"Shibuya" が発信する未来のワークスタイル

イベント会場に集まる人たち

中西亮介

長時間労働、終身雇用、正社員主義……長く続いてきた日本の働き方を見直そうという機運が高まっている。硬直化した働き方では、イノベーションが生まれないということに皆、気づき始めているからだ。

2016年は「働き方改革元年」だったと言われる。電通の新入社員の過労自殺や政府の「働き方改革実現会議」の設立などがきっかけとなり、リモートワークや残業規制など改革の議論は高まった。そうした機運の中、多くのスタートアップが生まれる渋谷では、区内の企業や行政、NPO、市民らでつくる「SHIBUYA LIFE & CULTURE LAB」プロジェクトが中心となり、渋谷発の新しいワークスタイルを発信しようとする動きが始まっている。

4月22日、渋谷の「東京カルチャーカルチャー」で開かれたキックオフイベントには長谷部健・渋谷区長も参加。個人のワークスタイルの変革を追ってきたライフハッカー[日本版]の編集長・米田智彦と、週刊誌「AERA」で働き方についての特集を手がけてきたBUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長の浜田敬子が今後の日本に求められる働き方について議論した。冒頭、長谷部区長も飛び入り参加したセッションの一部を紹介する。


(以下、敬称略)

マインドセットを変えることが必要

米田:長谷部さんに聞きたいのですが、渋谷区ならではのワークスタイルってあるんですか?

長谷部:役所は今まで陳情やなど、受身の仕事ばかりしてきました。今後は区役所からアイデアをどんどん表に出して攻めていきたい。企業や区民など渋谷区を愛してくれるステークホルダーと連携する働き方が実現すればいいなと思っています。

マイクを手に話す長谷部渋谷区長

中西亮介

浜田:働き方改革に注目が集まっていますが、単なる働き方だけでなく、今、仕事って何だろう、働くって何だろうと、組織と自分のあり方の関係性を見直し始めている人が多い。人生が100年の時代になり、単にワークスタイルだけでなく、人生における仕事の意味を捉えなおす動きも出ています。

長谷部:環境問題も、90年代は酸性雨や排ガスなど汚染の問題に注目が集まっていたが、それが今、問題をどう解決するかという議論に行き着きました。結局、真の解決法は、個人がライフスタイルを変えていくことや、生活に対する意識を変えていくことなどマインドの変化が必要不可欠。この文脈で働き方やライフスタイルの見直しの潮流が来ていると考えています。(ここで長谷部区長が退場)

自分が自分を変えていく

米田:「ライフハッカー」ではパラレルキャリアやリモートワーク、多拠点居住などのテーマをずっと扱ってきました。去年から「働き方改革元年」と言われていますが、組織に属している個人も、会社に変えられる自分ではなくて、自分が自分を変えていくことが求められていくと思います。

浜田:自分が会社を変えていくことも重要だと思います。

米田:そうですね。3〜4年経ったらそういう時代が本当に来ますよ。そのためには、渋谷ですでに起こっているベンチャーなどの横のつながり、例えば、社外に人脈を持つとか、さまざまなプロジェクトに参加してみるなどが重要です。会社員をやりながらちょっと「外」に出てみる勇気がこれからの働き方に必要だと思います。

浜田:「AERA」でも働き方はもっとも大きいテーマの一つでした。最初は女性がキャリアを続けられるためには、長時間労働や男性中心主義を変えないと、という文脈で記事にしていました。ですが、働き方改革が必要だっていうムーブメントはなかなか起きませんでした。なぜ盛り上がってきたかというと、1つは電通の非常に不幸な事件。もう1つは日本が成長するための戦略とは、イノベーションを起こすにはという議論の中で、このままの日本型の働き方、雇用形態では成長もイノベーションも不可能だとようやくわかってきたんだと思います。今は大企業でも経営層が真剣に働き方について見直しを検討し始めています。

2つのCモードが生産性を向上させる

米田:でも、長時間労働抑止が単なる経営におけるコストカットになったら意味がないんですよ。

手を掲げながら話す浜田氏

中西亮介

浜田:個人的な話になりますが、私がこの3月末で朝日新聞を辞めてBUSINESS INSIDER JAPANに移ったのも、働き方改革の文脈でした。これまで、ずっと終わらない中距離走を走っている感じでした。自分が手がける記事では働き方改革の必要性は訴えていましたが、果たして自分は働き方を自分の意思で選べているのだろうか、と感じたのです。結局、転職して前より忙しくなったのですが(笑)、重要なのは自分の意思で自分の時間をコントロールできている実感があるかどうかが大事なのだと思います。ベストセラーの『ライフ・シフト』を読み、人生100年時代になり、私はこのまま同じ会社にいて定年後にどうするんだろう、何ができるんだろう、と考えたことも大きかったです。

米田:働きすぎている人ほど、定年後って予想できない。仕事を抜いたら何も自分には残ってなかった、という状況になってしまうからです。

浜田:BUSINESS INSIDER JAPANでは今週から「働き方シフト」という連載を始めました。1回目はフリーランス編。会社員を辞めて1年フリーランスをやったらその大変さがよくわかって、会社員に戻ったという企画を出したら、すごく読まれました。

米田:「サバティカル(長期休暇)」という言葉がありますが、会社員も1年ぐらいフリーランスをやってみるといいと思うんです。僕自身、フリーランスの時代が7、8年あって、そこで得た今の自分のスキルや知見があります。一度、会社を離れてみると、世の中の仕組みがいろいろとわかると思うんですよね。「俺ってこんなに会社に守られてたんだ」とか「俺ってこんなに会社の肩書きに頼っていたんだ」などと気づいたり。

浜田:私が転職したもう1つの理由は、通勤時間が無駄だなあと思っていたこと。今はバスで10分です。時間は大切。

マイクを手に持ち話す米田氏

中西亮介

米田:今の時代、お金より時間が大事。メディア業界は、人のお金じゃなくて可処分時間をいかに取り合うかの勝負になってきている。スマホなどのゲームも含め、可処分時間の取り合いが社会の産業のメインテーマになってきています。ライフハッカー編集部の取り組みでいうと、月に2回、在宅勤務などのリモートワークデーを設けています。僕もやっています。すごくいいですよ。月2回とは言わず、週1回やりたいぐらいです。働き方のポイントとして僕は2つの「Cモード」という概念を主張しています。「Communication(コミュニケーション)」と「Concentration(集中)」の2つのモードが生産性の向上につながると思っています。クリエイティブな仕事は、人と話をして創発的になるモードと、そこで出たアイデアを持ち帰って1人でよく考える孤独な時間と両方が必要。コワーキングスペースやシェアオフィスで異業種の人といろいろ話すのも脳が活性化されていいんですが、密室で企画書を書いたり、外部に邪魔されず、集中する時間もすごく重要です。

浜田:今多くの会社は社員の時間を奪っていることに対して無自覚ですよね。社会もそれに対して無頓着だし無意識。入社した人の時間は会社のものだって考える人が多いから長時間労働になるし、不必要な業務も生まれる。働き方改革で重要なことは、多様なワークスタイルを尊重することだと思います。このことに気づき始めた企業と、そうでない企業の二極分化が起きています。

すでに何か始まっている

米田:新しい血をどんどん入れられる企業というのは、変化に対応できるし、成長していけるのです。企業はもはや1つのプロダクトを作っているだけじゃやっていけない。業態変化が必ず必要で、それをするためには外部の血を入れ続けなければならない。アイデアを持っている人を招聘して、そこでケミストリーを起こさせるっていうことをやらないと、これからの時代、会社は生き残っていけない。オープンイノベーションも簡単ではない。組織の人と外部の人を交わらせるファシリテーターのような人が今後必要になってきます。

司会:最後に渋谷に対するメッセージをいただければ。

米田:僕自身、ベルリンやポートランド、アムステルダムなど世界のクリエイティブな都市に行くことが多いのですが、「東京」じゃなくて「渋谷」のブランドを2020年に向けて作っていけたらいいと考えているし、渋谷の価値をリブランディングすることが必要だと思っています。「全国初」、といったことを渋谷にはどんどんやっていって欲しい。渋谷のモデルケースが全国に広がっていく。そういう街になったらいいかなと思っています。

浜田:このイベントをやっている時点で、すでに何かが始まっていると思います。ライフハッカーもBUSINESS INSIDER JAPANも渋谷にあるメディアとして、トライしてもがいている人たち、何か新しいことをしている人たちを応援していきます。


長谷部・渋谷区長は渋谷をどんな街にしていきたいのか。イベント前に聞いた。

目指しているのは「成熟した国際都市」。ロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷、という認知の獲得を目指している。東京の中で考えるとやはり渋谷はカルチャーの発信地という位置付け。行政の役割は規制緩和や場作りなど、企業や人が新しいものを生み出しやすい環境づくりをしていくことだと思っている。一方で、「働き方」などの社会課題については、行政だけで解決する課題ではない。待機児童問題も働き方とセットでやらなきゃいけない。各企業が育児休暇を2年間ぐらい認めれば、一番多い0〜1歳児の待機児童がゼロになる。なぜ渋谷区が働き方改革を発信するのか、と言われたら、こうした社会課題に対してディフェンシブでなく、積極的に取り組んでいきたいということ。加えて、行政プロセスにクリエイティビティやテクノロジーを取り込んでいけば、新しいステージにいける。この2つは民間の方が得意。そういうメソッドを取り入れていけば、少しずつ変わっていく。渋谷が変われば東京、ひいては日本も変わると思っている。

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