歴史学者のルトガー・ブレグマン
Flickr/Maand van de Geschiedenis
全ての国民に、最低限の生活を送るのに必要な現金を支給する「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」をテーマにしたスピーチが、今年のTEDカンファレンスで大喝采を浴びた。
オランダ人歴史学者で、UBI支持者のルトガー・ブレグマン(Rutger Bregman)は、「貧者はなぜ貧しい決断をしてしまうのか」という極めて重要な問いをテーマにスピーチを行った。
「貧困は人格的な欠陥が原因ではない」ブレグマンはそう説明する。「貧困層は不健康な食事をし、貯蓄が少なく、薬物をより頻繁に使用する傾向にある。なぜなら、基本的な欲求が満たされていないからだ」
UBIのシステムをつくることは、これらの欲求を満たすのに一番手っ取り早くて簡単な方法であるとブレグマンは述べる。
「貧困は人格の欠陥によるものではありません。貧困は現金の欠如によるものなのです」
1000人を超える観客が立ち上がって拍手を行う前に、彼はそう語った。ブレグマンに捧げられたスタンディング・オベーションは、特にアメリカのテクノロジストの間でUBIが注目を集めていることを示唆している。
シリコンバレーでは、人間の労働力に置き換わる自律型ロボットの開発が進んでいる。しかしこうしたイノベーションが大規模な失業を生む可能性があると経済学者が指摘し始めると、テック界のエリートたちは、自らが作り出そうとしている問題に対する解決策を探し始めた。テスラのCEOイーロン・マスクやYコンビネータ(Y Combinator)の社長サム・オルトマン、そしてFacebookの共同創設者クリス・ヒューズ(Chris Hughes)は、いずれもUBIの支持者だ(オルトマンとYコンビネータは、カリフォルニア州オークランドでベーシックインカムの社会実験を進めている)。
投資家のクリス・サッカ(Chris Sacca)はTwitterで、ブレグマンのスピーチは「極めて挑戦的かつ啓発的だった」と述べた。
ここ数年間で関心が高まってきたUBIの始まりは1960年代後半だった。最初はミルトン・フリードマンが提唱したニッチな経済理論だったが、ベーシックインカムの社会実験が世界中で実施されるようになり、広く認知されてきた。現在はフィンランド、ケニア、カリフォルニア州オークランドなどでUBIの実験が行われており、今年の後半にはオランダとカナダで新たな試みがスタートする予定だ。ブレグマンによると、すでに手段や研究結果、ニーズはそろっていて、あとは実行に移すのみだという。
彼のスピーチに対する反応から判断すると、TEDの観客は大いに同意しているようだ。
(敬称略)
source:Twitter、The Borgen Project、ニューヨーク・タイムズ、ロイター
[原文:Basic income just got a standing ovation at TED]
(翻訳:Wizr)