感染症にかかったら、あなたの職場は休めますか?

オフィスで働く人たち

どうしても休めない仕事がある?

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4月16日、阪神の藤浪晋太郎選手が1軍の出場選手登録を抹消された。4月14日から体調不良で、16日にインフルエンザA型と診断されたためだ。同じく日本ハムの大谷翔平選手も4月インフルエンザB型を発症した。プロ野球で選手登録を抹消されると10日間は再登録できないというが、実際インフルエンザやその他のうつりやすい感染症にかかった場合、何日間仕事を休めばよいのだろうか。

藤浪選手や大谷選手が感染したインフルエンザは、冬季にはノロウイルス胃腸炎と並ぶごくありふれた感染症だ。例年、インフルエンザの流行期は3月までで、4月以降はぐっと減るのだが、今年は4月中旬になっても外来には患者が来ている。そして患者が一様に気にするのは「いつ治るのか」「仕事に行ってもいいか」ということだ。外来でも「朝38度の熱があったのだが、解熱剤で熱が下がったので出社したら、昼過ぎにだるくなってきた」「明日はどうしても休めない仕事がある」という声をよく耳にする。仕事熱心なのはいいことだが、感染症の場合、解熱剤で抑えて出社するようなことは決してやってはいけない。

休む意義は「療養」と「隔離」

患者が自宅で休むことの意義は大きく2つある。「療養」と「隔離」だ。

インフルエンザに限らず、病気から早く回復するにはゆっくり療養することが重要だ。いくら薬で症状が軽くなっても、体調は回復しにくいもの。抗インフルエンザウイルス薬は症状が出た後、48時間以内に使用すれば有効性があると言われるが、完全に症状がなくなるわけではない。人によっては微熱やだるさ、咳などの症状が続く。

さらにインフルエンザは飛沫感染といって、咳やくしゃみの際に口から出てくる小さな水滴(飛沫)によってうつる。家族や同僚など日常的に一緒にいる間柄では飛沫感染を防ぐことは難しく、無理を押して出勤すれば職場の人たちにうつす可能性がある。インフルエンザの場合、特別な隔離は必要ないが、他の人たちとの接触をなるべく避ける目的で、「休む」ことが重要なのだ。熱が下がっても、感染力が強い期間にむやみに外出してほしくないというのが医師としての本音だ。

だが、働いていれば、ずっと仕事を休むわけにもいかない。会社員であれば、藤浪投手のように10日間も登録抹消というわけにはいかないだろう。実際どのぐらいの期間、会社を休むべきなのだろうか?

片づけられた教室の机といす

明確なルールがなくても、周囲を感染させる可能性があるのは大人も子どもも同じ

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子どもの場合、欠席について明確なルールがある。学校保健安全法によって「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼稚園や保育園では解熱後3日)を経過するまで」は登校を控えるように、と定められている。抗ウイルス薬を使って早いタイミングで解熱していても、数日間は感染力があるので学校を休んだ方がいい。登校の再開する際には、医師による治癒証明書も必要だ。

一方、社会人の場合はこのような明確な法律はなく、治癒証明も必要ない。私は「周りの方にうつして職場が全滅したら意味がないですから、長期的に考えて休んだ方がよくないですか」と伝え、学校保健安全法に準じて感染力の強い数日間は休むように勧めているが、強制力はない。

インフルエンザでも有休扱い

実は感染症による欠勤については、職場によって考え方が異なり、患者の働く状況も違う。インフルエンザを病欠扱いしている会社もあれば、有給休暇扱いや欠勤扱いする会社もある。

この冬に来院した患者の中には「うちの会社はブラックなので、熱があってもインフルエンザでも休ませてくれません。上司は『俺はインフルエンザでも出社する』と宣言するような人で、あきれました。感染して職場全員がインフルエンザにかかって仕事がストップしても(上司は)理解しないと思います」 と、自嘲気味に語っていた人もいた。

ここまででなくても、同様のことを言う人は少なからずいる。症状が落ち着けば、家で休んでいるよりも仕事をしたいと思うのだろう。本人さえ休めば職場の他の人は感染しないのかと問われれば、必ずしもそうではない。しかし、同じ室内で一緒に働けば感染リスクが高まるのは当然のこと。共倒れになっては意味がないということを考えてほしい。

万が一、どうしても出社しなければならないというのであれば、周囲の人たちはなるべく患者本人と同室で過ごさない、こまめにうがいや手洗いをし、マスクを着用するなど、意識をする必要がある。以前、会社の決算期にインフルエンザを発症した人が、自分しか会計業務ができないため休めないと悩んでいた。会計の資料は持ち帰れないというので、その時は止むを得ず出社するなら、周囲に感染させないよう細心の注意を払うことをお願いした。

感染症を機に多様な働き方を

販売員や営業など多くの人に接触する業種では、職場以外の人にまで感染リスクを広げることになるので、出社は論外だ。だが、業務内容によっては、在宅勤務をすることも可能だ。もちろん熱がある間は安静にしてほしいが、熱が下がった後、家にいても手持ち無沙汰というなら、書類作成や電話会議への参加などはできるだろう。病気でも働け、というブラックな意味合いではなく、インフルエンザという誰でも感染する可能性のある病気をきっかけに、働き方の多様性を広げてみてはどうだろうか。

たくさんの人であふれる空港

冬が終わっても感染症の流行には注意が必要だ

Christopher Jue/Getty

これからの季節、インフルエンザは終息に向かうが、「夏かぜ」の代表であるアデノウイルスによる咽頭結膜炎が控えている。咽頭結膜熱も手指や飛沫を介して感染し、感染力が強いため、学校保健安全法で出席停止期間が定められている。社会人も基本的に休んでほしいが、無理であれば二次感染を予防するうがい・手洗い・マスクなどの対策を意識してほしい。

あわせて気をつけてもらいたいのが、麻しんだ。麻しんは空気感染によってうつる非常に感染力の強い病気だが、この3カ月で国内でも100人以上が発症している。麻しんが流行している東南アジアから帰国した人たちが発症し、感染が拡大したのだ。麻しんは子どもだけの病気ではない。予防はワクチン接種しかないが、30代以上では接種回数が足りていない。ゴールデンウィークに海外旅行が増えることを思うと、今後も国内での麻しんは続くだろう。発熱・発疹があって麻しんが疑われる状況では、どんな事情でも職場への出勤は避けなければならない。

いま、「働き方改革」の必要性が叫ばれている。インフルエンザなど感染力が強い病気にかかった時、さらなる感染予防のために休むことが正当に認められ、臨機応変に在宅勤務に切り替えられることなども「改革」の1つであろう。柔軟な働き方ができる環境であれば、社員の病気などにもより対応しやすく、結果的には職場のリスク管理にもつながる。


濱木珠恵:ナビタスクリニック新宿・院長。虎の門病院などで造血幹細胞移植の臨床研究に従事。都立府中病院などで血液疾患の治療に従事した後、2017年4月より現職。専門は内科、血液内科。

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