タワマンで保活超激戦区になった武蔵小杉——子育て世代急増の軋み

武蔵小杉のタワマンの夜景

タワマンが林立する武蔵小杉。夜見るとそこだけ摩天楼のようだ

高橋浩祐

タワーマンションの建設ラッシュで人口が急増する武蔵小杉。その周辺地域に住む若い子育て世代は、子どもを保育施設に預けるための過酷な「保活」に見舞われている。

川崎市中原区在住の主婦(32)は夫の海外駐在が終わり、昨年1月に武蔵小杉駅周辺のマンションに引っ越してきた。4歳と2歳とゼロ歳の3児を子育て中だ。

帰国当時は、子どもを保育園に入れて仕事に復帰したいと思った。しかし、いったん退職して働いていないという保活に不利な状況に加え、武蔵小杉という「保活激戦区」の現実を前に復職を断念、仕事への復帰はならなかった。

「区役所の担当者には、私の条件ではまず保育園は難しいとはっきり言われました。積極的に保活をしていない人の中には、武蔵小杉では保育園には入れないと最初から諦めている方も少なからずいると思います」

現在は4歳の子どもを東急東横線武蔵小杉駅から徒歩7分ほどの私立幼稚園に通わせている。

「たまたま幼稚園の定員に空きがあり、すぐ入れました。すごくラッキーでした。今後は仕事に復帰したいので、願わくば3人とも保育園に入れたい。条件はかなり厳しいとは思っていますけれども……」

900人が希望園に入れず

都市部の自治体で深刻化する待機児童問題だが、タワマンの建設ラッシュが続く武蔵小杉ではさらに深刻だ。

川崎市中原区内での認可保育園の対象となる0歳から5歳の人口は1万4825人(昨年10月1日現在)。武蔵小杉駅周辺の再開発事業で高層マンションができ始めた10年前の1万2202人と比べ、2600人余りも増えた。

4歳児と9カ月の子どもを武蔵小杉周辺の認可保育園に通わせている別の主婦(32)も、「上の子がすでに通っていたので、なんとか下の子も同じ認可保育園に入園できた。でも、一次募集と二次募集を通じても、両親ともフルタイム勤務でも入園できない人も多い」と話す。

市も子どもの増加に対応するため、2010年に32カ所(定員2870人)だった認可保育園を今年4月1日現在で、69カ所(同5380人)にほぼ倍増させている。

武蔵小杉のグランツリーでベビーカーを押すママたち

タワマン購入者の中には子育て世代も多い。商業施設もファミリー向けが目立つ

高橋浩祐

しかし、まだまだだ。中原区児童家庭課によると、今年度の認可保育園への申請者2500人に対し、入園ができたのは1600人。900人は希望する認可保育園に入れず、認可外保育園への入園や育休延長、仕事の退職などを余儀なくされている。

国内最高層マンションとなる地上59階建ての「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」3階に09年に開園した「ベネッセ武蔵小杉保育園」には申込者が殺到している。子ども数の増加のほか、駅チカの利便性が高い場所にあり、保育内容も人気だからだ。今年度はゼロ歳児が申込者217人のうち内定者は6人、1歳児は194人中5人と超激戦だった。

「待機児童ゼロ」対策も間に合わない

川崎市の待機児童数は11年に851人に達したものの、15年4月に待機児童ゼロを達成した。昨年4月時点の待機児童数も6人にとどまった。対策として、川崎市は認可園の受け入れ枠の拡大のほか、13年10月からは認可外保育所のうち、市が指定する「認定保育園」に子どもを預けている親に対し、月額5000円を支給する制度を開始した。さらに14年4月からは3歳未満の子どもを認定保育園に預けた場合は補助を最大2万円に拡充した。

待機児童解消を公約の一つに掲げてきた福田紀彦・川崎市長は14年11月、神奈川新聞の取材に対し、「認定保育園の保育料補助が間違いなく効いている。最初から認定園に申し込む方が増えている」と述べている。

しかし、実際には、特定の保育所のみを希望していたり、保育園に預けられずに親が育休を延長したり、子どもを預けられずに求職活動ができなかったりする、いわゆる「隠れ待機児童」は16年4月時点で2547人もいた。

小田理恵子・川崎市議は「公に発表されている待機児童の数はいろいろな条件で除外している人がいて、本当に公的保育サービスを必要としている人をとらえていないという側面もある。川崎市で真の待機児童ゼロを目指すのであれば、単純計算で言うと今の倍近くの保育所の整備が必要ではないか」と話す。

武蔵小杉のタワマンはファミリー向けのものが多い。一時的に、しかも特定の世代が急増する地域にとって、保育園や学校の設備は急務になっている。

児童は400人から1000人に

武蔵小杉周辺の小学校の生徒数も急増している。新たな小学校を19年4月に開校するほか、既存の小学校ではこれまでプレハブ校舎を設け、本校舎の増改築で必死に生徒増に対応してきた。

小学校が建てられる予定の用地

急増する児童に対応するために小学校も建設される

高橋浩祐

JR武蔵小杉駅北東にある川崎市立上丸子小学校では、02年に約400人だった児童数は倍増し、約800人に及ぶ。少子化とは逆行するような光景だ。同校の岩間章校長は「タワマンに住む子どもたちが増えてきた。校舎の継ぎ足しで対応したり、10年リースのプレハブ校舎を設置したりして対応してきた」と話す。 15年4月にはやっとモダンな新校舎が完成。同校の生徒数は22年には1000人超に達し、その後は減少に向かっていくという。

同じく武蔵小杉周辺の高層マンションの子どもたちが通う、小杉駅南東の川崎市立下沼部小学校の児童数は、04年の188人から885人に増えた。同校もまた、プレハブ校舎に加えて、既存の校舎の増築で懸命に対応してきた。同校の押田春美教頭は、「全児童の6割以上が、高層マンションのある再開発地域から通ってきている。この4月に入学した新入生189人では半分以上になります」と話す。同校も児童数のピークは21年。1110人に達し、その後は減少する見込みだ。

このほかにも小杉のタワマンを学区におさめる川崎市立今井小学校の児童数も04年に初めて700人を超え、今では900人を超える。22年には1031人に達する見通しだ。タワマン建設など再開発が進むJR武蔵小杉駅北口の日本医科大学新丸子キャンパス跡地には、19年4月に5階建ての新たな学校が開校する。現在はキャンパスの校舎がすでに壊され、用地の整備が始まった。

川崎市中原区内での小学校の児童数は16年5月1日現在で1万2341人で、過去10年間で1766人増えた。しかし、上丸子小学校や下沼部小学校のように、タワマンの建設ラッシュが終わった後にはピークアウトする可能性が高い。

同じ川崎市の幸区では、1970年以降、東京製綱川崎工場跡地の約13万9000平方メートルの敷地内に、県営住宅6棟、市営住宅4棟、分譲住宅3棟に及ぶ大規模な河原町団地が建てられた。団地内には、77年に児童数1906人を記録し、地元ではマンモス校として名をはせた河原町小学校があった。しかし、団地住民の高齢化で新入生徒は次第に減少。06年3月にはついに閉校した。

街の人口構成の急激な変化は、そこに必要な公共施設やインフラにも多大な影響を及ぼす。将来、小杉のタワマン住民にも迫り来る高齢化や人口減への備えなど、急激な人口増加や施設拡張の反動を懸念せずにはいられない。

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