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以前住んでいた故郷や支援したい自治体に寄付でき、税の寄付控除も受けられる制度として2008年に導入されたふるさと納税が、いま曲がり角を迎えている。税の寄付控除や返礼品を求め、居住している自治体以外の市区町村に寄付をする動きが加速し、東京23区では本来得られるはずの税収が激減しているのだ。特に税収減の幅が大きい自治体は、強い危機感を抱き、対策に乗り出している。
100億円減も予想する世田谷区
出典:総務省
総務省の調査結果によると、2015年度、ふるさと納税によって寄付された総額は、受入額ベースで1653億円。388億円だった前年から約4.3倍に跳ね上がった。導入当初の2008年度が81億円だったことと比べると、驚くべきほど規模が拡大している。この上昇トレンドに大きな影響を与えた理由の1つが、2011年3月の東日本大震災だと言われている。さらに、2015年から税の控除額が2倍となり、メディアの報道や情報サイトが相次いで取り上げ、総務省がポータルサイトを立ち上げるなど、ふるさと納税への周知が高まったことも影響している。
しかし、水面下では、都市部からの税の流出が起きていた。雑誌『中央公論』を引用した読売新聞の報道によると2015年度、ふるさと納税による税収の流出の幅が1番大きかったのは横浜市で、額は28億798万円。次いで名古屋市が17億8701億円と2位。だが、東京23区以外の自治体では減収分の75%が地方交付税によって補填されるので、横浜市と名古屋市は一定の収入は確保されるのだ。
問題は、地方交付税の不交付団体である東京23区だ。特に減収幅が大きかったのが3位の世田谷区だ。世田谷区は2016年度、税収を含む一般会計予算約3000億円のうち、ふるさと納税による税収減は16億円を見込んでいる。さらに2017年度にはふるさと納税に絡む税収減が約1.8倍の30億円にも上ると推計している。保坂展人・世田谷区長はBUSINESS INSIDER JAPANの取材に「30億円というと、学校が1校建設あるいは改築できる規模だ。100億円に向かって膨張するという危機感がある」と話した。世田谷区は歳入を増やすための対策として、児童養護施設や高齢者の福祉施設など7つの基金から税の使い道を選択できる寄付制度の認知拡大を図っているが、効果のほどは未知数だ。
「このままだとかなりまずい状況」
23区では、港区も税収減が2桁の大台に乗った。2016年度、港区の一般会計予算は1200億円で、税収減は15億4000万円。前年の2億8400万円から5倍以上になった。港区の担当者も保坂世田谷区長と同様に「このまま流出が続くことには危機意識を持っている。しかし、個別に返礼品を用意するなどといったことは予定していない。代わりに何らかの対策を検討している」と話した。同区によると、2017年度のふるさと納税による税収減は約1.5倍の23億円に上ると見込んでいるという。
作成:中西亮介
BUSINESS INSIDER JAPANでまとめた23区の税収への影響がこのグラフだ。3位の江東区は2016年度、一般会計1886億円のうち、7億5000万円ほどの税収が減少した。前年は9736万9000円なので、7.7倍に急増したことになる。江東区の担当者は「現時点では対策はしていない。特別区の他の自治体の動向をみて今後の対応を考えていく」と述べた。
ふるさと納税に詳しい自治体ジャーナリストの葉上太郎氏は、「2016年度までの推移を見ると、ふるさと納税による23区からの税流出が増えていくのは間違いない。住民は返礼品を求めてふるさと納税の制度を使っているのだろう。現に、ある自治体には『ふるさと納税したら何をもらえるのか』という電話での問い合わせがあったという。このまま進むと(23区の税収減は)かなりまずい状況だ。しかし、災害支援など、純粋な思いでふるさと納税をしている実例もあり、制度の是非については単純に割り切れないのが実情だ」と指摘する。
こうした中、23区の区長から成る特別区長会は3月、ふるさと納税による税収減を受け、総務大臣宛に返礼品競争に制限を設けるべきという内容を含んだ要望書を提出した。4月1日には、総務省が各自治体に返礼品の価格を3割以下にすることなどを盛り込んだ通知を出した。
ふるさと納税の本来の趣旨 は、納税者が税の使われ方に自覚的になること、応援したい自治体を選べること、自治体が取り組みを国民にアピールできること —— などだ。本来の税の意味に乗っ取った仕組みづくりの試行錯誤はまだこれからも続く。さらに納税者1人ひとりも、ふるさと納税について改めて考える時期に来ているのではないだろうか。