続発するテロは有志連合の攻撃への報復か

4月のロンドンのテロ現場に手向けられる花束

3月に入りテロが頻発する欧州。その背景には何があるのか(4月10日、ロンドン)

Chris Jackson/Getty

パリ中心部のシャンゼリゼ通りで4月20日夜、警官1人が死亡、2人が負傷する銃撃事件があった。発砲した男は警察に射殺された。過激派組織「イスラム国」(IS)系のアアマク(AMAQ)通信が「IS戦士の一人」とする声明を出した。

欧州では3月以降、ISまたはイスラム過激派によるものと見られるテロが続いている。 3月18日、フランスのオルリー空港で拳銃を持った男が、警戒中の治安部隊の女性兵士の自動小銃を奪おうとして別の兵士に射殺された。男は「俺はアッラー(神)のために死ぬつもりだ」と叫んだという。3月22日にはロンドンの国会議事堂近くで車を暴走させて通行人をはね、国会議事堂へ侵入しようとした男によって、警官や通行人ら4人が死亡、約50人が負傷した。アアマク通信から「実行犯はISの兵士である。彼は有志連合国家の国民を狙えという呼びかけに呼応して作戦を実行した」という声明が出た。

4月3日にはスウェーデンのストックホルムのショッピング街でトラックが暴走し、4人が死亡、15人が負傷した。犯人は逃走し、事件後ISに思想的に共鳴しているウズベキスタン人の男が逮捕された。4月11日にはドイツのドルトムントでサッカーチーム「ドルトムント」の選手らが乗ったバス近くで3回の爆発があり、選手1人が負傷。事件後、ISと関係が疑われるイラク人が拘束された。

欧州だけで1カ月ほどの間に5件のテロが起きている。2件からIS系通信社の〝犯行声明〟が出て、他の2件ではISとの関係が疑われる逮捕者が出た。5件のうち2件は車を暴走させるというテロである。

攻撃手段についても指南

これらのテロ事件にはISの影がちらついている。ロンドンのテロの犯行声明を見ると、ISがテロを指令したというよりも、欧州のイスラム教徒が、ISがインターネットで流したテロの呼びかけに応じたと読める。実際にISは自動車を使ったテロを呼びかけたことがある。

2014年9月、アメリカ率いる有志連合がISへの空爆を始めた後、IS報道官のアドナニ氏が欧米のイスラム教徒に対して声明を出した。

「ISに敵対する有志連合に加入した国々の市民を含む不信仰者どもを、民間人だろうが軍人だろうが殺害せよ」と呼びかけ、攻撃の手段については、「もし爆発物も銃弾も見つけることができなければ、アメリカ人やフランス人、さらにそれらの連合国の市民を選び出し、岩でその頭を砕け。ナイフでその喉を切れ。車でひき殺せ。高いところから突き落とせ。もしくは毒を盛れ。方法は何でもある」とした。

「車でひき殺す」テロは、16年7月にフランス南部のリゾート都市ニースでトラックが花火見物の群衆に突っ込んで暴走し、84人の市民を殺害したテロ事件を思い起こさせる。

なぜ3月以降、欧州でテロが続発しているのか。そのヒントもアドナニ氏の同じ声明の中にある。声明には次のようなくだりがある。

「信仰者たちよ。十字軍の軍隊が市民も戦士も区別せずに、イスラム教徒の土地を空爆している。3日前にはシリアからイラクに運航するバスを空爆して、9人のイスラム教徒の女性を殺害した。あなたたちは、アメリカ人やフランス人、さらに他の有志連合による空爆が昼夜なく続き、イスラム教徒の女性や子どもたちが十字軍の爆撃機の轟音を恐れて震えている時に、その不信仰者な国民を家で安全に眠らせておくのか? 」

つまり、有志連合の空爆に対する報復を求めているのである。

空爆で亡くなった子どもたちの写真を掲載したアラビア語ニュースサイト「ラッカポスト」

「有志連合による空爆で家族全員が死んだ」という見出しで、子どもたちの写真が掲載された

アラビア語ニュースサイト「ラッカポスト」より

今年に入って、米軍が率いる有志連合によるシリアのIS支配地域への空爆で、民間人の死者が急増している。内戦による民間人の死者を集計している人権組織「シリア人権ネットワーク(SNHR)」によると、3月の民間人の死者総数1134人のうち、アサド政権軍の攻撃による死者は417人(37%)、ロシア軍空爆による224人(20%)に対して、有志連合の空爆による死者は260人(23%)と、有志連合がロシア軍による死者を上回り、民間人の死者の4分の1近くを占めている。ちなみにISによる死者119人(10%)の2倍である。 SNHR が集計した16年1年間の民間人死者のうち、米軍・有志連合によるものは3%だった。有志連合の空爆による民間人の死者の増加は今年1月から始まり、初めてロシア軍による死者数を上回った。

有志連合による「虐殺」

かつて欧州諸国はロシアの空爆の非人道性を非難したが、いまでは欧米がそれを上回る市民の犠牲を出している。民間人の死者が急激に増える背景には、米軍がシリアのクルド人勢力を空爆で支援し、ISのシリア側の都ラッカへの掃討作戦を激化させていることがある。さらに「テロとの戦いの強化」を掲げるトランプ大統領の就任を受けて、米軍がISに打撃を与えるために、民間人の巻き添えを軽視する傾向が出ていると考えざるをえない。

その結果、SNHRや別の市民組織「シリア人権監視団(SOHR)」の英語、アラビア語のインターネットサイトには、「有志連合による虐殺」という見出しのニュースが繰り返し出ている。

3月16日にはシリア北部イドリブ県にあるアルカイダ系イスラム武装組織「シリア征服戦線(前・ヌスラ戦線)」の支配地域でモスクが爆撃され、SOHRの発表では、中にいた42人が死亡した。この時の現場での救出活動の様子が、インターネット動画サイトYou Tubeを通じて世界中に流されている。

3月30日のラッカ郊外のマンスール地区に対する有志連合の空爆では、ファルグ家の母親と3歳から7歳までの4人の子どもが死んだ。SNHRは死んだ長女マリヤちゃん(7)の写真を掲載。このニュースは反体制地域の多くのアラビア語のニュースサイトで流れ、中には4人の子どもの写真を掲載して、「有志連合の空爆で一家全滅」という見出しの記事を掲載したサイトもあった。

欧米では有志連合のIS掃討作戦で民間人の死者が急増していることは記事にもならない。しかし、欧州に住むアラブ系イスラム教徒の中にはこうしたアラビア語のニュースサイトなどで現地の状況を知り、日々欧米による民間人の「虐殺」に怒りを募らせる人間がいてもおかしくない。アドナニ氏は昨年8月、有志連合による空爆で死んだ。しかし、「信仰者たちよ。十字軍の軍隊が市民も戦士も区別せずに、イスラム教徒の土地を空爆している」として報復を求める彼のメッセージはインターネット上に残っている。

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