私の役割は男性リーダーにダイバーシティを「体感」してもらい、背中を押すこと

日本企業のダイバーシティについて語る佐々木かをり氏

「ダイバーシティは体感することが必要」

今村拓馬

今や「女性活躍」や「ダイバーシティ」という言葉を聞かない日はないが、イー・ウーマン代表の佐々木かをりさんはすでに25年ほど前から、日本で女性たちが働き続けるためには女性同士のネットワークが必要と、毎年「国際女性ビジネス会議」を開いてきた。特にこの数年は、経営者など男性リーダーたちの意識改革にも力を入れる。その狙いを統括編集長の浜田敬子が聞いた。

浜田 「国際女性ビジネス会議」には各界の女性リーダーだけでなく、男性経営者によるセッションもあります。今年はどんな方が参加されるのですか。

佐々木 カルビーの松本晃会長兼CEO、阪急阪神百貨店の荒木直也社長、メットライフ生命保険の会長社長最高経営責任者のサシン・N・シャーさんなどです。政治家では小泉進次郎さんなども。経済界や政治家などの男性リーダーを積極的に呼ぶようになったのは、ここ7年くらい。以前は元首相から「参加したい」という電話がかかってきても、断ってしまったことがあるほど(笑)。今はぜひ男性の政治家にも来ていただきたい。この会議の空気を体感してもらって、政策を作る時に「こんなことがあったな」と思ってほしいのです。

推進室を作ったゴーン氏

浜田 男性リーダーは「体感」すると変わりますか?

佐々木 男女共に、頭で理解することに加え、体感が必要だと考えています。第7回にカルロス・ゴーンさん(日産自動車会長)が参加してくださったんです。たくさんの日本人女性の前で話す講演は、おそらくその時が初めて。「忙しいから30分だけ」という約束でしたが、大会場で講演した後、彼が「質問ある人?」って会場に向かって聞いたんです。すると、たくさん手が上がった。質問者全員がネイティブスピーカーのような流暢な英語で国際会計基準や組織論についてなどの質問を次々に浴びせたんです。ゴーンさんは私の隣の席に戻ってくるや、「かをり、僕帰らなくてもいい?」と。最後は会場を練り歩いて参加者と名刺交換して帰られました。翌日も電話が来て「すごく良かった」と。それから10カ月後に日産にダイバーシティ推進室ができたのです。

浜田 まさに「体感」が変えたんですね。

小泉進次郎氏と佐々木かをり代表の対談風景

国際ビジネス女性会議には男性経営者や政治家も登壇する

イー・ウーマン提供

佐々木 私はその時の体験でダイバーシティを推進するには、男性のリーダーの「国際女性ビジネス会議」への参加が大きな意味があることを痛感しました。ダイバーシティを推進しているリーダーや、すでに必要性を感じているけれど「あと一歩」という方に、1000人を超える意識の高い働く女性たちが集まるこの会議で、実力や可能性を見ていただき、ダイバーシティを話題にする機会を増やすこと。これが政治と経済界の男性リーダーに貢献できる私のミッションだと思っています。

浜田 参加された男性リーダーの中で、他に変化が見られた方はいますか。

佐々木 昨年だとアシックスの尾山基会長兼社長CEO。尾山社長は打ち合せの時は「うちは海外ではダイバーシティがすごく進んでいるけれど、国内はなかなかそうはいかないんだよ」とおっしゃっていたんですが、打ち合せの最中にすでに女性活躍の目標数値を上げたんです。さらに、当日会場でさらに数値目標を上げられた。

浜田 佐々木さんは数社で社外取締役をされ、政府の委員もなさっています。企業は本質的に変わっていますか。

佐々木 変わってきていると思います。社外取締役はNEC、日本郵便、小林製薬、AGP、監査役が東京海上日動火災です(4月末現在)。企業が取締役や監査役に任命しているわけですから、そこで女性の話を聞かないことはない。

浜田 単なる「数合わせではない」と。

佐々木 もちろん。男女に関係なく意見を聞いているし、質問した事に関しては当然きちんと答える。企業経営をよくするためですから、どの社も相当真剣ですよ。役員に女性を入れることはガバナンスの上でも、企業成長のためにも大変重要なので、イー・ウーマンでも企業に候補者を推薦しています。

とてつもなく頑張った民主党政権

浜田 企業のトップは「ダイバーシティが進まないとイノベーションが生まれない」とは言うんです。でも、現場の管理職まで腹落ちしているかというと、なかなかそうではない。ダイバーシティの本質は単に女性の数を増やすだけでなく、いろんな価値観を持つ人を尊重し合うということだと思いますが、企業によって本気度にかなり差があると感じます。

佐々木 そうですね。私が企業で講演をするときに強調することはダイバーシティの目的は何かを明確に理解することです。一番の肝は、「ダイバーシティは視点の多様性」。女性のパーセンテージを増やすことではないのです。視点が多様化することで、イノベーションも生まれ、経営リスクが少なくなる。女性に限らず、多様な視点が入る方がより良い商品が生まれて儲かるし、チェック機能も働きます。

佐々木かをりさんと浜田敬子統括編集長との対談風景

日本企業も変わりつつある

今村拓馬

浜田 私も17年間、週刊誌「AERA」でダイバーシティの必要性を報じてきましたが、この国はドラスティックには変わりません。それでついこの国の状況を悲観的に見てしまうんですが、佐々木さんは楽観的ですよね?

佐々木 国際女性ビジネス会議は、実は10回でやめると言って1996年に始めたんですよ。「10年間で日本は変わるから、10年で女性会議はいらなくなるようにしましょう」と。9回目の時に、「日本はまだ変わってないからやめないで」と言われ、「そうね、じゃぁ20回までね」と。ただ、18回目の時かな。私もこんなにやっても日本は変わらないんだから、もうやめようと思ってたら、時は民主党政権。みなさんあまりご存じないんですが、女性活躍に関しては民主党政権がとてつもなく頑張ってくれたんですよ。多くの大臣に呼ばれ、お話しました。官庁から「佐々木さんが昨日言ったことで大臣のコメントが3分の2書き換えられました」という連絡が来たほど。その後、安倍総理自身が女性と経済を連携してくださり、一気に進みました。安倍総理は「国際ビジネス女性会議」にも2回参加されました。もうやめようと思っていたところでやっと時代がやって来た。

浜田 今、背中を押したい経営者はいますか。

佐々木 どの方も応援した い。男性経営者の体感を増やすことは私のミッションですから。「国際女性ビジネス会議」ほか、いろいろな場所にお招きしていると、ある社長は「4回来ると慣れて来た」って。私はそういうダイバーシティを体感している日本の男性リーダーを増やしたい。会社が、社会が変わるために重要なことだと思っています。

浜田 女性たちの前に来ると突き上げられるんじゃないかと身構える経営者が多いですが、もう少し率直に話すことが大切かもしれません。

佐々木 あるイベントで若い女性と名刺交換した時、彼女が「国際女性ビジネス会議に大学4年生の時に参加して、そこでNECの遠藤信博社長(当時)が登壇していたからNECに入社を決めました」って言ったんです。人材確保の意味でも、「国際女性ビジネス会議」に参加するなどダイバーシティの推進は、企業にとってプラスなんですよ。

※第22回国際女性ビジネス会議は2017年7月23日開催(会場:グランドニッコー東京台場)。詳細はこちら

国際女性ビジネス会議のfacebookページはこちら


佐々木かをり: 株式会社イー・ウーマンおよびユニカルインターナショナル代表。 国際女性ビジネス会議実行委員会委員長。 Webサイト「イー・ウーマン」を通じ、企業のブランドコンサルティング、コンセプト提案、商品開発などを行う。各地で講演や研修多数。

坂口さゆり:生命保険会社勤務、編集者を経てフリーランスライターに。映画や金融関連、女性のライフスタイル、人物インタビューなどを中心に執筆活動を行う。

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