし、今後も半導体分野におけるイノベーションを推進し、先行き不透明な未来に共に強力に立ち向かっていけるものと信じています。


スティーブ・ミリガン(Steve Milligan)氏 —— 2013年1月にウエスタンデジタルの最高経営責任者(CEO)に就任。それ以前には、日立グローバルストレージテクノロジーズ(日立GST、現在はHGST)のCEOとして、財務と経営状況の大幅な改善を指揮した。

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