不正、失速……韓国財閥経済は民主化するのか

「女ラスプーチン」と言われた崔順実(チェ・スンシル)被告から始まり、韓国政財界を巻き込み、ついには朴槿恵(パク・クネ)前大統領の起訴まで発展した大スキャンダル。サムスンやロッテという韓国経済の屋台骨である財閥のトップまで司直の手は伸びた。

5月9日には大統領選も控える中、果たしてスキャンダルは韓国経済にどのような影響を与えるのか。

朴前大統領の疑惑が表面化したのは昨年10月。大統領の演説草稿や閣議の発言などに関するファイルが民間人である崔被告に秘密裏に届けられ、朴前大統領はその指南を受けていたことが発覚した。崔被告は大統領府の政策調整首席秘書官と共謀し、全国経済人連合会(全経連、日本の経団連に当たる)主導で韓国ロッテグループやSK、ポスコなど62社から2つの財団に計約774億ウォン(約70億円)の寄付を強要した疑いが浮上。崔被告や秘書官は逮捕された。

ずらりと並んだ財閥関係者

公聴会には韓国8大グループのトップが揃い、証言した(2016年12月6日撮影)

Pool/Getty

12月6日、国会に韓国を代表する経済人がずらりと並んだ映像は衝撃だった。サムスングループの事実上のトップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長をはじめ、韓国ロッテの重光昭夫(辛東彬=シン・ドンビン)会長、通信大手SKの崔泰源(チェ・テウォン)会長、現代自動車の鄭夢九(チョン・モング)会長など8人が呼ばれた。 サムスンの李副会長は2財団に対する寄付について、「見返りを期待してのものではなかった。依頼は各方面から来る」と釈明したが、2月に逮捕、起訴された。続いてロッテの重光会長も4月、起訴された。

財閥トップの罪は穏便に済まされてきた

「韓国の財閥トップは罪を犯しても国の経済を支えているからということで、穏便に済まされてきた。仮に有罪判決を受けても恩赦されることが少なくない」(韓国の経済記者)

李副会長の父、李健煕(イ・ゴンヒ)会長は全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)両元大統領への贈賄事件で検察に召喚されたが、執行猶予で赦免。

ほかにも財閥第3位のSKグループ、崔泰源(チェ・テウォン)会長は背任・横領罪で懲役4年の判決を受け、財閥10位のハンファグループの金玄中(キム・ヒョンジュン)前副会長は背任・横領で懲役4年、同グループの洪銅玉(ホン・ドンオク)麗川NCC会長も懲役4年など有罪判決を下されているが、いずれも後に恩赦特赦を受けている。

デモに参加するたくさんの人たち

朴大統領(当時)の辞任を求め、たくさんの人々がロウソクとプラカードを手に連日デモを行った(2016年11月12日撮影)

Jean Chung/Getty

サムスンの李副会長もソウル地裁は当初、証拠不足などを理由に逮捕状の請求を棄却した。ところが状況が一変したのは、その後の世論によってだ。

韓国国内から朴前大統領に対する不満が噴出し、ソウル大学の教授やソウル弁護士会の会長までがソウル裁判所の前で座り込みで抗議。「ロウソクデモ」に参加した市民は32万人にものぼる。市民の間にもともとあった、財閥一族との格差や不平等感への怒りが膨らんで行った。

市民の怒りを感じ取った検察はようやく動きだし、特別検察官は、朴商鎮(パク・サンジン)サムスン電子社長がドイツで崔氏に会った後に作成したメモを発見。証拠隠滅の疑いがあるとして、ソウル地方裁判所も逮捕状を受理した。

「財閥トップの犯罪は政経癒着の構図の中で、これまでは寛大な処置がとられてきたが、今回は世論の風当たりが強く、執行猶予や恩赦はしにくいのではないか」(検察の事情に詳しい韓国の弁護士)

ベトナム戦争で急成長した財閥

韓国の財閥が急速に成長したのは朝鮮戦争直後だ。朝鮮戦争で壊滅的打撃を受け最貧国となっていた韓国経済を立て直すために、朴前大統領の父、朴正煕元大統領がベトナム戦争に参戦。1965年から72年にかけて、韓国では「ベトナム行きのバスに乗り遅れるな」をスローガンに、官民挙げてのベトナム特需に群がり、三星(現サムスン)、現代自動車や現代重工のルーツである現代(ヒュンダイ)、海運会社の韓進海運(ハンジン・シッピング、すでに倒産)、大韓航空などを傘下に持つ陸韓進(ハンジン)、大宇(デウ)などの財閥が誕生した。

日本との国交正常化に伴い、当時の佐藤栄作総理大臣との間で日韓基本条約を締結、日本からの経済支援や技術支援を受けた。この支援をインフラ整備や財閥育成に注ぎこみ、輸出産業の育成を図っていった。

「財閥のほとんどは、朝鮮戦争後に急成長している。国を豊かにするために財閥が働くという考え方の元に、外貨や資源などを優先的に回して、経済全体を底上げしようとしてきた」(韓国の月刊誌記者)

日韓基本条約の支援金で設立された浦項総合製鉄(現在のポスコ)は新日本製鉄が技術供与をして成長。日本で誕生したロッテも朴元大統領の要請で韓国に本格的に進出し、国営の半島ホテルの跡地を払下げ、ホテルを建設した。

こうした朴元大統領の政策は短期間で韓国経済を復興させ、成長へと導いたことから「漢江の奇跡」と呼ばれ、高い評価を得た。

朴元大統領に限らない。韓国の政権と財閥は表裏一体で切っても切れない関係が続いてきた。

しかし、財閥を中心とした韓国の経済成長は今、息切れを起こしている。

政経癒着の解消など夢のまた夢

朴槿恵前大統領の前の李明博政権の経済回復の核心は「韓国747」計画。毎年平均7%の経済成長、1人当たり4万ドルの国民所得、そして韓国を世界7大経済大国にするというものだった。財閥と協調路線をとりながら経済成長を進める独自の経済政策を展開、財閥を従え海外にトップ営業することで2010年には6.5%の経済成長を実現した。

しかし、韓国の経済記者はこうした見方に懐疑的だ。

「李明博政権での資源外交では相当な損害が出ている。海外でMOU(行政機関等の組織間の合意事項を記した文書)を締結し、派手にやっていたが、中身がない」(韓国の経済記者)

その後2~3%程度に経済成長は落ち込み、韓国社会では貧富の差が拡大した。

そんな中で誕生したのが、「経済民主化」を主張した朴槿恵政権だった。「経済革新3カ年計画」を発表、潜在成長率4%台、雇用率70%、国民所得4万ドルの達成を目指す「474ビジョン」を掲げた。

ところが家計の負債は急増し、若者失業率は史上最悪を記録、「ヘル朝鮮」(地獄のような韓国)などの造語が生まれた。韓国統計庁と韓国銀行(中央銀行)などによると、朴政権の約4年間の年平均成長率は2.9%で、1993年の文民政権発足後、歴代政府の中で最も低かった。

「どんな政権でも財閥なしに政権を維持することはできない。政経癒着の解消など夢のまた夢だ」(同)

誰が大統領になっても

財閥自身も次々に失速し始めている。

2000年まで総資産で韓国トップだった現代グループは後継者問題で窮地に追い込まれた。現代グループの創始者、鄭周永(チョン・ジュヨン)氏の5男の鄭夢憲(チョン・モンホン)氏が後継指名されたことでグループに軋轢が生まれ、次男の鄭夢九(チョン・モング)氏が「王子の乱」とよばれる後継者争いに負け、現代自動車を率いてグループから離脱。6男の鄭夢準(チョン・モンジュン)氏も現代重工を率いて離脱。残された鄭夢憲氏は北朝鮮事業の失敗が、03年2月には5億ドルの対北朝鮮秘密支援が明らかになり、特別検事による捜査が行われる中、自殺してしまった。

青瓦台

次期大統領の手腕が問われそうだ。写真は韓国の大統領官邸「青瓦台」(2013年3月撮影)

Calvin Chan / Shutterstock.com

その後独立した現代自動車は大宇自動車と合併、世界5位の座を維持してきたが、燃費誇大表示で課徴金や集団訴訟で業績が悪化。16年度には韓国国内で販売台数が激減。17年には「シータ2エンジン」の欠陥が見つかり、韓国国内でリコールに発展している。

韓国で資産規模最大のKB国民銀行はカザフスタンの中期的な投資で1兆ウォン(約1000億円)の損失を計上、韓国最大の海運会社である韓進海運は17年2月17日破産宣告を受けている。

今回トップが刑事告訴されたサムソンは、ギャラクシーノート7の爆発でリコールしなければならない。ロッテも手抜き工事でロッテ建設が窮地に追い込まれ、ロッテマートは中国で1兆ウォン以上の損失を計上している。

ここまで綻びが露わになっても、これまで財閥頼みだった韓国経済にとって、財閥抜きの経済政策を再構築することは不可能だろう。

部品や素材産業を育ててこなかった韓国の産業界は、少なからず日本の部品や素材産業に依存している。そのため日韓通貨スワップ(通貨下落などの緊急時にドルなどを融通しあう日韓間の通貨交換)協定の締結が重要だが、反日運動の高揚でそれが難しくなった。

5月9日に控えている大統領選挙は「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補と「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)候補の一騎打ちだとみられている。最大野党「共に民主党」の文氏は朴前大統領を罷免に追い込んだ立役者。「これまでは成長の恩恵が財閥や富裕層だけに向かっていた。中小企業や国民に均等に配分される成長が『国民成長』だ」と主張し、財閥には極めて厳しい政権となる。 一方、野党第2党「国民の党」の安氏は医師出身。その後、コンピューターウイルス対策ソフトを開発し、ITベンチャーで成功、「韓国のビル・ゲイツ」と呼ばれる。

どちらが当選するにせよ、韓国経済のかじ取りはさらに難しくなると見られている。


松崎 隆司:経済誌の記者、経済専門誌の編集長などを経て独立。日経ビジネス、週刊エコノミスト、経営塾、中央公論、フジサンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイ、夕刊フジなどで執筆。

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